耽美な食卓 2
本編です。字数の関係でやむなく分割したお尻の部分です。ぼんじり!
生きている二人だけでなく、料理を担当した死者も黙々と口へ運んでいるのが異様といえば異様だった。
さて何となく予想はつくだろうと思うが、ここまでイマイチだのおいしくないだの味の巨大化だの散々に言われているのは昨日電波塔に突っ込んで死んだアンラッキードラゴンの精巣である。南無!
もちろん、設計ミスを指摘されている魔神からしてみれば最強の生物として設定したものであり、食べられることなど予想していない。彼らの文句はお門違いもいいところだ。そんなことはわかっている。それでも上位種は上位種ではないか。まずいのはどうなんだ。
「肉の方は期待しておきたいところなんですがねえ、この分ではちょっと……」
「そうだねえ。ごめんね、アルバートさん。超一級のお肉を調理させてあげるって喚び出したのに」
「構わないよう。普通あんなの超一級に違いないと誰だって思うし、君のせいじゃない。久々に大きなお肉……ってか内臓で楽しかったし、満足満足。謝るほかに言うことがあるんじゃない?」
さて、この食卓にいるのは生きているのが二人と死人が一人である。まず我らが主人公、イルマ。ポンコツな助手、ユング。最後に死体がひとつ、契約相手を全力でフォローしている。窓の外にはしおれた朝顔。今年は白が多いから茶色くしぼんでいる。
どこからどう見ても朝顔ビルヂングの和やかな夕飯時の風景である。
本日も仕事は腹が立つくらい単調だった。雑魚ばっかりだから当然だ。雑魚ばかりなのも当然で、強い魔物なら魔界であぶれて人間界へ飛んで来ようはずもないのである。
しかし問題は物量。どこから出たのかというその量だ。昼の間は休憩などほとんどとれない。否応なしに疲労が重なっていく。夕飯時の団欒は実は貴重なのだ。
「うん、そうだね……次こそ、いいお肉準備するから!」
「よしきた!地獄で待ってるよ!」
たーんっ!謎のハイタッチをかわして、死者を地獄へ還す。仲良きことは善きことかな。しみじみと出汁を飲む。やがてユングがぽちっとテレビをつけた。
この時刻なら大体どこのチャンネルでもニュースが流れているのだが、今日はさらに間のいいことに天気予報が映った。
「明日、台風が来るらしいですよ」
「まじで?……一日中死者の皆さんに出といてもらおうかなー、台風の日なんかに働きたくないよう」
「僕らに仕事を選ぶ権利はありませんよう、先生。雨にも負けず風にも負けず食い詰めず!おじいちゃんの名言集です」
「いいこと言ってるんだろうけど、君に言われてもあまりねえ」
天気予報の後は緊急ニュースだった。天気予報士のお姉さんがクロコダイルとかいう麻薬を使って捕まったらしい。ダメゼッタイが連呼される。
それにしても最近は薬物系の事件が多い。しかも有名な芸能人ばかり。不思議である。
「コルヌタだけがそうなのか、世界全体がそうなのか、どっちだろうねえ」
「さてね。でも僕は世界全体ってことはないように思いますよ」
この話に珍しい前向きな意見だ。ポンコツな助手、時々はファインプレーも見せるらしい。ふと席を立って、白ご飯とおすましをもう一杯取ってくる。あんなんじゃ、とてもじゃないけど足りやしない。
戻ってくると白子をまた一口、つるりと飲みこんだところだった。あの長い舌は、ものを噛むときに一緒に巻き込んでしまわないのかな?
「だって少なくとも魔族は麻薬の効き目がありませんからね。一番の楽しみは戦いですよう」
「そういうことか……」
世界全体というのは魔界を入れての話で、つまり人間界は見捨てられていた。前向きとは何だったのか。頭痛が鈍く響く。
「でもほんとのところは、有名人の薬物ネタを警察が温存しておいて、政治家とかの不祥事に重ねて片づけることで国民に与える印象を操作しているんじゃあありませんかねえ?」
ユングがそう言った時、イルマはちょうど口に食べ物を入れたところだったから、何も言わなかった。だから、噛んで飲み込んだ後、流れ続けている動画、続いてのニュースを見てから答えた。
フラッシュの点滅で斑に白いその画面には、金髪が半ばまで白くなった初老の男が、取材陣に内閣総辞職を告げたところだった。やじと質問が飛び交っているが、変わらない微笑で爽やかに受け流している。
「そうかもねえ」
内閣総辞職。つまりみんな辞めるのだ。でも何でこうなったんだっけ。理由はよく覚えていない。大して興味がなかったんだろう。
「ときに君、君は私が怠けようとすると働かせようとするくせに、働こうとすると怠けさせようとするよね。瓜子姫にヘイトでもあるのかい」
「え?そうなんですか?」
「自覚なかったの?」
助手は深く頷いた。呆れてものも言えずに見つめる。
おいしそうに書けたかどうか、それだけが心配です。