真理、再来
ずーっと本編が続くのっていいですよね。久々に話が進みます。伏線を張り続ける楽しさは決して読む人の楽しさとは限らないのね。
わかってるけど一見ただの日常回に伏線張るのめちゃくちゃ楽しいんよ……。
「おかえりなさーい。なに?彼氏?」侵入者らしき声がした。男。口調こそ若者らしく軽薄だが、声に若々しさは既にない。「それとも性奴かな?」
「なっ、何をっ」
ユングの動揺は何も彼氏呼ばわりの次が性奴だったことによるのではない。もちろんそこにこだわりがないというわけではないが、彼氏より性奴だろうがと思っているが、一番は自分が立っている場所である。
初めての隠密ではあるものの、事務所の内部からは死角になるところにしっかり潜んでいたのだ。加えて、ビルの前から一言もしゃべっていない。
いつわかったのだろう。
「冗談だよー。えっと、ユングって言うんだっけ?本籍はニザケ村。性別は男。現在16歳のはずだね。今はここで働いている。それ以外はほぼ何にもわからないね。一応こっちで調査したら半人で魔界にいたらしいってことはわかったけど、それも怪しいなあ。ニザケ村にいたころの君と今の君とじゃずいぶん違うしね、ほとんど抹消済みみたいな経歴だよ。わざとなら大したもんだ」
最初からだった。観念して両手を頭の後ろで組み、出ていく。イルマがふっ飛ばされた時点でユングにできることなど何もない。
ちょっとおろしたまえとイルマが騒ぐので仕方なく回収に向かう。潔く諦めようっていうのに何をしてくれているんだ。
「あれ、誰ですか」
降ろすついでに聞いてみた。イルマは嫌そうな顔をしている。ユングを促してさっさと事務所に入らせた。
「ししょーの保護者。元官房長、葛南エメト様だよ」
「元は酷いなあ」来客用兼入居者用のソファにのんびり腰かけている人物は、当初の予想通り男で、ほとんど老人の域に達していた。「次期と言ってくれよ」
一言で言えば年を取った伊達男。オールバックの髪はほとんど白い。何となく黄色みがかっているから元はブロンドだったのだろう。
老眼鏡ごしに柔和に笑いかけてくるラベンダー色。灰色のスーツは生地に不思議な模様が織り出されていて個性的だ。
「次期の後に何て役職をつけりゃいいんだい?私は政界に詳しくないからわかんないんだけど。総理大臣とか?」
選挙の結果はまだ出ていない。絶賛投票中だ。つまりイルマは「どこのポストを狙っているか?」と聞いているのである。
「うーん。じゃ、官房長で。きっと次もそうなるからさ」
地味に怖いことを言って、白い歯を見せて爽やかに笑う。
肩書、容姿、言動。どれをとっても目立つ人物ではあったが、何より目を引くのは彼自身ではなく、ソファの後ろにたたずんでいる何者かだった。
少々無作法なことを承知しつつも、ユングは好奇心に負けて聞いてしまう。
「『それは』何ですか?」
いや、者なんて人がましい呼び方をしてもいいのだろうか?
身の丈は3メートルを優に超していて、事務所の天井に窮屈そうに頭を擦っている。肩幅が異常に広く、足よりも太い腕が膝より下に下がっていた。巨人とも見えるが、その顔らしき部分には目も鼻も口もない。というか、顔がない。
より正しく言えば、顔はあるのだが小さく、全身に大量にあった。
偉人の顔。つまり、紙幣。200カウロ紙幣だった。長方形のコルヌタ銀行券が大量に合わさって巨人を構成している。
落ち着いて観察してみれば驚くほど前時代的な魔法である。道の舗装や民主的な法律の整備といった障害や、他の魔法の進歩に置き去られてカビが生え、苔むしていつの間にか忘れられた技術。
「『これ』?ああ、ゴーレムゴーレム。僕はこいつを作るのが得意でね。ってかこれしかできないんだー。邪魔なら崩すけど?」
「いえ、いいです。ちょっと聞いてみたかっただけなんで」
急いで否定する。本当にゴーレムだったのか。紙幣でも作れるのか。今でも作ってるのか。ていうか紙幣のゴーレムを崩したら大惨事にならないか?
「エメト……ってことはあのエメトですか?」
どのエメトかな?と笑う。
「武官としてのエメト家なら50年前に僕の父が死んでから断絶も同然だけどね。だってうちの一族磨きに磨いた戦闘技術は一部しか持ってなかったしその一部はみーんな引き連れて負け戦だもんさあ、あっはっはっは」
笑い事じゃない。ユングよ、なんてことを聞いてくれたんだ。めんどくさいぞーこのおっさん。冷や汗を浮かべるイルマに対し、エメトはあくまで楽しそうだ。表情から判断するに、の話だが。
より正しくは、目の前でテロリストに家族をバラバラ死体にされ、ついでに家も仕える国もなくなった名ばかりの貴族が、その原因になった出来事を楽しく思うなら、の話。いやむしろ楽しかったと思ってるだろお前はと言いたくなっても言っちゃだめ。すべてが終わる。
ともあれここまでの会話でユングの中の引っ掛かりは解けた。祖父は「エメトは全滅させた」と言っていたから生き残りが一人もいないものと思ってしまったが、武官としての家が全滅という意味だったらしい。
だとすればおかしな素材のゴーレムにも説明がつく。きっとイルマをふっ飛ばしたのはこのゴーレムだ。そもそもエメトという姓はゴーレムを操るところから来ている。
元になった単語の正しい発音は「エメス」に近いらしい。「真理」という意味になるそうだ。で、最初の一文字を削ると「死」になるとかなんとか。
あとがきは何か書くべきだろうけど出てこないので、私事でも。上の長文の箸休めにどうぞ。
ありんこの駄文は、
1、ワードで書き溜める
2、なろうでファイルを作り、そこに1で作った文書をコピーする。このファイルをいくつか作っておく
3、2をいじくる。改行を増やしたり誤字脱字を直したり描写を足したり、気づくものはやる。
4、投稿
という一連の流れで上げられています。2から3が大量にある場合、諸事情で元になっているデータが進んでいなくてもバカスカ更新できます。
しかし逆に言うと死ぬほど暇でも2から3をできてないと一話たりとも更新できない不思議な状況になります。よく私が言っている「書き溜めがない」は1から3のどれかが遅いときです。




