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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
少女よ、生き抜け。
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巨大化

 最近更新が速いのは、やっと書き込むのに慣れてきたのと書きためていた分がまだあるからです。本来筆は遅い方です。ストックがなくなったらどうしよう。ある程度コピーアンドペーストで書けるけど、自分で書いたものをもう一度別の媒体で見直すわけで、ここは直したいとか、ここは書き足したいだとか、わがままが多いです。

しかも、元のストックは章で分けたりしていないからキリが悪いというかキリのいいところで抜きだしたら長かったり短かったり、頭が痛いものです。

「これは大きいね」

「これも遺伝子のなせる技でしょうかねえ。ドラゴンみたいですよ、まるで」

 三倍体の魔物を前に、イルマとユングは和やかに談笑していた。魔物は猫がネズミを狩るように30半ばのおっさんを前足でちょいちょいと払っている。

 前足の爪は大人の腕ほどもあり、頭の上までは30……いや50階建のビルくらいはあるだろうか。背中にはまた巨大な羽がぴこぴこと動いているが、どうやら大きすぎてある程度以上より高くは上がらないらしい。飛べないじゃん。

「これ、新種じゃない?生け獲りにして帝都に送ればがっぽがぽだよ」

「いいえ、資料にあった通りですよ。既存の低級です。サンプルくらいは持って帰った方がいいかとは思いますけど、生け獲りなんてしたら怒られるレベルです」

 これはハネツキトカゲと呼ばれる魔物で、本来は小型犬くらいの大きさにしかならないのだが、そして飛びながらひたすら付きまとってくるウザさでドラゴンと巨人を抜いて出会いたくない魔物ランキング堂々の三位なのだが、はて、これはいったい何百倍の大きさになるのだろう。

「えー、でも三倍体って言ったって実際ここまではならないんじゃないの?」

「サケやマスみたいな普通の動物なら確かにそうですよ。でも、基本的に魔物が老いて死ぬことはありませんし、低級魔物なら死ぬまで成長し続けますから。こいつは、ここまで何年も何十年もうまく隠れていろんなものを食べてそれでこうなったんでしょう」

 狩られるネズミことヨーゼフは魔法を使って身を守るのに手いっぱいでこちらのことになどは気付いていない。周囲への警戒が足りていない、減点20。

 はーい駄目人間さんこんにちは。

「うまく隠れて、それで大きくなりすぎて元の餌じゃ足りなくなって里に降りて人とか襲ったのかな。死者が5人くらい出てたし」

「でしょうね……大した知能のある魔物じゃないですしね」ユングは静かに少しずれた黒縁眼鏡を押し上げた。枠が太くてレンズが大きいから反射してその表情は隠されている。

「大きくなるだけで、強くなることもない……自分の在り方に絶望を覚えたというのは、僕の勝手な感傷ですか、ね」

 絶望か……そうかもね。上の空で答えた。ユングが、というよりも魔族がこんな風に『弱者』をいたわるなんて聞いたこともない。

 力がすべてという考え方自体も人間の認識しているものとは異なるのだろうか。イルマは十体以上の魔物と契約、使役しているがよくよく考えてみれば彼ら自身の話を聞いたことはあまりない。

 今度、皆呼び出してゆっくり話そう。

「さて、まずはどうやってネズミさんを助けましょうか?」

「助けるのはいいんだけど、相手が大きいからね……全身をとらえておきたいから、あまりこの位置動きたくないね。でもあの通り大きいから先倒しちゃうとおじさんが圧死するよ。頑張れば近寄ってもどうにかなるけど……正直言っておじさんが邪魔なんだよね。私の魔法は威力が大きいから」

 もう魔物を倒すことを考えてるんですか、っていうか魔法外すと思ってないんですかとへたり込んでいるアロイスが呆けて言った。眼鏡の奥の瞳がニヤリと笑う。

「狙った所にだけ当てるのは修行の初歩だよ、精進したまえ!とおっしゃっています」

「何でユングが言ってるの?その前に何でわかったの?」

「先生の師匠の教え方や行動原理が、うちの祖父と似てるので推定してみました。あってたんですね?」

 ししょーの名前はサド(仮)。いや、そんなはずはない。人を串刺しにしたり盗賊団をアジトごと灰にしたり残虐性があるだけで変態ではなかった。

 ヴラド(仮)のほうが合っているんじゃないか?

「おっと、話がそれたね。ユング、おじさん救出してくれる?実戦の感じも見たいし」

 了解、と言ったか言わないかでもう彼は動きだしていた。

 けっこう速い。もしかしたらゴーサインをずっと待っていたのかもしれない。茨を使わないようにとは言い忘れたが、どうにかそこは嘘八百でうまく乗り切れるか?

「あ、どっか違うとこに注意を向けさせて、その間におじさんを逃がしてる。何だ、意外に慣れてるじゃん」

 そのあとは適当に応戦した後追跡を振り切れるくらいの速度で姿を消し、遠回りして高台に帰ってきた。我ながら優秀な助手を持ったものだ。

 小汚くなったヨーゼフが半泣きになりながらものそのそついてくる。彼の表情をのぞけば感動の再会だ。

「……ユング、何言ったの?」

「格の違いというものを言い聞かせてみました。大丈夫ですよ、骨までは刻んでません」傷は残るかもしれないけど、とこともなげに言う。

 祖父秘伝の言葉の暴力というやつだ。「それより、いいんですか?あいつ、エサが逃げたから本気で探し始めてますよ。あ、感づかれた。すぐ見つかりますよ」

「ああ、それは……え?魔物の心が読めるの?そんなこと言ってた?」

 言いませんでしたね。当然のように悪びれもせず頷く。

「少しなら。けど心と言うよりは、表情と言いますか。なんかこう、漠然としたものですから言うほどのことでもないかと思って」

 言うほどのことだよ。ユングが来てからはお決まりの頭痛がぼーんと鈍く頭の中で響いた。魔族混じりだからなのか本人の才覚なのかは分からないがその少しは一般的に言うとすごい部類なんじゃないのか。

「そういえば……おばあちゃんと同居してたんだよね」

「いやだな、同棲なんて!いくら未亡人と言っても先生、僕にはそんなことまで望むような傲慢さはありませんよ!っと、そんなことより!見つかっちゃっていいんですか?」

 へえ、同棲したかったんだ。未亡人好きなんだ。

 ちらっと性癖のようなものが垣間見えた。そのことは言わずに見つかってもいいんだよと答える。足手まとい要員三名のうちの誰かの足元から小枝を踏み割った音がした。どこまでも、足手まとい。

「だってさ、多少は大きいと言ってもせいぜいハネツキトカゲだよ?下級魔物に変わりはないんだし、この程度のハンデはあげてもいいんじゃないかなあ。……それに」

――私、ちょっとはユングのおじいちゃんを見習おうかな。

 イルマと目があったトカゲが咆哮と言うには少々お粗末な声を上げる。静かに杖を振りかざした。背後の悲鳴など気にも留めない。ゆっくりと魔力を練り上げていく。使う魔法はこの時点でイメージが始まっている。

 次に、練り上げた魔力を杖へと流し込む。

 宝玉に集中させると、ただの水色がかったガラス玉にしか見えなかったその玉が赤黒く色を変え、強く輝き始めた。ただのガラス玉ではないのだ。よく知らないけど、この宝玉は使用者の魔力の三分の一を吸い上げて封印する。

 後の三分の二で魔法は発動するし上限などはないらしいので何かあった時のために溜めている。ちょっとがんばったら放出できるらしいし。

 赤黒い光がゆっくりと引いていく。トカゲはもう目の前だ。宝玉が完全に元の色に戻ったことを確かめる。

「――ふぁいあ!」

 謎の掛け声とともに、少なくとも炎だけではない何かがトカゲを包み込む。炎と、雷と、風と、保護の魔法。後は放っておけば勝手に問屋に売れる牙や皮を残して燃え尽きてくれるだろう。はいお仕事終わり、と杖を下ろす。

「協奏……!」ヨーゼフが熱風から顔をかばいながら言った。よくよく見ると好みのタイプの中年だ。でもまだ哀愁が足りないかな。

「実存が、実存の魔導師が生きていたとでも言うのか!?」

 生きているわけないだろうが。大体、私女の子だし。現実を見ろ、ボケ。むっとして慇懃に皮肉を含めて答える。

「いいえ、ししょーは死にました。私は弟子のイルマです。あなたが騙そうとして、失敗したイルマちゃんです」

「すいませんでしたぁ!」

 いい年のおじさんが、ジャンピング土下座を決めた。ふう、と笑ってユングの方へ向き直る。

 魔族系男子の助手は今の技に興奮して目をキラキラさせていた。あんな物々しい名前ではあるけど、要は複数の魔法を同時に発動するただそれだけの技術でしかないから、あまりほめられたものでもないと思うんだよなあ。

「凄い!凄いですよ先生!ハンデまで与えて、一撃のもとに倒す!それでこそ僕の知る魔導師の姿ですよ!」

「なるほど、私の日常生活にちょっとがっかりしてたんだね。ごめんね」

 ファンタジーさんが息を吹き返した。奇跡である。

「でも、それにってなんだったんですか?」

「えへへへ。秘密ー」おどけてそっぽを向いたら後ろで待機していた足手まといたちが腑抜けた顔をしてへたり込んでいた。ヨーゼフはまだ土下座の姿勢だ。「……やりすぎた、かな」

「大丈夫ですよ、人間追いつめても号泣したり気絶したりするくらいです。そう簡単には失禁とか嘔吐はしませんから、掃除はまだ要りません。するとしてもボロ雑巾ならそこに三つ転がってるわけですし」

「えっ何それどういうこと!?」

 ショックから最初に復旧したのは無口くんことニルスだった。そうはいっても顔は白色コピー用紙みたいな色をしている。

「あの、……自分、奴隷人形……なります」

「だからしないってば!するわけないじゃん!」

 隣から「いいじゃないですか、奴隷の自覚があって。せいぜいウドの大木は大木なりに使いつぶしてやりましょう」などという恐ろしい言葉が聞こえた。なるほど、イルマにその気が無くともユングにはありふれているのだろう。

「ユング!?許可しないからね!」

 不許可でも構わないという顔ではいといい返事をする。大丈夫なわけもないが、大丈夫なのか?この助手はちゃんと見守る必要がありそうだ。見守ってどうこうなるとも思えないけど。

 しばらくして巨大ハネツキトカゲが燃え尽きたので皮と牙を拾い集める。なんか思ったより軽い。三倍体でも巨大化しても下級は下級なのか。

 町に持って降りたら問屋に連絡してトラックが来たら受け渡して代金を受け取って……とここまで済ませたところでファンタジーさんが発作を起こして倒れた。せっかく息を吹き返したというのに、本人もきっと無念であろう。

「はあー、一仕事したって感じだよー。ホテルに帰ってお風呂入って寝たい」

 そして自分のでいいからシャンプーの香りでクンカクンカしてスーハーでほげえええ!ってなりたい。言わないけど。

「まだですよ。先生ってば午後は午後で仕事一つ取ってるでしょ?えーと霊媒のお仕事でしたっけねー。忘れちゃだめですよう。約束は守りましょうね、僕たち社会人なんだから」

「もー、ユングは堅いよー。じゃあさ、お風呂。お風呂だけっ。砂まみれだし」

「そう言って寝ちゃう人はいっぱいいるんですよう。休憩時間などはどこにもありません!ふははははは!さあ働け社会人!身を粉にして!骨が砕かれるとも止まってはならん!」

 そして社会という名の歯車の中で朽ち果てよ!大声に驚いたのかどこかで鳥が飛び立った。芝居がかった姿勢で歌舞伎役者みたいに見えを張っているユング。なるほどマゾッホ(仮)のモノマネだろう。

 今度、どんな人だったか詳しく聞きたいなあと思ったその時、脳の中でピロリンという音がした。

「お、フロイトさん洞窟探検終わったから今から村に戻るって」

「テレパシー系の魔法ですか?でも、あれってそうやって話すのは理論上不可能なんじゃあ」

「うん話してないよ。前もって連絡する時の合図を決めてただけだから」

 なるほど!ユングがまた子供みたいに目をキラキラさせる。繰り返すようだがただの工夫で凄い技を使っているわけではない。

 ほら、あるじゃん。野球とかでもキャッチャーがサイン送ったりするじゃん、と思う。モールス信号とかもあるわけだし。

「――すまなかった!」

 息を吹き返したヨーゼフに改めて謝られた。謝罪なんかいらないと思ったが、よく考えてみれば魔導師は信用で成り立つ職業。彼にとっても必要な儀式だろう。

「思いもしなかったんだ……あの、実存の魔導師に弟子がいたなんて。偏屈で、弟子の一人も取ったことがないと聞いていたから」

「うん、ししょーはすごく偏屈だったよ。お母さんの書き置きがなかったら、私も弟子になれなかったかもしれない」

 お父さんの手前、ずっと黙ってきたけれど、あなたは実存の魔導師さんの娘です。駄目なママを許して。

――大ウソだった。

 魔導師にも正直心当たりはなかったが元同僚に強制される形でイルマを引き取って、後ほどDNA鑑定をしたらやっぱりそんな事実はなかった。なかったけど引き取ってしまったのが運の尽き、弟子としてイルマを養育する羽目になったのである。

「だけど、すごくいい『師匠』だった。面倒見もよかったし、ね」

 目を閉じて、少しだけ思い出す。そう、浸らない程度に。

――ししょー、朝だよ!おっはよー!

――ぐぁはっ!?

 ベッドから蹴落とされた魔導師がしばらく床を滑って動かなくなった。

――ご飯まだー?

――ああ……しばし待て。

――遅いんだよ!

――っ!?足を踏むな!

 ……。

(うーん、面倒見はよかった、かな。面倒見は……)

「面倒見がいいだって?聞いていた話と大分違うな」ヨーゼフは角刈り頭をざりざりとかき分けた。「俺が聞いた話ではもっと外道ちっくだったんだが」

「え?そうなの?」

 イルマの知る師の姿はあくまでも駅前の病み魔法使いだ。ただの病んでるおにいさんだ。得意料理、某お料理サイトでレシピを検索したフレンチトースト。

「黄金の髪に白き面の怪物、実存の魔導師。九つの尾を持ち、そのすべてに一体ずつ強力な手下を持つという化け物だ。そして今は、この国の地下に封じられていると。まさか……あんたも」

「ちょっと待ってよおじさん、金髪で色白な以外なんか違うよ。混ぜちゃだめなやつだよそれ」

 風評被害だー、という師の声がどこかから聞こえた。視界の端で問屋のトラックが去っていったまるで車の通らない国道572号線のアスファルトに揺らぐように黒いマントが翻る。振り向いた。

 誰もいない。

「本当か?本当に、人間だったのか?」

「ただの人間だったよ!尻尾なんかなかったんだからね!」

 そして普通に死んでいる。そういえばユングはどうしたかな、と少し離れたところに目をやった。そこにもベンチがある。

――口からよだれ垂らして寝てる!

 やれやれ、と思った。フロイトには戻るのを少し遅らせるように連絡しておく。あまり、自分が喚べる死者を、手の内を見せたくはない。敵に回った時に厄介だ。

 いや、そもそも仲間ですらなかったか。最初からみんな敵だ。

(うん、私には、ししょーがいればそれでいいから)

 小さく自嘲の笑みを浮かべた。

 投稿できる時にできるだけしていきますので、どうぞ、よしなに。最近になってブックマークが何かちゃんと知りました。つけてくれた人、ありがとうございます。長かったり長すぎたりするけれど、頑張ってもっと短めにしていきます。

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