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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
つわものどもよ
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ダンス・ウィズ・バッドラック その2

 回想の続きです。親が忙しい時にはちょっと苦手なおじいちゃんおばあちゃんに預けられること、誰にでもあるよねっ!

 法律の勉強をしながらちらっと隣で作業中のパソコンをのぞいたら軍の機密のようなものが、より詳しくは細菌兵器の開発がどうたら~みたいな画面が見えた。

 さっと目をそらす。こっちのがまずくないか?ていうかそれは官房長の仕事か?

 思い悩む少女はまだ知らなかった。葛南エメトという人物の『運のなさ』を。そして彼女はここから、彼に怒涛と襲い掛かる『不運』を目撃する。

「ねー弟子ちゃん、ネットサーフィンしてたらこんなの出てきたんだけどどうしよう?」

 仕事じゃなかった。ひとつ納得である。

 こわごわ覗き込む。数のようだ。ミサイルはいくつ作ってあって、うち核弾頭はいくつで、細菌兵器も考えてるけどーみたいな。まごうかたなき軍の機密事項であった。しかも、我が国のではなく、同盟国フィリフェルの。

 思考が一時停止する。

「なにしたの?」

「何もしてないよ」

 絶対何かした。一人でうなずいて画面を見る。フィリフェルのもので間違いない。

 しかし、同盟国よ、どうして管理しているコンピューターをネットにつないだ。どうしてそれにつながった。しかもなぜかコルヌタ語である。

「……えーと、暗号とかじゃなかったの?」

「暗号?」

 何のことやらわからないらしく、エメトは首を傾げた。無邪気な顔だった。そう、回し蹴りをくれて崖下に突き落としたいくらい。

「何か、最初文字化けみたいになってたから適当に押したらコルヌタ語になったの。変なとこ押したのかなー」

 つまり、適当に押したらコルヌタ語になってしまったと。大問題じゃないか。

「その画面、消せない?」

「うん、さっきから消そうとはしてるんだけど……フリーズしちゃったみたいでさ」

 フリーズしたいのはこっちだ。どうするんだよ。ちょっとした外交問題とかで済むのかこれは。エメトにさばききれるのか?ていうかセキュリティが何重にもかけられているはずだが、突破したのか?

「ちょっとわけわかんないな。最初から何が起きたか説明して」

「えっとねえ、仕事がひと段落したからネットサーフィンを始めたんだ。何て書いて検索したかよく覚えてないんだけどさ、そうしたら突然、黒い背景に赤い文字で『ウェルカム・トゥ・アンダーグラウンド』って書いてある画面になったんだ。それが何か、こう、大量のちっちゃいタブになって勝手に動くんだ」

 なぜ仕事がひと段落してネットサーフィンを始めるのか、なぜ検索ワードをろくに覚えていないのか、なぜ仮にも官営のPCのセキュリティが甘いのか、突っ込みたいところはたくさんあったが、そんなことしてたら年が明ける。

 ツッコミは簡潔にするべきだ。できる限り。

「それウイルス」

「でさあ、怖くなって適当にクリックしたら今度はえっちな画像がいっぱい出てきたの。びっくりして指が震えた拍子にクリックしちゃったのかな、ロックされちゃって、20万?って見えた」

「パソコンの身代金を取る詐欺サイトだね」

「女の子がいることだしこれじゃだめだと思ったら、またあの黒い背景に赤い文字のやつが出てきて、タブを閉じたらまた別窓が開いたんだ。大丈夫、別窓は普通の検索画面だったから」

「ウイルスと詐欺サイトが何らかの化学反応を起こしたんだよきっと」

「え、ネット上の情報って科学的なサムシングワッツなの?」

 ししょーみたいなこと言いやがって。うう、なんかもう頭が痛くなってきた。誰かこの人にインターネットの正しい使い方を教えてあげて。

「今度はちょっと気を付けて打ち込もうと思ったら、そこにマグカップがあるでしょ。僕が机を蹴っちゃったのかな、それが浮いて中身のホットココアが散乱しそうになったもんだから、まずい!と思ってマグカップでココアを全部受け止めたんだけど」

「なにその神業」

 それができて、どうしてこの事態を防げなかった。

「その時どうもキーボードに手をついちゃったみたいなのね。もっかい画面を見た時には女神教の聖典の文句がびっしりの海外のサイトだったんだ。しかも何かを押しちゃったみたいでものすごくアイコンが動いてたよ」

「テロリストの公式サイトで何をやってるの」

「でさ、何かそのアカウント?みたいなのにログインしちゃったみたいなのね。やばいと思って、画面を消したつもりが別のボタン押してたみたい。気づいたら文字化けの所にいたね。そっから先はさっき言った通り」

「長い道のりだったね……」

 聞くだけで疲れるイルマだった。葛南エメトは不運と踊る。踊りすぎだ。

「うん、こういうとき、どうすればいいんだろう。どうしよう、ししょー」

 状況を処理しきれなくなってうわの空で呟いたら、諸悪の根源がにこやかに笑いかけてきた。なんだよ、何見てんだよ。

「笑えばいいと思うよ」

「笑えねーんだよ!」

 結局、エメトが自分で何とかしたらしい。

 だが師が予定時刻を大幅にオーバーして帰ってきたので道具として使われた可能性が木星より大きい。そうですね道具は助けてもらった内に入りませんね。

 さらにイルマが帰るまでに機動隊が突入とかいろいろあったけど思い出したくない。あれ以来エメトは大の苦手である。

 苦手だと言っているのに、師は何かあると決まってエメトにイルマを預けた。

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