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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
蝉時雨
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メン・イン・どんぶり

 引き続き本編です。題名に反して真面目な話だと思います。

 大分遅くなってしまったし、白子は明日でもいいだろう。だってお腹が空いたんだ。今からあれを作るのはしんどい。というかこのままのスケジュールではおそらく無理だ。

 明日アルバートさんでも喚んで、仕事をしている間に作ってもらおう。多少違うものが混じるにしても、彼は料理に妥協をするような死者ではないから死にはしない。死にはしないならのーぷろぶれむ。

 袋のインスタントラーメンを鍋でくつくつして、どんぶりに移し、粉末スープを溶かす。チャーシューはないがハムならある。うむ上出来上出来。先に食べてていいかな?いいよねー。

 ずるずるからのもぐもぐを繰り返していたらユングが上がってきた。烏の行水とは言わないが本当に湯舟に浸かっているのか怪しい。

「ちゃんと身体は洗ったんだろうね?」

 この通りと言わんばかりに両手を広げて見せる。イルマはあいまいな笑みを浮かべた。うん。スウェット着てるからわかんないね。

「歯以外は洗いましたよ。お湯がほとんどぬるめの水でしたけどね。嗅ぎます?」

 あいまいな笑みは崩れなかった。

「気持ち悪い」

 心なしかしょぼんとしてキッチンに立つ。料理はできないんだっけ?でもラーメンくらいは自分でできるだろう。横目で見守っていたらできたらしく、ひっそりとガッツポーズを決めていた。おお、よしよし。

 麺をどんぶりに移す時、スープがそこら中にはねて一緒に拭く羽目になったのは不問にしよう。

「やっぱり醤油より塩だねえ。味に上品さがあるよ」

 醤油ラーメンをすすりながら、イルマは言った。

「僕は醬油派ですね、あっさり感があって」

 塩ラーメンをつるっと飲み込んで、ユングは言った。

 しばし、蛙の鳴く声だけが聞こえた。この世界ではまだ蝉が夜まで鳴くようにはなっていない。どのみち時間の問題だが、剛志がいれば必ず発見した差異である。

「取り替えっこする?」

「取り替えましょうか」

 青い縞々のどんぶりと、同じ色で格子柄のどんぶりがゆっくり入れ替わる。ずずずず、と同時に麺を啜る音がした。この味だよ、と頷きあう。そこから無言で夕食のインスタントラーメンを貪ること、30分。

 食べ終えた後の汁にチンした冷ご飯を落として、喉の奥へ流し込む。炭水化物と炭水化物の夢のコラボレーションだ。

 空になったどんぶりを流しに下げて、席に戻って一息ついた。

「……あ、間接キスだー……」

「へ?……そういえば……」

 気づいた事実には三秒で興味が消えた。お腹がいっぱいで何を考える気もしない。必要だってない。風呂には入った飯も食った、あとはもう寝るだけだ。何を考えるって言うんだ。

「うまかた」

「そですね」

「じゃねる」

「おやすみ」

 分かり合わなくても、平仮名四文字で会話は十分成立する。世界の真理に近づいた気がした。今なら何でもできる……が眠いんだ。何もしないよ!

 部屋に戻ったらベッドには枕も布団もなく、マットレスが壁に立てかけてあった。そうだ、衣替えを兼ねて干したんだっけ。何て余計なことを……これから寝ようってのに。誰だ、こんなことしたのは。またしてもししょーか。

「ううん、ししょーはこの世にいないから」

 眠くて痺れたようになっている指を駆使し、マットレスにカバーをかけて押し倒す。枕は……そうだ机の上にあった。抱き上げて、置いて、夏用の薄い布団を被って横になる。電気は枕元のリモコンで消した。

 枕はちょっとへたっている。そういえばこの枕はイルマがここに来てすぐに購入されたものだ。そろそろ寿命かもしれない。

 枕の寿命ってどのくらいなんだろう。それにこれが寿命ということはユングが使っている枕も買い替えないといけなくなるのか。そうなると一大出費だ。いや、ユングはユングの小遣いで何とかするか。給料だってタダ同然とはいえ与えている。イルマが気にすることではないっと。

 後の気がかりは、龍族が同胞の敵討ちに降りてきて魔族と一戦交えたという魔界占領下の昔話だが、あのドラゴンは勝手に突っ込んできて死んだんだから放っておいてよいだろう。こんなことで返り討ちにやって来ようものなら龍族の底が知れる。

 こういうトレードに抵抗のある人っているじゃないですか。だから何ってわけでもないんですけど。

 ありんこ?ありんこは「相手による」です。

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