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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
緊急指令!働きながら引きこもれ
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THE☆後始末

 本編です。ちょっと短めなのはご愛敬。いつだって来てさえくれればこのクオリティでお迎えします。多分。

 町内を回ってくるのは、苦行以外何者でもなかった。もう誰も覚えていまいとイルマ自身思ったし、実際覚えている人はいなかったが、人の脳とは恐ろしいものである。

 誰も彼もがあの狂気に満ちた忌まわしい記憶を胸の底に抱いて、下劣でいかがわしい哄笑を己が骸の陰に隠しているとすら感じた。

 お疲れである。

「仕事に関わりないんだからいいじゃないですか」

 ハクトウ町役場のロビーにて、ユングは雇用主の背中をさすった。関わりあるんだよ、と思う。戦士は体が資本。投資家は通貨が資本。魔導師は魔力が資本。資本の魔力は精神状態に大きく影響を受ける。

「別にあんなことくらいで信用がなくなるわけないでしょう?実際、被害もアンラッキードラゴンが突っ込んだ電波塔以外は場末のパチ屋の看板だけだったんだし」

 これってかなり少ない被害でしょう?真剣な顔をしても駄目だ。黙れ諸悪の根源。その顔に騙されたんだ。もう二度と信じるもんか。

 イルマはやさぐれモードで役場のソファを立ち、さくさく前を歩く。問題の書類はさっき出した。血と怨嗟の結晶である。

 ここは用済みだよ、とともすればソファの下に爆弾でも置いていきそうな声音で吐き捨てて、役場を後にする。後ろで窓口のおばさんがソファの下を確認しに来た。今出て行ったのがどこぞの病み魔法使いならともかく、人を疑いすぎるのではないかな。

 外には諸悪の根源と一緒に乗って来た師の形見がひとつ、立派なバイクが停めてある。それを死んだ魚のような瞳で一瞥し、ちょこんと後ろの方へまたがった。

 追いついてきた現在の持ち主は、ぶうっとむくれたままの少女に苦い笑みを向ける。

「でも乗るんですね?」

「歩いたら疲れるだろ。さっさと事務所へ出発したまえ」

「はいはい」

 返事は一回なんだよ。心にささくれがあるから言葉には棘が生える。ほどなくしてバイクは走り出した。

 交番の前を通るが、二人乗りしてもいいやつだから全然平気である。ちょっとだけ気分が良くなった。公権力に逆らってみたいお年頃なのかもしれない。世が世なら、バイクに乗ってヒャッハーしていたのかもしれない。だがそれはどんな世だ。

 びっくりするほど大きい黄色い花が咲いているのがちらっと見えたけど、バイクを自分で運転しているわけではないから止まって眺めることはない。

 花の下の花壇にごく最近掘り返して、長辺が1メートル半から2メートルくらいの物体を埋めたような跡が見えたが、さほど気になる用でもない。後で警察にでもタレこんでおけばいいだろう。それだけのことだ。

 スピードが出ているときは必死で前にいる運転手という名の安全バーにつかまっているからあまり気にならない蝉の声が、信号に止められた瞬間に必死で追いかけてくる。

 いつも行くスーパーの脇の細い道を通って、たまにマントとかを出しに行くクリーニング店の前に出る。この店はおばさんがひとりでやっているらしくて、しかもたまにしか開いてない。気楽な隠居が道楽でやっているんだろうと師が言っていたのを覚えている。

 尻尾の巻いた中型犬を近所のおじさんが散歩させていた。本日2回目、多分今週なら23回目の散歩だが、犬は嬉しそうについて回っている。何とものどかな光景だ。

 遠くに朝顔ビルヂングが見えて来た。周りのビルと同様に薄汚いが、この季節には朝顔が絡みついているから遠くからでも見分けがつく。もうすぐ昼だがまだ咲いているようだ。

 今年は白いのと赤いのと、青から紫にグラデーションがかかるのと、何の変哲もない桃色だけど花びらに切り込みが入っていて、ラッパみたいな朝顔の花が五枚の花弁を持っているみたいに見えるのが混ざっている。品種はもう把握していない。何だっていいんだ。

 朝顔を好きだった人はもういないのだから。

 資料請求まではいいけどそれを読む時間がないぜ。

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