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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
帰還、またはHellow,world!
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貧乏人のカレー

 引き続き本編ですよー。

 夕飯を食べながらニュースを眺める。世間的には明日が土曜日だから、週末の休暇に突入する。しかし、何でも屋も魔導師も基本的に年中無休だ。週末に特に意味はない。

 無休と言ったら言い過ぎかもしれないが、定休日というものはない。何でも屋は依頼ありき、魔導師はそもそも研究が本業で、依頼を受けることもあるという職。

 天気予報士のお姉さんは何か最近激ヤセした。どうしたんだろうと一瞬引っかかって忘れる。

「魔物注意報、出始めてるね……しかも今朝?うっそぉ、誰も気にしてなかったよ」

「注意報ごときで動揺してたら心がくじけますもんね。皆警報が出てから反応、避難勧告が出たらえっちらおっちら避難するんでしょうよ」

 しかも、日曜日からは7月に入る。皆が休日を楽しんでいる横で魔物祭りだ。ゲームみたいに一匹ボスがいて、そいつを倒してすべて終わり、ならよいのだが、そうもいかない。

 ちょっと休憩してるだけの飛べそうな奴は目を離さないよう留意しつつ放置して飛ばし、ホームレスのおじさんを襲撃してる奴は追い払い、その辺の小学生に金属バットで仕留められている奴は無視し、翼が折れて飛べなくなっている奴は仕留める。

 その間も上空への警戒は忘れない!

「小学生に仕留められるなんて、魔物の風上にも置けない奴らですね。魔神様に進言しなくては」

「やめて、軍隊が過労で死ぬから」

「じゃあせめて最低でも中学生に仕留められるくらいのを」

「何で小学生がだめで中学生はありなのかわかる気もするけどやめて」

 本日のカレーは旨い、とちょっと関係ない知覚が混じってきた。おい待て。現実逃避なんてよせ。戻ってこい。

「えー、敵は強いほうが燃えるでしょ。最初の町で出てくるスライムですら王国の精鋭を一撃で屠る!ぐらいがいいですよね」

「うーわ何そのスーパーハードモード。人類滅亡待ったなしなんだよ」

 今日のカレーは牛肉だ。この先ハードワークだから奮発した。収入も十分見込める。

 サラマンダーをはじめ、魔物たちが落ちたり落とされたりしたものを仕留めて、食肉として買い上げてもらえるのだ。規格に合わず買い取ってもらえなかった分は持ち帰っておいしく食べる。

 毎年、夏はちょっとお金持ち気分が味わえる。

「ていうか、ユングってサラマンダーの変異種の血が入ってるんだよね?咆哮もできるし」

「はい?それが、どうかしました?」

 わざわざ手を止めて耳を傾けてくる。いや、食べながらでいいから。

「サラマンダーの皆さんに迂回してもらうように言うことってできたりしない?」

「できませんね」

 即答だった。え?そ、そうなの。ちょっとまごまごしながら、掘り下げてみる。

「サラマンダーと会話、とかはできないの?」

「通常種に会話が成立する程度の知能はありませんから、まず不可能です」

「わかってるよ。そうじゃなくて。言い方が悪かったかな……。何か、こう、向こうが思わず避けて通りたくなるような……ね?」

「無理です」

 またしても即答。えー。ちょっと考えてみますとかはないのー。せっかく楽ができると思ったのに!

「な、何でー?」

「警戒音を発したり、咆哮を使って威嚇するくらいのことはできますけど、僕じゃ声量が足りないから即逃げを決行させるくらいビビらせることはできません」

「あー……」

「それに魔物の習性を考えてみてくださいよ。そんなことしたら押し寄せます。安全地帯だという風に伝えることも可能ではありますが、それ絶対皆が休憩地点に選びますよねえ。ですから、集めるならともかく、迂回させることはできません。曾祖父ならできたかもしれませんが」

「……ごめんね、変なこと聞いて」

 確かに一理あった。

 くそう。くそう。失意の中スプーンを動かし、もくもくもくと噛んで飲み込むこと三回。あ、牛肉だ。幸せ。肉の絶対量はいつもの三分の一だけど牛ってだけで幸せ。

 だってカミュが中学生の頃はスーパーにもなかったらしいから。

「なかなかヒットしませんね、牛肉」

「あると思うだけで幸せになれると思うよ。持っていない40じゃなくて、持ってる60に目を向けようよ。ビーフカレーが魅力的なのはビーフを隠しているからなのさ」

「はあ」ユングはジッとスプーンですくったものを見た。「ちくわはよく、出てくるんですけどねえ。ていうか、カレーの具にちくわってどうなんですか?」

「カレーは懐が広いから大丈夫だよ」

「大根とかこんにゃくもあるんですけど」

「おでんとカレーって色が似てるよね」

「えっとこれは……オクラ?」

「ねばねば成分が体にいいんだよ」

「僕の知ってるカレーとちょっと違うように見えます……」

「見える?見えるだって?大切なものは目に見えないのさ」

 ほんとは消費期限がぎりぎりだったからとりあえずぶち込んでみたのだが、食えないことはない。そして茶色い。スパイスで味付けされている。ゆえにこれはカレーだ。

 この定義に従えば大概の料理がカレーになるが、イルマにとっては大した問題ではない。

「おいしいだろ?」

「おいしいです」

「カレーおいしい?」

「カレーおいしいです」

「じゃあカレーだよね?」

「カレーですね」

 洗脳完了。

 たまにありますよね、こういうカレーの具じゃないものが入ってるカレーと称するダークマター。絶対カレーじゃないだろ!と理性は拒否するのにこれがまたいけるのであります。

 ……我が家のカレーです。

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