謎がすべて解けるとき その2
前回に続きます。ミスリード楽しゅうございました。え?ミスリードになってない?つまり未遂リードってことですかね?
ちっと舌打ちして、魔導師のホログラムが残念な主人格をどやしつける。もしかしたらただ闇を増幅するだけかもしれないが、こうしておけばその場合も矛先が向くのは自分のはずだ。
「こら立てッこの卑怯者!昔とは違う、貴様の話を聞いてくれる相手がいるだろうがっ。俺だって何かのきっかけでもないと出てこられない、そこへきていつまでも自分の殻に引きこもっていてどうする!結局運命は自分自身でしか変えられんのだぞ、ええ」
怒鳴られたニーチェがびくびく震えるが、何も言うつもりはないらしい。そんな二人の姿を見ていると、欲しかったのはやっぱりこっちの人格だったんだなと再び実感した。
しばらくして諦めたらしい魔導師が振り向いてぺこりと頭を下げる。
「……すまん、まだ話せるような精神状態にないらしい」
「いや、お前が謝ることじゃねーだろ」
「この粘着系コミュ障詰め込み引きこもりも俺だ。謝ることだろう。あと……今日までさんざこいつに振り回されたろうが、こいつはこいつなりに、コミュ障なりにその……方向を見失っているとはいえ頑張ってはいたんだ。それはわかってやってくれ」
本命は辛辣ながらフォローもできる子だった。しかも会話が成立する……嬉しい!上官はひっそりと小さな幸せをかみしめるのであった。ああ、何だろう、涙が。
「……大丈夫か?」
「ああ、うん、ちょっといろいろと幸せを実感して……大丈夫だ。続けてくれ」
魔導師には上官の言う意味がいまいち掴めなかったようだが、大変だなと沈痛の表情を見せた。
「続ける。……上官殿、俺はあなたがた鬼に魔法についての知識がほとんどないことは知っているが、その『ほとんど』がどの程度か判断がつかん。少し気分を害されるかもしれんが、一つ一つ確認しながら説明する」
「それでいい。頼むよ」
「まず……具現化はわかるか?」
頼むとは言ったが、そこからかよ、と面食らった。さすがにそれは知ってるぜ。
「うん。物をこう、ポンと出す魔法だろ」
「うむ。ポンとは出ないのだが、まあいい」
出ないのか。上官はちょっとだけ心が沈んだ。夢がまた一つ現実に食われたのである。
「あれはものすごく燃費がいいのだが、出したものを消すときにも魔力を使う。つまり使用中に魔力が切れたら、ものを消せなくなるのだ」
「え、消えちまうんじゃねえのか……それ、数回使うだけで宇宙崩壊しねえ?」
「ああ、計算上はな。だが世界には元々緩めに作られている部分がある。たわんで、戻ってくるんだ。俺はこれを世界の弾性力と呼んでいるのだが、……大丈夫か?」
きめの細かい、弾力のある肌へ!何かのCMが耳によみがえった。弾力つながりだ。ニーチェと同じ色の瞳が上官を心配そうにのぞき込んでくる。
「へ、へーきへーき。気にすんなって。ところでさ、さっきから学者みたいなこと言ってるけど、魔導師ってのは研究もすんのかい?」
「むしろこっちが本業だな。町を破壊したり要人を挽肉にしたりは副業だ。ちなみにさっきの話は論文にまとめる前に俺が死んだからここでしか聞けんぞ。限定品だ」
「……そうか……何か、ごめんな」
「それこそ謝ることではないな。話を続けよう……この、出したものを消すときの魔力だが。正しくは、魔法を発動しているわけではないのに魔力が減る、不思議な状況なんだ」
「魔法使わなくても、魔力って減るのか?」
「もちろん普通は減らんよ。だから、ある王がこの消費される魔力に目を付けた。もしかしてこれはまた別の、一つの魔法が勝手に発動しているんじゃないか?見逃しているだけなんじゃないのか?」
「それが、また別の魔法だったわけか」
「ちょっと違うな。王室典範によれば……造物主が空間内の被造物に消えろという命令を発するための消費エネルギーということだが、何だっていいだろう。王はこの、謎の魔力に形を与えようとした。陣を描くことでな」
脳内を声が単語にならずに駆け抜けていく。ジールから見た世界ってこんな感じなのかな、と思って、それから意識を取り戻した。