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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
帰還、またはHellow,world!
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トマトください

 本編ですが主人公が出てこないです。その意味では平和な回かも。

 それは空からやってきた。

 うるさく耳を打つ。これは羽音か?ゆっくりと目を開けて、体をくねらせ、見上げる。夜明けからさほど経たない幼い晴天を汚す無数の影。襲撃か?と身構えて、そういえば……と季節を思い出した。もうそんな時期か。

 まだ眠いけど、伸びをして立ち上がる。これは、グラバーに与えられた仕事だ。

『旅をする同胞たちよ。ここは我らの領域である。迂回するか、止まらず、直ちに通過されよ』

 警告が轟轟と空気を揺らした。蜘蛛の子を散らすように、上空の影が迂回を始める。少々大人げない気もするが、同じ高度をとれない身である。トマト畑が荒らされるのは困るから仕方ない。

 尾を振り上げ、鉛色の背を膨らませて、再び吠える。

『直ちに通過されよ!留まるものは敵と認識し、攻撃に移る!』

 地上にいる魔物たちも驚いて伏せ、隠れてこちらを見ないようにする。ここまでやれば、わざわざ降りてくる愚か者はいない。今年も平和に夏を乗り切れる。おやつにトマトをくれるかな。きっとくれる。

 はずだった。

『何をしている――?』

 警告に従わず、舞い降りてくる影がある。大きな翼で風を切り、金の鱗を朝日に煌かせながら、まっすぐここへ降りてくる。

 トカゲに似た顔の上に二本の大きな角。逆立ったような刺々しい鱗。どうやって浮いているのか不安になるほどの巨体には四つの脚。

 それを認めた瞬間、真横に飛んで躱した。さっきまで寝ころんでいた岩場が破砕される。相手の体は自分より一回り大きい。スパイクのついた長い尾をまな板に留められたウナギのように動かして頭をあげ、こちらを伺う。

『■に■■って■■をして■■のだ?■の程を■えよ、■ラマ■ダ■』

 言っていることの半分も理解できないのは種をまたいでいるからか、知能の差か。どちらかはともかく、理解できない内容はともかく、わかっていることがある。

 こいつは自分に喧嘩を売っている。そして、自分より高位の存在である。

いまだ人間に屠られたことのない、言わずと知れた最強の生物。

『ドラゴン……か』

『いかにも』

 グラバーはかつてドラゴンに出会ったことが(そして食われかけたことが)ある。鱗の色を見るに、その時の個体より上位のゴールドドラゴン。ただ、少し大きさが足りないような気もする。若い個体だろうか?

 すでに希望的観測だが、そうだとしても、飛ぶこともできない老いたサラマンダーにとっては脅威である。

『猶■を■える。去れ』

 それどころか翼があった昔でも、さっさと逃げるべき相手だ。だが今は、そうもいかない。

『断る。ここは、我らの領域だ』

『■き分■のない老■犬が。■っそ■れぞ』

『何を言ってるかわからん相手の言うことなど、聞かん!』

 破れた翼を広げ、威嚇する。普通のサラマンダーが親指を含めて三本の指で皮膜を支えているのに対し、グラバーのそれは五本あり、翼自体の面積もかなり広かった。

 今は、五本の指に皮膜の跡が残るだけだ。つまり骨組みだけなわけで、人間並みの再生力しか持たないグラバーには空を飛ぶことは未来永劫かなわない。

 それを見るや若いドラゴンは宙に舞い上がった。上空なら、グラバーの爪は届かないし、一方的にいたぶることもできる。空中戦でも上をとるのが定石だ。

 若いな、とグラバーはほくそ笑んだ。そう来ると思った。そして、そう来てほしかった。相手がドラゴンだとしても、こうなればもう彼の独壇場だ。

 翼を畳み、人間でいうと手の甲にあたる部分を地面に押し付けたポーズは、降伏にも見えたかもしれない。

『■程の■勢■どう■■』

 届くまい、という嘲笑はひどく当然のものである。確かに、地を這う限り空には届かない。そして、翼を切り裂かれたグラバーは空を飛ぶことができない。

 その差は明々白々だ。ゆえに相手はもうこれ以上、高度を取るつもりはないらしい。ゆっくりと身を沈め、力を込める。

 解放。

『……っ?』

 若いドラゴンには最初、何が起きたのかわからなかった。二度の衝撃。一度は背から、二度目は腹側。間に短く横たわる無重力感。目の前に地面がある。

 鈍い痛みに耐えながら見上げると、鉛色のサラマンダーがいた。まだ何が起きたかわからないまでも、上に覆いかぶさっている形のそれを振り払う。

 そして、考える。

 地面に、叩きつけられた?なぜ?あれほどの高度。距離。ならば考えられるのは風の魔法。しかしサラマンダーは風の魔法など使えないはず。使えるのはワイバーンだし、サラマンダーが使うのは火の魔法だ。ありえない。

 いや、ありえるかもしれない。鱗は鉛色。ここにいるのは変異種だ。魔法を複数使えたとしても不思議はない。だとしたら魔法陣が現れたはずだ。それを見ていないということは……警戒が足りなかったか。格下だからといって侮りすぎた。

 どちらにせよ、上をとれば間違いない。今度はもっとよく見ていよう――再び、空へと舞い上がる。

 下からそれを見上げながら、グラバーは息子の言葉を思い出していた。何と言っていたかなあ。再びかがみ込む。確か、ええっと。

『馬鹿の考え休むに似たり、だったかな』

『今■と■■■?』

 声が小さすぎて遥か上空のドラゴンには聞こえなかったらしい。鱗の表面についた傷にも気づけないようなら、聞く必要もどのみちない。

 戦闘描写とかほんと苦手。……でも、話には必須なんだから書かなきゃね……。

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