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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
緊急指令!働きながら引きこもれ
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作業ゲーですが何か?

 本編です。ちょくちょく時間が飛びます。

 台風は七月の間に二度、帝都に来た。

 が、せいぜいワイバーンがキリキリ舞いしながらパチンコ店の看板と一緒に飛んできたのと、距離を取ろうと後ろに下がった結果、増水した川の手前まで追い詰められていたのがヒヤッとしただけで、大して困ったことはなかった。

 前者がヒヤッとしたのは「あっ看板に結界張り忘れた」という一点だ。実際には店の方がまさか看板は持っていかれまいとフラグにしか見えないたかをくくって依頼しなかったということだ。取り越し苦労に苦い草が生える。

 ユングは半人なだけあって感覚が鋭く索敵に便利だったし、相手が雑魚ならさほど足手まといのストレスはない。

 でも大量の雑魚を屠り続けて一番すり減るのは、やっぱり精神面だった。間違いない。元々頭がおかしいあの師だってさらにわけのわからないことを口走りだした。

 それを考えれば、自分だけは大丈夫、という謎の自信は砂上の楼閣どころではない、空中に浮いている犬小屋だったということくらい、すぐに分かったはずなのに。

 わかってさえいれば、こんな馬鹿げた状況に追い込まれることは絶対になかった。断言できる。

 ことの発端は、何気ない一言。

「なんかさ、つまんないよね」

 七月二十日。

 工場のベルトコンベヤで流れてくる部品を際限なくくっつけていくだけのお仕事をしている人のような表情で人面鳥を屠りながらイルマは言った。流れ作業の人みたいに最後に何か製品が完成すればいいのだが、この行為の意味は、足元に転がる無数の死体がまた一つ増えた、ただそれだけだ。

 問屋に売れて経済的には大助かりではあるものの、30度を超える気温のせいでもういくつかは悪臭半端ない。腐った死体はただ同然で問屋に買ってもらって、田舎の農村で半分以上魔物に持っていかれる農産物の堆肥になる。

 七月も半ばを過ぎた今、うだるような暑さがリハーサルを終えて本番を始めていた。湿度も高い。

 こちらは服の下になっている腕や胴にはあまり干渉してこないが、外に出ている顔や首、ブーツから半ズボンまで靴下だけの太ももはまるでお風呂に浸した濡れタオルをべちょべちょと巻きつけられているみたいだった。濡れタオルと違うのは、体温を奪っていってくれないところである。

 異常気象など歯牙にもかけず、コルヌタの悪名高き温暖湿潤気候は絶賛本領発揮中だ。いっそ焦熱湿潤気候と言ってやりたい。

 あまり気温が高いと蝉は鳴かなくなるというのは何だったのか。音の種類といい大きさといい、脳みそを頭蓋骨ごとかき氷機で削られているような感覚だ。もうこの声を聞くだけで暑い。きいっと叫びたくなってくる。

 さて足元の人面鳥、これなるは読んで字のごとく人の顔をした鳥に似た魔物。人面部は個体により特徴が異なり、しかもオスとメスで髪の長さが違う。謎の高めの再現度だ。

 強い魔物ではないので、大移動でも途中で他の魔物の食料になってしまうことが多く、神聖大陸ではまれにしか見られない。しかし、貿易大陸にはポピュラーな魔物の一つだ。

 たとえば、山で迷ったら建物が見えて来た、その前に人がたくさん並んでいて、記念撮影でもしているのかと思ったら全部人面鳥だった、迷い込んだのは観光地じゃなくて人面鳥の巣だったのだという笑い話があちこちで聞かれる。そして大体一緒に迷った仲間の一人が事故でお亡くなりになっている。

 しかし、不運をもたらす魔物でもなければ、タコみたいな赤ら顔のおっさんが話を盛っているわけでもない。魔物の被害で死んだ場合、貿易大陸の多くの国では事故死という扱いになるだけだ。

 神聖大陸の方へ行くと魔物による殺人とかいう枠になるらしいが、こちらではこういう計算がスタンダードだからわざわざその説明はされない。

 この話からも分かるように、いつもは森や廃屋といった止まり木になるようなものがあるところにコロニーをつくって集団で生活している。天敵への防御策らしい。

 ほとんど鳴かないが、繁殖期である秋には人間の断末魔のような声で鳴く。これには求愛と、子育ての時期だけ作る縄張りの主張を兼ねている。短歌を詠むときはかならず「もみじ」や「おちば」などの縁語の近くに来る、定番の季語だ。

 肉には強い酸味があるが、慣れればどうということはない。酸味を生かしておつまみにしたり、甘い衣をつけて子供のおやつにしたり、何でもありだ。羽は羽で、色々に染めて、募金をするともらえて、小学生の名札なんかにくっついている。

 翼を広げた大きさは大人が二人手を広げて当たらないように並んで立っている程度。幼稚園児をたまに攫って食うくらいで害の少ない魔物だ。

 人面鳥のように害のない魔物は本当はできるだけ殺さずに飛ばすよう教えられるが、二週間以上続くと人の心にはそんな余裕は残らない。濁った眼で撃ち落とすか、杖でメッタ打ちにして全身の骨を折る。

 死ね死ね死ね、である。

 目標をセンターに入れてスイッチ……目標をセンターに入れてスイッチ……目標をセンターに入れてスイッチ……目標をセンターに入れてスイッチ……を、ファンタジーでどうぞ。

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