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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
帰還、またはHellow,world!
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不安な飲食店

 本編入りまーす。本日のメニューは主に死霊術となっておりまーす。

「はあい、いらっしゃい!」

 死者と魔族のおかげで喫茶店は繁盛していた。死者たちは、特に何も考えずに呼び出すと生前戦う時に着ていた服装で出てくるのだが、そこに喫茶店のエプロンをそのままつけてみたらなかなか面白いことになったのだ。

 メイド喫茶とかの流れである。

「なあ、弟子ちゃん」面白いと思うのだが、主人はそうじゃないらしい。ちょっと変な顔をしている。「なあ……あの、鎧のお姉さんは何なんだ?」

「それは定さん。見ての通り女騎士さんだよ。オークの殲滅とか、調べれば戦歴は出てくるだろうね」

「ああ……あの、くっ殺せとかいうやつ……」

「むしろ、くっくっくっく……殺せ殺せ殺せええー、だろうね。あの人自身は後ろのほうにいて、指揮が主な仕事だったらしいから実際に魔物と戦ったことはないって言ってたよ」

「軍師ポジか……」

 また主人は遠い目をした。地味にイルマも食器を洗っている。

 定に関しては戦力がほしいと思って契約した後でボソッと「私は直接魔物と戦ったことはないのだがな」と言われて頭を抱えた過去。懐かしきかな。その時だった。

「ふわとろチキンオムライスひとつ入りましたー!」

「ふわとろチキンオムライス一丁ー!」

 主人は「女騎士の阿部定が注文とってる……」とかぶつぶつ言いながら、仕事を思い出したようにチキンライスを炒め始めた。なんだ、定さんのことフルネームで知ってるじゃん。なんで聞いたわけ。

 ちなみに彼女は地獄の死者である。軍隊を動かして生き物(魔物)を殺しまくった罪で不喜処に落ちている。

「でさあ、あっちで煮込み料理作ってる笑顔が素敵なお兄さんは誰なんだ?」

 パッと見た感じは普通の好青年だけど、エプロンにまるで血の跡みたいな汚れがあるよなあ?まるでも何も血の跡だが、飲食店でその話題を出すのはどうかと思うのでその点は黙っておいた。

「ああ、アルバートさんかあ。幼女を誘拐しておいしく食べてたお兄さんだね。大丈夫だよ、針を刺してるのは自分のお尻だし、幼女がキッチンに来ない限り人肉なんて混ざらないって」

 たぶんね。

「ああ……俺の店がカオスになっていく……念のため聞くけど最後の一人は……」

「レオナルドさん。何の人だっけ?えーと……そうそう、世界恐慌のときのチキンレースでしくじって首を吊ったんだって」

「まともに見える。俺、疲れてるのかな」

 死者な時点でまともとか言われても困るなあ。かちゃかちゃと食器が音を立てる。虹色の光沢の泡が弾けて消えた。さあ、働くよっ。

 出来上がったオムライスを運んでいくのは金属の甲冑だ。彼はバート。RPGに引っ張りだこなさまようよろいというやつである。彼の中身だった人間はとっくの昔に死体になって、朽ち果てて、今は空洞だけが残っている。ただ、そこに残った残留思念が魔物になった。要は魔神に1UP!された手合いである。

 ほかにも愉快な仲間たちがいるが、もともと人間そっくりか、人間に見えるよう化けてもらっているのでパッと見ではわからない。

「で……こっちの二人は」

「江戸川っす。吸血鬼っす」「乱歩っす。二年周期で、そこの病院で夜勤の内科医やってるっす」

「エドガーとアランじゃねーのな」

「何言ってんすか?」「何が言いたいんすか?」

 こういう風に。どっちにしろ、オフィーリアに代表されるような戦闘的な魔物、オニビに代表される戦闘用の死者は手の内を明かさないためにも使わない。どっちも多分、イルマ自身より強いからだ。

 その割に強そうな描写が全くなかったが、まず、オニビを含む革命の英雄たちは幼女ひとりを除いて完全に実力が拮抗している。

 なぜそんなことが言えるのかというと、イルマが聞いたからだ。四人でバトルロワイヤルしたら誰が勝つの?と。オフィーリア以外は、誰も勝たない、全員沈むと言った。

 オフィーリアは「今のボクではキミにすら勝てない」と言った。実際そうだろうと思う。強そうだとは思うが倒せなさそうとは思わないのだ。後の三人を前にした時のような絶望感がない。にもかかわらず、後の三人は四人で拮抗していると言うのだ。

 これで三人が生きた人間であれば、気を使っているとか、嘘をついていると思うのが常道だ。しかし、死んでいるのだ。死者は話さないことこそあれ嘘は決してつかない。ならば考えられる可能性は一つ。

――オフィーリアは、50年前から明らかに弱体化している。

 そして、おそらくその弱体化は自ら引き起こしている。あの魔神が手塩にかけた一種一体の魔物なのだから、自分で自分を弄くるくらいのことは簡単にやってのけるだろう。

 だが気になるのは目的だ。暴力がものをいう魔界で、わざわざ自ら弱体化する目的は?しかも彼女は独立した自治区の領主だ。彼女一人の問題ではない。並大抵の目的のために弱体化するとは思えない。孫の教育のため?だったらユングはもうちょっと強く仕上がる。

 いや、逆に目的がないからこそ弱体化したと考えるべきなのだろうか?オニビ領にはオフィーリア以外で強力な魔族がいて、だからオフィーリアはのうのうと隠居生活を営んでいる、と?

 それこそ考えにくい。魔族は戦闘が好きすぎて常に求めているような種族である。

「わっかんないなあ」

 わかる必要性も多分ないのだが、好奇心は猫を殺す。

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