謎がすべて解けるとき その3
本編はここまでです。次回からは延々と過去編をやっていきたいと思います。
「ちょっと待て、何で陣を描くと魔力に形が与えられるんだ」
「水を容器に入れることを想像しろ。凍らさなくても、ひとまず容器の内側の形にはなるだろう?」
ろう?と当たり前のように聞かれても、いまいちピンとこない。そんな表情を読み取り、魔導師はそれ以上の説明を省くことにした。わからなくとも話を進めないと、時間が無くなってしまう。
「ともかく。……陣を無理やり作って、消費される魔力をひとつの魔法として固定することに成功した。そう思ってくれ」
「お、おう」
「そうやって生まれた魔法が、消具。つまり消す具現化だ。概念から何から、対象を消滅させる。悪霊を倒せるとしたらこれしかない、今のところそういう魔法だ。『どうやら』俺はこれで消されたらしい。完全には消えなかったが、あなたがた言うところの『魂が欠けた』状態になり、もともと引きこもりがちだった主人格はほとんど消えた。……それを」
深いため息だった。うずくまり、顔を伏せたままの主人格を見やる。余計なことをしてくれた、と言わんばかりである。
「あなたがたが欠けた魂を他のもので埋め、さらには拡張までした。作り直したわけだから、健康な精神に――つまり一つの人格に一度は戻った。記憶も不完全ながら戻っている」
「……じゃあ何で、また二人に」
「こいつは俺の記憶を見た。そして、これが自分なわけがないと思った。しかし忘れてしまうには惜しかった。だから、『自分ではない』記憶と人格を俺に集約した。だから最初の質問には答えられなかったんだ。確かに俺は『実存の魔導師』として活動していたころの経験を持っているが、人格のほうはいろいろ混ざっている。第三次世界戦までの上っ面と、そのあとの書き換えられた人格をすべて統合したのが今の俺だ」
一番影響を与えているのは晩年の数年だが、それはわざわざ言うことでもない。瞼の裏に朝顔を見て、心なしか恨めし気に主人格を見る。
「こいつは……俺の仇でね。できることならこの手で、できるだけ苦しめて死なせたいがこのざまではそれもかなわん。処断はあなたがたに任せたい。実際に損害を被るのもあなたがただ」
「……」
上官は何か言おうとしたけれど、魔導師がまた不意に口を開いたので言いたかった内容を忘れてしまった。
「ところで俺が表に出てこられないのはこいつがどこかで頑張ってみようと思っているからだ」
頑張ってみよう、か。うずくまったままのニーチェをじっと見る。そうだ、自分が設計をミスったくせに、それでも頑張ろうって奴をハズレ扱いしたんだ。ごめんな、と小声で謝る。角が小さく震えた。
「と、俺も思いたいのだが、実は謎なんだ」
「願望なのかよッ」
目つぶしを繰り出したがホログラムな魔導師はすり抜けてしまった。くくくっ、と笑われる。何だか恥ずかしくなってその場の床に胡坐をかいた。くそっ、どのみち地味に腹立つ人格じゃないか!
「ああ、自覚はある。こうなった経緯を……話せるか?」
なぜ心の声を拾えているのかはわからないが、魔導師はまたニーチェに話しかけた。ふるふる、と金色が揺れる。話せないのだ。
我ながら情けないと彼自身も思う。だがここまでどうやって人と話してきたか自分でもわからない。どんな表情を作ればいいのか、どんな声を出せばいいのか、簡単なことのはずなのに手が届かない。燃え尽きた。
「仕方ないな。……記憶と食い違う部分があったら言えよ」
ゆっくり魔導師は息を吸い込んで、語りだした。
「それは、赤鬼と呼ばれていた」
三話連続で主人公が出てこないってどうなのかなあ。