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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
帰還、またはHellow,world!
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転生の問題

 ノリノリで書きました。そんな回です。

 しばらく歩いたところだった。にゃあ、とかすかな鳴き声が耳に入る。

「……猫?」

 振り向いた先に、何か白っぽいものがふわりと通り過ぎた。それを追って、つい足を踏み出す――すぐ近くにトラックのエンジン音。空回る脳が当たり前の言葉を吐き出す。ここは、大通りだ。

 気づいた時にはもう遅い。

 右半身に強烈な衝撃を食らい、左足首から何かが砕けた感触がして、少し宙を舞って、後頭部を古くなって亀裂のできたアスファルトにしたたかに打ち付ける。目の前が一瞬暗くなって、戻る。潰れたカエルのような悲鳴を上げてバウンドする。胸が痛くてほとんど息ができない。

 トラックはスピードを緩めなかった。ブレーキもかけていない。なぜ?

 考えが追いつく前に、今度は同じトラックにそのまま轢かれた。頭の上に挙がっていた両腕の感覚が肘の関節の少し先のあたりで潰れて消える。

 右側の欠けた視界の端の端のほうでくるくると旋回しながら歩道へ滑って行ったのは、あれはスニーカーを履いた少年の左脚。噴き出した血の跡で道路にコルク栓抜きみたいな模様を描いて、足首が変な方向へ曲がっている。

 自分の脚の付け根のあたりから血だまりが広がる。あれは俺の脚だろうか?不思議と痛みは感じない。ほかの感覚は研ぎ澄まされているのに、何だか妙な気分だ。

 次に来たのもまたトラック。違う運送会社のようだ。今度は右足の腿の途中から感覚が消える。血だまりが広がるが、まだ辛うじて生きている。

 時間の流れが酷く遅い。これが走馬灯ってやつだろうか。一生を振り返ってはいないけど……ということは死なないんだよな?そうだよな?そうだと言ってくれよ。

 両手両足を失ったとはいえまだ体幹部分が残っている。もしかしたら生き残れるかもしれない。じゃあ歩道に避難しなくちゃ。わかっているけど体は動かない。そりゃあそうか、もう、手も足もないんだ。歩くどころか這いずることもできない。

 しかし、今自分はちょうど轍と轍の間にいる。外国で、車に轢かれたけれどちょうど轍の間に入って助かった赤ちゃんの話があった。助かる可能性は高いはずだ。

 次に来たのはバイクだった。暴走族だろうか、隊伍を組んでこっちへ向かってくる。その後ろに、赤いランプを光らせているのは多分パトカー。

 いっそ笑いがこみ上げる。

――助からねーじゃねーか、こんなの。

 思わず目を閉じて、衝撃が去った後でもう一度開けてみたら、自分の胸と腹が遠くに、バラバラになって転がっているのが見えた。

「あらあら、死んでしまいましたね」

 遠くから、真綿のように優しい男の声が聞こえる。気づくと、光に満ちた空間に立っていた。いや、立っているかどうかはわからない。

 さっきバラバラになったし、視点が生前と同じだけで、下を見られないから、首だけ浮いているかもしれない。

「せっかくあちらに返す準備が整ったというのに。心から、お悔やみ申し上げます」

 目の前には背の高い男が両脚を投げ出して座り込んでいた。硬そうな生地で作られた格調高い服を着こんでいる。古い血のような色の長い髪が血だまりのように広がっている。

 優しい笑みを湛える精悍な頬には青い血管のようなものが浮いていた。黄土色の両目の瞳孔が、ヤモリのように縦に裂けていて、白目の部分が見えない。

 見慣れた姿とはだいぶ異なるが、誰なのかすぐにわかった。

「魔神……か?」

「ええ。あなたには分身でしか、お会いしたことがありませんでしたね。今は余剰魔力の制御であちこち荒れていて、これが本体です、というのも語弊がありますが――初めまして。魔神をしています、コールという者です」

 座ったままで一礼した。男の両脚の太さが左右で違うことに気付く。なぜ立たないのかわかった。

「あなたはとっくに知っていることでしょうが、現世のあなたは次々と轢かれてバラバラ死体になっています。さすがにここから生き返らせるのは難しいでしょう。死体は私共のほうで、回収しておきますね」

「あ、ど、どうも」

「それにしても……まさか、カモフラージュがこんな風に働いてしまうとは思いませんでした。普通、人を一人轢いた時点で気づくものなのですけどねえ。申し訳ないので、あなたに特権を与えようと思います」

 ちょっと待て。どこかで見た展開だ。もしかして、これはもしかして。ちろりと蛇のように先が二股になった舌をちらつかせながら、魔神はどこかで聞いたことのある言葉を紡いだ。

「チート能力を差し上げて、異世界に転生してもらいますね。さあ、いってらっしゃい」

「やった!ありがとうございます!」

 そう叫んだ瞬間、剛志の目の前が真っ暗になった。そりゃあそうだ。転生ということは生まれる前からだろう。それにしても、チート能力って何だろう?

(そうですね)頭の中に魔神の声が響いた。なんだか楽しそうだ。(異世界に無傷で転移できる能力、などいかがでしょう)

 さらに異世界転移か。胸が躍るが……何かがおかしい。何がおかしいのかはわからないけれど、何かがおかしい。ちょっと待って魔神様、その辺もっと詳しく……。

 あれ?

 さっきまで、何してたんだっけ?なんだかいろんなことがあったようなきがするけど、たいへんなめにあったようなきもするけど、おもいだせない。異世界転生?ってなんだっけ。ぼくはだれだっけ?

 ゆっくりと思考が停滞する。

 やがて彼は、外の世界の光を見た。産声を上げながら、耳に届く言葉がある。

「相馬さん!生まれましたよ!元気な男の子です!」

「名前はどうするんですか?」

「そうですね……剛い志を持つ、という意味で剛志、なんてどうでしょう」

 意味は分からなかった。

 ここまでテンプレートを外してきた埋め合わせのようにテンプレートを乱射する魔神……。

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