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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
持たざることはすなわち罪
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デレ期は突然に

 久々に地獄ソロです。このところ回想と日常が9割がただったのでいい箸休めになるかな、と思ってます。

 すべての者には適材適所というものがある。これが上官の持論だ。者とは社会を構成する個人という意味で使っている。よく言われる物の方は工夫次第で何とでもなるから棚に上げる。そして彼は中間管理職で長いので、経験も相まって適材適所というものを見抜くことに長けていた。

 それによるとどうもニーチェは獄卒には向いていないようだ。

「……わかるか?今折れたのが肋骨だな。小説や漫画ではそこそこのダメージを与えられたがまだ戦える描写にほどよく使われる肋骨だ……ふ、ふふふふ……そうだ……まだこんなものでは死ねない」

 拷問吏になれそうだ。その予感は間違ってなかった。でもここ数日やらせてみたら精神を病む鬼が続出した。

 地獄ってチームワークだからとか臭いセリフを吐くつもりはないが、大体個人プレーなのだが、同僚を蝕んじゃダメだろ。何の罰ゲームだ。地獄自体、人間のための人生最後の罰ゲームみたいなところだがなぜ獄卒が罰ゲームを受けねばならんのか。

「しかし痛いよなあ……?骨が折れたんだから当たり前だが……思ったより痛いだろう?呼吸をするだけで軋むのがわかるだろう。一応つながっているように折ったから肺に傷はついていない。もっと楽しもう?ふふふ……まだ終わらんよ……まだだ。まだ一本目だからな……あう、何をする」

 言葉攻めを並行していたニーチェを掴んで引き剥がす。バックヤードに連れ込んでお説教タイムだ。くどくどくどくど。一方で彼には反省の色は見えない。

 藤色の瞳のまわりで黄色みがかった白目の部分がてらてらと光っている。ピンクの砂糖菓子みたいな薄い唇は笑みを残したまま、浅い弧を描いている。その隙間から牙が見えた。乳歯である。黄金の眉も髪も睫毛までふわふわと微風にそよめいて、角に絡みつく。

 まさに、鬼。

「ちゃんと責め苦を与えていたではないか」

「いや、ここそういう地獄じゃないから。ただひたすら肉体的苦痛を与えるだけで、精神的に追い詰めないから」

「精神と肉体とは不可分なものと思うが、どうだ。実際、死後の精神を痛めつけ更生させるためにある地獄でもこのように肉体的な痛みを与える」

 ぐうっ。反論できなかった。確かに正論だ。

「……その通りだが、ほら。それで同僚痛めつけちゃだめだから。向いてないっていうか」

「そんな。じゃ、嫌がらせを考えるのは得意なんだ、阿鼻に送り込んでくれ」

 ああ、得意だろうな。今まさに俺に対してやってるもんな。上官は宇宙を仰いだ。宇宙とかいたらそらと読みたい。それも上官だ。

「あんなところのどこがいいんだよ」

「オーダーメイドでお一人様用に悪意の詰まったアミューズメントパークを作りたいのだ」

 ちょっと子供っぽく上目遣いで言ってくるが、そもそもニーチェの方が背が高い。はたからも本人からもガンをつけられているようにしか見えない。

「作ったとして実際に使われるのは2000年後だぞ……」

「えっそれは長い。上官殿、改善しろ。今すぐに」

「無茶ぶりだよ!」

「それもそうだな。柔軟な思い付きのできない結晶性知能のおいぼれのために少し頭脳を売ってやる」

「押し売るなよ!せめて押し売りならちょっとは客を持ち上げろよ!」

 蹴落とすんじゃねえよ!上官の注意というかツッコミを馬耳東風と聞き流し、ニーチェは頼んでもいない商品を突き出してきた。品名、アイデア。

「いつだったか4秒の間に200年経過したかのように体感させられたことならあるからその技術を使えばどうだ?」

「何だそれ便利そう……幻術か何かか?」

「ううん、多分薬物。何か注射されたと思ったらぼんやり気が遠くなって、そのくらいに頭に電極刺された。今にして思うとあれは俺の脳波を記録していたのだろう……ふふ、頭蓋を開かなくても人の心って壊せるんだな……」

 実行できない!手間を減らせると思ったのだが、執行する側の精神がピンチだ。二度手間どころか鬼手間だ。

「とにかく獄卒は向いてない。お前には別の仕事を回すよ……ん?」

 仰いだ顔をうつむけたら、なぜかニーチェが少し身をかがめていた。手に伝わる艶やかで少し硬い感触。手を引くと、ゆるりと姿勢を戻してくる。無意識に撫でていたようだ。

 年のせいかついつい人の頭を撫でてしまうことがよくある。今のように身をかがめることを強いてしまうことも。多くは途中で文句を言ったり抵抗したりするのだが、ニーチェは何も言わずに従っていたらしい。

「あ、ごめん。撫でてた。戻ってもいいぞ」

 いいぞ……許可はないよなあ?誰に何を許すのだ?許されなければならないのは貴様の方だろうが。上から目線にもほどがあるだろう――そんなふうに言われるものと思っていたが、彼は何も言わずに大人しく顔をあげた。

 いやに従順だ。ついじっと見つめてしまったことに、藤色の移動で気づく。

「そんなに見るな……照れる」

 デレた。

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