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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
蝉時雨
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龍、来襲

 たまにはこういうスケールの大きい話もいいかなと思って書いてみました。どうでしょう?

 それは、空からやってきた。

 血と埃に塗れてはいるが、金色の鱗。くしゃっとなった電波塔に半ば突き刺さるようにして地に落ちている。まっすぐ上に突き出た尻尾と折れた翼が最後の抵抗を試みていた。

 それが、現在空き家となっている赤レンガの家と、小型犬を買っている若夫婦の家の間からうかがえる。

「ドラゴン……?」

 待っていたのは切り株にぶつかるウサギではなく、電波塔にぶつかる最強の生物だったようだ。なんだそれは。なんだそれは。

「ええ。もう、ドラゴンだったものになりつつありますがね」

 なるほど、ユングはこれが落ちてくるのを察知して動いたのか。しかし、である。なぜイルマにはそれができなかったのだろう?

「私には何にも見えなかったけど……」

「鱗が傷だらけで光を乱反射してましたから、多分肉眼では小さな雲にしか見えないと思われます」

 ああ、例の熱視覚か。

 さっきの大ジャンプといい、突然の昆虫食といい、距離が近づくにつれて、どんどん人間性がなくなっていくよなあこの助手。でもとにかく助かった。ありがとう。頭を下げたら明らかに照れた。愛い奴じゃ。

 ま、それはともかく。

「拠点に便利な電波塔がおじゃんだぁああ!公園もぺしゃってなってる!うちの近所で一番でかい公園がー!うわああああ!」

「結局それですか」

 ユングは呆れて肩を落とした。がめつい。がめつすぎるよこの子。すべての人間に主義主張があると仮定したらイルマはまず間違いなく拝金主義者だ。

「だってあれどっちも私たちの血税で建ってたんだよ!?んでもって再建時また皆の血税が使われるんだよ!?もったいない!もったいない!」

 拝金主義者が地団駄を踏んで悔しがる。いっそ見苦しい。

「ドラゴンが突っ込んできたんだからどうしようもないでしょ……」

「そう!そこなんだよ一番のもったいないポイントは!」

 ずい、とイルマが詰め寄ってきたので思わず二歩下がる。どうして洞窟でドラゴンゾンビに出会った時より必死なんだろう。とても理解できない。

「私、あの公園と鉄塔にも対衝撃結界張っちゃったんだよ!?」

「ああ、それは仕事ですからね」

「結界に使った魔力がもったいない!しかもあれがなくなったら次の拠点には携帯トイレパックをお持ち込みだよ!?あれ何か嫌なんだよ!主に出したブツが丸見えで!しかもまたお金かかるし!」

 目を当社比150パーセントくらいの大きさに剥いて口角泡を飛ばす少女に、ユングは「まともに聞いててもどうにもならない。話をすり替えよう」という結論に至った。

「……ところであれどうしますか」

 そう言うとイルマは顔芸からきりっとした仕事人の顔に戻った。我ながら空恐ろしい采配である。死にかけのドラゴンは放置されたまま。なんかまだ頑張っていらっしゃるが、たぶん無理だろう。

「全然大移動の皆さんが来なかったのってあれのせいなのかな、やっぱり」

「そうでしょうね。若い個体ですし、魔界でボロッボロに傷ついた状態で飛んできたんじゃ他の魔物に狙い撃ちです。ここまでは頑張って千切って鼻毛千切って鼻毛してたんでしょうけど、」

「それ、千切っては投げ、じゃない?」

 なぜ鼻毛を千切っている。そもそもドラゴンに鼻毛はあるのか、否か。一番似ている爬虫類にはなかったと思うが、そこは魔物だから爬虫類の常識が通じるのかどうか。ゆえに永遠の冒険、なんてね。

 その辺にいるドラゴンさんに「鼻の中見せてください」って頼んだら一瞬で終わりそうだね。

「細かいことはいいのですよ。総平仮名に変換したら同じでしょう?」

 閑話休題です、と失敗を届かない引き出しにしまい込む。

「……けど、さすがに限界だったんでしょうねえ。こんな大移動日和に落ちるなんて。辛うじて本能から一番高い場所に留まろうとしたようですが、衝撃を殺せなくて自滅ですよう」

 ふーん……しかし納得する前に、イルマにはしなければならないことがあった。カバンに手を突っ込み、目当てのものを探り当てる。よし、これでいい。

「ユング、メメタア!」

 ギャッ!フギャッ!?と魔物が鞭打たれたような声を発してほぼ魔族のユングがのけぞる。あれ、魔物が鞭打たれたでいいんじゃないの?実際、鞭で叩いたし。

「なぜ二発ですか!?」

「自分で考えようね、それくらい」

 てくてくと落ちたドラゴンのほうへ足を進める。市民の被害は最小限に抑えねば、干上がる。

 あんなのが落ちてきて野次馬しに来るような馬鹿はハクトウ町にはいなかったと思うが、小型犬の若夫婦もつい最近越してきたことだし、万一ってことがある。見に行かなければなるまい。

「ゴールドドラゴンってかなりスペック高いやつなんだよね?こんないい天気の日に落ちるほどボロボロにされるって何があったの」

「人間界ならともかく、魔界だと心当たりが次から次へと溢れて止まりませんよ。それにいわゆる雑魚だって噛まれれば痛いし払いのけると体力を消費します。再生力が高いとはいっても、再生にはやはり体力が消費されますからねえ。塵も積もれば山本さんです」

「なるほど……塵も積もれば山となる、だね」

 ちょっとユングが挙動不審になった。うろ覚えで諺使うから……ていうか山本って誰だ。塵から合成される人工生命体か何かなのか?

「でさ、どうする?」

 強化人間もしくはホムンクルス山本さんのことは置いといて、イルマは聞いた。

「そりゃあ止めを刺しますけど」

「そうじゃなくて、そのあとの話だよ」

「僕、経済とかはわかりませんよ」

 ユングはまだピンと来ていないようだ。野生人ユング、なるタイトルでなんか一本話が書けそうだと思う。

 やっぱり微妙かな。小さな範囲でちまちまする話を書く方が得意です。

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