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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
蝉時雨
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食うか食われるかの関係

 本編です。触手系のぐろいモンスターはおいしそう、もふっとしたかわいいうさぎもおいしそう。食い意地の張った人は昔からいたようです。

 文明人は野生人に立て板に水とばかり説明する。相手のレベルに合わせるということは相手が誰であれ何であれ必要なことだろう。

「どう料理するかな?って話。一応残ってる唯一の食レポではおすすめの料理法がしゃぶしゃぶってことになってるけど、あの量を全部しゃぶしゃぶってのは味気ないよね。しかも尻尾だけだし」

 ここで話しているのは仮定であり、実際は研究用にいくらか国に接収されるのだが、それでも大部分が残りそうである。腐る前にしかるべき処理を施さないともったいない。特に内臓はやばそうだ。

 ドラゴンのモツ、味わってみたいものである。詳しくはもつ鍋とかホルモン焼きで。

「……そっちですか。でもそういえば料理人のおじさんもドラゴンを仕留めたとき料理法に困っていたような」

「え、オニビ領ってドラゴン仕留めるの」

 確かほとんどが人間で構成された自治区だったと思うけど、いまだ人類の手にかけられたことのない最強の生物って肩書はどこに!

「いいえまさか。マクベスおじさんですよ」

「だよね!よかった」

 親戚のメンツが濃すぎる。まだ四人しか知らないけど四人とも恐ろしく濃い。魔神にウンディーネおばさんに記録上最後の半魔にシルフ様。特濃だ。

 親戚関係の一般例をどう煮詰めればここまで濃縮されるのだろう。

「ていうかシルフ様って料理人なの?」

「かつて魔王として人間界を攻めるときに、前もって内情調査のためにボルキイの王宮でコックさんをしてたそうなんです。でも、その時の勇者の頭がおかしくて」

「ばれたの?」

「いいえ。自分は魔物料理とかいうものを食べてみたいから料理人一人ついてこい、ってたまたま近くにいたおじさんを連れてったそうなんです」

「自分で料理しようという気概がない時点でそいつはだめだね」

「当然、彼女は魔界に行ったきり帰ってきませんでしたがね」やられたのか……イルマはほんの少し同情した。「魔界の料理がおいしくて、帰るのが嫌になったとか」

「やられてないのかよ!同情し損だよ!」

 てっきりやられたかと思った勇者は寝返っていた。不幸な犠牲ではなく、魔界側についてしまう闇堕ち勇者とかいうジャンルの創始者だった。しかも理由にちっとも切実さを感じない。人間に裏切られてない。恋人を殺されてない。

 同情を返せ。

「ええ。騎士とか僧侶とか魔法使いとか盗賊とか他にもいろいろ主に戦闘メンバーの犠牲を払いながら魔王の城に辿り着いたにもかかわらず、マップを進める気配がまるでなく、そこに毛布とか色々持ち込んでバラックのようなものを作り居候を始めたあたりで疑ってはいたらしいんですけど、はい。居座られました」

「いやいやいやいやいや」

 ならなぜコルヌタで止まらなかった。魔物料理はおいしいし、地震に台風に火山に魔物の大移動にといった自然災害の宝庫だから割と最近まで各国のアウトローが流れ着き放題だったと思うぞ。

「常識的に考えればそうですが、素で頭がおかしい人だったそうなので深く考えないが吉だと思います。……さすがに困るので、道中おいしい料理を提供し続けたおじさんが責任を取らされる形で引き取らされたそうです」

「居座ったままになるって……しかも側室ポジ……完全に闇堕ちしてるよ」

「いいえ、そもそもおじさん独身ですし。夫婦というよりは名誉終身餌係と愛玩動物でした。……ところでこの魔王城って言うのはですね、おじさんの自宅じゃなくてまた別の、ダンジョン用に建ててるやつなんですよ。朝五時に側近とかが出勤してきます。おじさんの自宅は魔界のもっと奥ですから勇者が自力で来れないんですよ」

 なるほど、だから居座られると困るのか。思い至るが、後悔が沸き上がる。

「聴きたくなかった……そんなシステマチックなことになってるとか知りたくなかったよ……」

 ファンタジーさんが!息をしていないの……誰か救急車を!どこか遠くでサイレンの音がした。いつものことだろう。少し伸びた前髪を気にして空色の目を細め、ユングは続きを語りだした。この戦いが終わったら美容室に行こう。

「おじさんによると、元勇者の飼育は大分しんどかったそうです。まずおじさんが魔王本人だっていうのをカミングアウトしてから納得してもらうまでに一か月かかったらしくて」

「そりゃ誰もパーティーの料理人が魔王だと思わないだろーね」

 というか何だ、料理人って。RPGで戦闘画面に入ったとき何してるの。

「しかも、魔王ってことに納得してから最初に言った言葉が『で、どのパーツなら料理してくれんの?個人的にはハラミ希望』だったとか」

「食う気だね。もう魔物の王を食材としてしか見てないね」

 ユングは「先生も似たようなもんですけどね」と言いかけて口をつぐんだ。そういえば自分も魔族の端くれ、イルマが自覚を持ったら食われかねない。

「どうかしたの?」

「いえ、何も」

 怪しい笑みを浮かべているので目をそらした。食われると思ったのだ。だから、イルマがまさかユング×マクベスという組み合わせを脳内でシミュレーションしているとは思っていない。

 さすがに隣にいる人の姿をしたものは……食べないよね?

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