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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
少女よ、生き抜け。
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彼岸を過ぎて

やっときました地獄ソロ。ファンの人にはたまらない?そもそもファンなんかいない?電波世界観は健在です。でも安心してください、王道ファンタジーですよ。

「友とはいいものだな」

「ふうん。友達いたんだ……って、またこんなところに来たの?」

 そこは賽の河原だった。ひょろひょろと高い塔の隣に小さめの塔が建っている。

「また会ったな亡者A、またの名をラナ」

「ちょっとお兄さん、今二つ名みたいに言ったけど私の本名そっちなんだからね。むしろまたの名をに続くのは亡者Aのほうだからね……見かけないから転生したのかと思ったんだけど、何でまだいるの?」

 その問いには答えず、今は真面目に石を積んでいるらしいなと言い捨ててまたせっかく建てた塔を崩した。

「だってなんか悔しかったんだもん。両親のためにでも積んどく」

「殊勝なことだ……がその塔も崩す!」

 ばっこーん、と少女が建てていた小さめの塔まで崩れた。何してくれてんのよとすら言えなかった。ただ呆然とする。

「あげいん!」

「何であんたが号令すんのよ、えい」

 手近にあった石を投げつけたら片手で上手にキャッチされた。相変わらずの無駄に器用な男だ。

「ところで、お前はもうそろそろ転生できそうなのか?」

 かつて人間を作ったのは創世三神のうち一柱、「女神」。いかなる色も存在しない、ただ白い髪とどこまでも深淵の瞳を持つ。女の神は他にもいるが、にもかかわらず唯一、女神と呼ばれる。

 そういうものが人間を作った。というよりもやがて人間などに分化する生き物のもとを、バクテリアみたいなものを作った。ついでに神聖大陸と貿易大陸も作った。人間界を作ったのだ。

 それで、600万年前くらいにいきなりその人間界を中にいる生物ごとポイした。生き物の魂はこれまでその都度彼女が作っていたのだが、それも放棄してしまった。魂を増やすことはできないのだが、ではどうするか?同じことを人間も多かれ少なかれやっている。

 リユース・リデュース・リサイクル!魂は転生させる!生前の罪はこれまで死んだ人間を格納するところだった冥界を改造してつくった地獄で清算する!転生先は問わない!傷があれば修復する!できる範囲ならな!できない範囲なら自己崩壊させて欠片を再構成する!

 なので、この世界には輪廻転生というものがあった。もちろん善人や英雄は輪廻を一時的に解脱して天国に行く。天国の生活に飽きたら何かに転生する。

 一部地獄で面倒を見切れない悪人が天国に流れているようだがそんなことは表沙汰になっていない。

「生憎だけどまだまだよ」いーと歯をむき出す。「私、両親が年取ってから生まれたひとりっ子なのにノロウイルスでさくっと死んじゃったから」

「ふうん、レバ刺しでも食ったか?」

 亡者としては時事ネタを盛り込んだつもりだったが、なんでもレバ刺しのせいにするなと睨みつけられてしまった。

「生肉には手をつけちゃいないわ、あんな過激に報道されてたのに。でも料理が汚染されてたみたいだけどよくわからないし仕方ない、泣き寝入りね」

「それでいい、死人に口はないからな」

「……貴方喧嘩売ってるの?」

「お客様、まことに申し訳ありませんがそれは非売品となっております」おどけて眉を寄せて見せる。「だが俺は死人は喋らないがいいと思うぞ」

 どこかで石の塔の崩れる音と子供の悲鳴が聞こえた。

「今現在、喋ってるじゃない。唐突に自分の存在を否定してどうしたの?」

「そういうわけではないのだが……難しいな。昔、弟子にこの手の水を向けたらさらっと理解してうまく返答してくれたのに……ちなみに年のころは大体お前と同じだ」

「その子絶対理解なんかしてなかったと思うわ。ただどうしようもない大人に合わせてあげてただけね」

 男は無言でいくつか石を積んで、それから「やっぱり?」と小さな声で言った。本当は気が付いていたのだろうか。

「……死人は喋らないほうがいいというのは、俺の持論でな。少し面倒な事情があるが彼岸で意味のあることとは思えないから置いておく、しかし俺はこの目で見て、触れられる……常識で説明の着くこと以外は一切信じないことにしているのだ。そうでないと次から次へと真実を語る幻想が現れてキリがない」

 ここにある現実以外は何もない、神は死んだのだ。

「何それ、哲学?『かみはしんだ』って私のお父さんも頭の上にクレーターができたぐらいに言ってたけど」

 その『かみ』は違う『かみ』だったりする。

「ということはお前の父親の頭部にあったわずかばかりの毛根が死に絶えたのだろう。消え去り、そして、存在しなくなったわけだ」

 地味に暴言を吐きながらつらつらと説明を続ける。「あった、という幻想は信じられない。ない、という実存だけが俺にはあるんだ……同様に、過去も」

「ないものはない、ってこと?」

「そゆこと」

 ラナは考え込んだ。わかったようなわからないような、である。

「もっとわかりやすいたとえを使うなら、幽霊は見たことがないからいないと言っているようなものだ」

「それならわかるかも」

 でもずいぶん極端だよね。その一言は言わないことにした。

 余計なひと言で何度叱られたか知れない。何人、遠く離れて行ったかしれない。もちろん生前の話だがそのたびに自分、というか自分の中の何かが死んだような気分になったのは今とどちらが彼岸なのかという程度だ。

 もう死んだのだから周りなんか気にしなくていいと思っていた。遠くも何もそもそも近しい存在なんかいないのだから。

「ありもせんものまで考え続けなければならないというのは、過去がごっそり消え去るより辛いものがあるぞ」

「だったら考えなきゃいいじゃないの」

 そこまで考えてラナはふと、自分がこの変な男を近しく思っていることに気付いた。怖い人だとか、優しい人だとかそういうものは一切感じない。

 むしろ何もない。

 そのくせ変な存在感と安らぎだけがある……ここまで拳で石の塔をぶち抜いたりバベル建てたり爆破したりいつの間にかいなくなったり、再出現したと思ったら本名より先に亡者A呼ばわり、真面目に積んでいた塔を理解できない何らかの理由で崩したりとやっていることは無茶苦茶だが傍にいるとなぜか安心する。

 確かに死人には口なんかなくていいかもしれない。

「すぐにそうできたらIQ180超の俺だってこんなこと考えまい。俺の場合、日常生活に支障が出るちょっとした理由があったし自分の中でもある程度の解決案がほしかった」

 そんなにあったのかよ、IQ。

「日常生活に支障が出るって、作家か何かだったの?」

「まさか、ただの魔導師だ。過去が消し飛んだだけの……」

 消し飛んだ?過去が?……いや、記憶喪失か何かだろう。記憶喪失なら死んだ時点で回復するはずだが……そこまで考えて違和感を覚える。

 だがいつも異様なまでに澄みきっている男の瞳が急に薄黒く濁るのを見て、ラナはおざなりに結論を出してもうこの話題は振らないことにした。

 いっそ話題を変えてしまおう。

「ねえ、なんか唐突に友はいいものだとか言ってたけど、お兄さん友達いたの?魔導師って人里離れて暮らしてるイメージ強いし性格も悪いし完全にボッチだと思ってたんだけど」

 濁った眼が澄んでいく。清らかな泉を見ているように心が澄んでいくのを感じる。

「偏見だな。魔導師だって国に仕えてるやつらは交通の便を考慮して駅近に住んでたりするし俺は甲種なのに町にいたから大人気だったぞ、すれ違う誰もが『お大事に』『長生きしてね』『お前ならできる』『頑張れよ!』と声をかけてくるくらいな。余命宣告受けてるのに」

「……町の人が気遣ってくれてるはずなのにその言い方だとひどいいじめが一周して高度なプレイになってるみたいよね」

 どれもこれもねぎらいの言葉なのに何でだろう。

「甘いマスクで女性にも大人気、子供にも好かれる」

「見る目のない人ってどこにでもいるのね。子供に関してはよくわからないけど。同性にはどうなわけ?」

「同性か。それはな、隣国の大統領に」

「ふさふさで年取ってて奥さん美人な方?禿げてるけど若くて独身な方?ほどほどでナイスミドルで夫婦仲良好な方?」

 頭髪の描写が最初に入るのは子供だから仕方ない。これがいい年のおばさまであればだれそれがどこそこのなにがしとほにゃららとか何とかというようなゴシップが最初に来たはずだ。

「……中年だ。公務で食事に呼ばれた」

「ああほどほどの。で?発毛剤でも貰った?」

 男は静かに深いため息をついた。

「ホテルに……連れ込まれた」

「あっ、察した。察したからもう何か言う要らないヨロシ。大変だたあるね」

 なぜか片言になった。頬がぽわんと熱くなる。確かに彼は整った顔をしている、それに変になよなよしたタイプでもないし好きな人は好きだろうといや別に何か想像などしているわけではない。していない。していない……はずだ。

「ちょっと待て誤解だ。俺は丁重にお断りして帰ったぞ」

 彼の言う「丁重に」と「お断り」のはざまには「証拠が残らないように留意しつつ記憶と意識が飛ぶまでひたすら殴って」という物騒にもほどがある内容が挟まっていたが純真な少女が知っているはずはない。

「なんだ、よか……つまんないの」

「つまりがあってたまるか、俺にそんな趣味はない!あるものかあああ!」

 なぜか対岸に向けて叫ぶ亡者だった。

「同性は……まとめると友達がいそうにないわね」

「おい待て、なぜ俺に友達がいない方向で話を続けようとしている」

 いまさら「あるものかあああ!」のこだまが返ってきた。このタイミングだと友達の有無に関してあるものかと言っているみたいだ。

「……いたの?」

「いる。弟子の後見人を頼んでいる」

「へえ……って、なんて言って頼んだのよ」

 事と次第によっては、事と次第による。

「いいだろう。あの時俺は病院のベッドに横たわっていた」

「病死だったの?意外にまともな死にかたね」

 そう言ったあとで病気によってはそうでもないだろうかと思う。

「そして、じっと奴の目を見て言ったんだ……頼むぞわが友よ、と」

――あとそうだな。こんな時に言うべきことではないのかも知れんが、俺は最近『禿になる呪い』を習得してな。

――いや、というより少し発展させてみたのだ。寝ていても魔術の研究はできる……そうだろう?そんな顔をするなよ。

――しかしこの呪いは欠陥品だ。一度かけたらもう元の状態に戻ることはないしDNA自体に作用するから地味に遺伝する。

 魔術の研究でも任せたのかな?ラナは本当に純粋だった。

「……この性質のせいで一度も実験ができていないからどこまで影響するのかわからんのだが、発動はそう難しくない。そうだな、今ここでお前の魔法が発動するより前に完全な状態で使えるだろう。この意味がわかるな?……そう言ったのだ」

 言い終えてしばらく、男はドヤ顔で座っていた。どうだ言ってやったぞと言わんばかりである。

「ぶっ」それから数秒後、すべてを理解したラナは吹いた。「何それ、完全に脅迫じゃない!」

「脅迫ではない、友情だ」


 現世ではとある中年太りの魔導師が大きなくしゃみをしたという。立てこもりの犯人を説得していた折であったため、このくしゃみによる死者は8名。

 7名が立てこもり犯グループで、1名が暴発した銃で死んだその辺のおじいちゃんである。

地獄の亡者は話に関わって来るのか来ないのか。主人公は死霊術師、これ不変です。

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