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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
つわものどもよ
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言わんこっちゃない

 本編が続きますね。でももうすぐで回想が連続するようなのでこのくらいでいいのかな?って。

「えへ……僕、頑張りましたよねぇ……確かに勝てなかったけど……でも……」

「あーうん頑張った頑張った。喋っちゃだめだよ、ユング」

 なんだか死にそうな会話をしているが、青い顔をしてソファに横たわっているユングの症状は出血多量でも内臓破裂でもなんでもなく、熱中症である。

 体温を下げつつスポーツドリンクのお世話になっているのだ。原因は手合わせによると言ってもいいのか何なのか、長時間水分補給をせずに暑い中を駆け回っていたこととなる。

「水分補給って大事だね、ほんとに」

「……あれ……気が遠く……どうしたんだろう……世界が回って……ユニバァアアス!」

 いきなりシャウトした。この暑いのに頭を揺らしやがって。うるさい病人である。

「だから熱中症だよ黙れよ。はいこれ飲んで」

「うー……自分の声が頭に響く……」

「馬鹿か君は」

 幸いにして病院にかかるほど酷くはなかった。冷房を入れた事務所の中、保冷材であちこち冷やしながら奪われた水分とミネラルをとってもらっている。

 自己管理がなっていないとはこのことだ。あきれた助手だよ、と罵声を吐いて脇の下にさらに保冷剤を挟ませる。地味に喜んでいた。汗をかいた脇が妙にすべすべしていて戸惑う。

 そういえば6月に魔法を使って脱毛していたっけ。でもそろそろ毛が生えてくるんじゃないのか?イルマはそちらにはフェチシズムがないから体毛に詳しくない。

 だから知らないが、一か月半はどう考えても過ぎている。これでまだすべすべなのはおかしくないか?

 あれからまたやったんだろう。イルマは納得してもう片方の脇にも保冷剤を差し込んだ。

「日が落ちてもまだそんなんだったら病院送りにするから覚悟したまえ。あ、戻すときはこっちの洗面器によろしくね」

「はーい……」

 なお、コールは勝手知ったる他人の家とばかりに設備を使い、レアチーズケーキを作っている。レパートリーを増やしたいのだそうだ。できたら正月の上菓子も作ってもらいたい。無性に食べたくなる割に地味に高いのだ。

 だめだだめだ、あまりたかると神の怒りが降ってくる。自重しよう。


 結局、ユングは翌日には全快していた。病院に行く必要もなかったわけだ。

 今日の朝食は魔神の置き土産ことレアチーズケーキのようなものだ。レアチーズの部分に大量に気泡が含まれてしまっているし、クッキー生地はなんだかべちょっとしている。盛大に失敗したわけだ。それでももったいないから食べる。

 味のほうはそんなに悪くなかった。食感が終わっているだけだ。

「食感は終わってるんですね」

「事実を認めないでどうするんだい」

 牛乳で流し込むようにレアチーズケーキのようなものを食べ終え、何をするでもなく事務所のカウンターについて来客を待つ。冷たいカウンターの天板が気持ちいい。

 夏なんだから当たり前だが外の気温は30度を超える。師によれば冷房は28度より下げてはいけないとのことで、正直中も暑い。外のほうが涼しいんじゃないかとも思うが、今日はロランが来るはずだ。

 事務所が開いていなかったら平気でビルを破壊する人なので待っているよりほかはない。

「先生の師匠ってどういう人だったんですか」

 助手が暇に任せて質問してきた。過去形に少し当惑する。どういう人、か。一言では説明しにくい。狂っていて、どこか常識的で、イルマ自身にも彼を把握しきれていない。といって変という言葉でくくってしまうのは短絡的に過ぎる。

「……魔導師だよ」どうにかそれだけ絞り出した。「多分、それだけだ」

 ユングは明らかに理解していない顔だったがそれ以上は何も言えないのだから仕方ない。ちょっとだけ何をするでもなくパソコンをいじって、話題をすり替えた。

「今回の依頼がすんだら、海に行こうか」

 何の解決にもならないが今やり過ごせるならそれでもいい。やり過ごした先に何もない、それくらいわかっている。わかっているけどまだ前になんて進めない。向いただけでも許してよ。椅子の上で膝を抱える。

 察したのか諦めたのか、ユングはもう何も言わなかった。甘えてはいけないがありがたい。

 クーラーの設定温度を低くしすぎるとおなかが痛くなります。

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