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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
蝉時雨
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真理の来訪

 引き続き回想です。イルマが今の人格になった一因が明らかになるかも?

 よりによって――こういうことはいつもよりによるのだが、事務所のドアが開いたのはちょうどこの時だった。まずい。

 この事務所内は呆れるほど月並みな配置で、ドアを開ければ廊下から部屋を突っ切ってカウンターが真正面だ。そこからうかがえる主の働きっぷりは……居眠り!居眠りである!

 たかが居眠りとお笑いだろうが、居眠りというのはひょっとすると犯罪の前科より重い足かせになるかもしれない重大な過失だ。

 納得いかない?では、一つずつ数えてみよう。

 小学生なら廊下に立たされる。中学生なら後で呼び出される。高校生なら進路指導の時お悔やみを申し上げられる。大学生なら人知れずついていけなくなる。社会人なら会社や家庭などのコミュニティから三下り半だ。

 つまり、しても許されるのは幼稚園児までなのだ。

 閑話休題。

 客の目の前でグースカ寝ているこの男、可及的速やかに起こさねばなるまい。しかし起こそうにも、来客の前でびしばしどつくわけにもいくまい。大体それで起きるような男なら起こしている。

 ということは自然に起きるのを待ってもらうか、弟子の自分が代わりに商談をまとめさせられるのである。

 それは嫌だ。成功するビジョンが全く描けない。しかも、失敗した時ただでさえわびしい食卓が、コルヌタの誇るわびさびという文化を間違った形で表現してしまう。

 で、それが自分のせいにされてしまうのだ!

「……」

 イルマは無心で振り向いた。ドアの向こうには身なりのいい、ぎりぎり壮年と呼べるくらいの男性が佇んでいる。

 仕立ての良い、灰色のスーツ。細かい装飾のついた飴色の革靴。

 中年太りなど異世界の言語ですと言わんばかりの筋肉質な細身。狭い額の上にびっしり生えたブロンドをぺたんとオールバックに撫でつけて、レンズの薄い四角い眼鏡をかけている。

 どうやら老眼鏡である。しかし、ちょっと見たことのない代物だ。フレームは銀色で錆びもくすみもない。つるの部分には細かな金細工。そこにゴマ粒やあんぱんについているつぶつぶより小さな緑や青の宝石。

 そんな彼が人懐っこそうな笑みをちょっと驚きに染めて、こっちを見ている。初めて会うはずだが、何だかどこかで見たような気がする顔だ。

 しかしそんなことは今どうでもいい。身なりのいい客。寝ている主。つまり上客をふいにしたわけだ。

「……お仕事の、ご依頼ですか」

 どうにか、言った。

「違うよ」

 やはり相手は否定した。まさに今依頼じゃなくなったのだろう。暗澹とした気分で相手をじっと見る。ラベンダー色の瞳。どうしたのかな?と言いたげに、イルマを超えて眠っている(気絶している)魔導師を見つめている。

 そりゃあ疑問にも思うわな。

「あの、どうぞ靴を脱いでお入りください。スリッパはそこです」

「ありがとうね」

 印象に違わぬ柔和さだ。ほとんど他人を尊敬しないイルマにさえも尊く思う心が湧いてくる。

 この表情、この世界に仏教があれば、間違いなく仏の微笑と言われただろうが、この世界における仏という言葉の意味は『死人』である。いくらイルマがクソガキでも彼を死人呼ばわりしたりはしない。

 男は入り口のところで靴を脱いで、イルマの指さした棚の来客用スリッパを代わりに履いて中へ入ってきた。

 背筋がピシッと伸びて、手足が長く見える。歩く姿は百合の花、などと言っても性別という一点を除き違和感がない。

 しかし、また、このスリッパがボロボロになってきたから買い替えようか、とちょっと前から言っているような代物なのだ。しかもろくに洗ってないからドロドロに汚れている。どうして今日までに買い替えていなかったんだろう。ついてない。ああ、ついてない。頭痛がごんごんと響く。

 ただ、やっぱりこの人どこかで見たよなあと思った。

 髪を切りました。二年以上、時々そろえるだけで放置していたため、先端は腰までありました。

 暑苦しいし重たいから、夏に向けて切戻すことになりました。当初は肩甲骨くらいの長さになる予定でした。

 なお、現在私の髪はやっと肩につくくらいの短さです。

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