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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
緊急指令!働きながら引きこもれ
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侵入

 ハイやってきましたスーパーネタバレタイトル本編です。侵入されるしします。

 役場を出た時はもう最高にやさぐれていたイルマだが、事務所につく頃にはいつもの素直なサイコに戻っていた。それがいいことか悪いことかはともかく、ただいまーと一声、ビルの扉に手をかける。

「先生ったら」咎めるような響きはないが、咎めるようなことを言う。「まず鍵を開けなきゃ入れな」

 がちゃん、という金属音に阻まれ、彼が最後まで言い終えることはなかった。凍った顔の中に両目だけを大きく見開いて、固まっている。しかし魔界で培われた野生は健在だ。

 すぐに表情を引き締め、杖を手に周囲を警戒する。どうやら相手は人間らしい。どこから見ているか、何を使ってこちらを狙っているか、わからない。

 鍵を開けていないビルの扉はどういうわけか開いていたのだ。

「うん、いい反応。でもひとつ足りないね」

 助手の動きをあっけらかんとした口調で評し、「足りないって何が?」と言いたげな顔をぷにっと突く。それから、無警戒どころか遊びにすら見える足取りで自宅兼事務所へ踏み込む。

 扉には鍵穴を荒っぽくこじ開けて侵入した形跡があった。玄関口にもうっすらと靴跡が増えている。ならばおそらく中にいる。

 ほんのり笑みを浮かべているが、イルマの目にも一切の油断はない。事務所にも糸の結界はある。ごく細い、触れれば切れる糸を階段に、玄関に張り巡らせてここを出た。しかし、糸はどこも切れていない。

 つまり侵入者は、手荒に鍵をこじ開けて入った後、張り巡らされた目に見えるか見えないかの太さの糸をすべて丁寧に躱して、靴跡にはほとんど気を遣わずに上がり込んだということになる。素人なのか玄人なのかわからない。

 行動に整合性がないのはまあいい。イルマだって手荒なことをした後でちょっと丁寧にしたくなることもある。だが、問題は敵の人物像というか、実力というか、そういうものの目測がつかないことだ。

 もちろんつけた目測が外れていれば損でしかないが、そこはかつての最強に師事していた病み魔法使いの弟子。相手の実力を測る正確さにおいて誰とも並ぶつもりはない。

 しかし、というか、だから、というか。

 今の状況は、目測をつけるのに情報が少なすぎる。まずこの整合性のなさを素でやっているのか、作為のもと行っているのかもわからない。作為のもと、の方に一票だが、素である可能性が消えたわけではない。

 ユングは何も言わず、背後に警戒しながらついてくる。

 甘やかされた坊ちゃんという印象は中身に即していて、技量は高いと素直に言えるが魔界育ちにしては戦い慣れていないこともわかっていた。しかし、さすがに修羅場には慣れているようだ。ひとつ安堵する。

 まだ伸びしろはあるなんて悠長なことは今言うべきではない。

 そっと壁に背中を擦るようにして、少しずつ階段を上る。足跡。集中して見ればどれが侵入者のものか判別できた。まっすぐドアへ向かっているのを見た時、音を立てずに手を打ち合わせた。

「あ、わかっちゃった」

 そのまま、さっきまでの警戒ぶりが嘘のようにドアを開け放つ。

 開け放って一歩踏み込み、そのままくの字に折れてふっ飛ばされて壁に激突し、出ていた釘に引っかかって襟首をつかまれた犬のような顔をする。

 もももも、と小さく足掻いてから、おろしてーと助けを求めた。

 お坊ちゃんことユングはさすがに訳が分からずぽかんとしている。

 今、イルマは侵入者の正体を知って、それからドアを開けて、入ろうとしたら吹っ飛んだ?じゃあ敵は中に?でも、敵と知ってあんな無謀なことをするとは思えない。では敵ではない?じゃあどうして今吹っ飛んだ。

 なんかまた変なことやってる……。

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