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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
少女よ、生き抜け。
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VIPほにゃらら

設定魔でして、ええ。毎回話の前にプロローグ的な設定の波が配置されてしまっていました。ですが安心してください、もうやりませんから。

「合格、してるでしょうか?」

「サイトを見ないとわからないよ」

 パスワード入力画面が現れると同時にからんころんと、事務所のドアを誰かが開けた、カウベルの音がした。ユングが振り向く。イルマも振り向いた。

 現れたのは、中年太りの魔導師。もとい、『あの人』。

「あ……お久しぶりです」

「よう、イルちゃん元気か?お土産があるぞー」ごそごそとマントの裏から何やら平たい箱を取り出す。「青福、好きだろ?」

 苦手なのに恐怖の対象なのにわあいと歓声を上げて飛びついてしまうイルマだった。青福の魔力、恐るべし。

「あ、あの、不条理の魔導師、カミュさんですか?」

 おそらく目を輝かせているユングにおう、と返事をしてさっそく勧めてもない椅子に座る。だから太るんだ。

「心配しなくても兄ちゃんは狩らないぜ」

「え?僕、狩られるんですか?」

 ユングの鈍い反応に面白そうに笑う。今の一言が凶器だったかもしれないのに呑気だからだろう。

 さて、とカミュは話を切り出した。

「本題に入る、と言いたいところだが……その前に、ユング。魔導試験乙種合格だ。これといって目立った攻撃魔法もないが魔力のコントロールが素晴らしい」

 えへー素晴らしいなんて、とほめられて照れまくる。

「あと、お前の杖。うちの資料で見覚えがある……見せてくれるか?」

 ずいぶん鋭い眼をして言うので、さすがのユングも呑気に照れてはいられず「これですか」と骨董品の部類に入るだろうかご型の重い杖を差し出した。カミュは少々恭しく両手で受け取る。ただの杖の扱いではない。

「柄はタガヤサン、断面の直径は6から7センチ。ヘッドはかご型、腕は六本。金メッキをしてはいるがイリジウムを仕込んだ鋼鉄製……宝玉は、ガラス。そうだな?」

「はい?持っただけでわかるんですか?」

 いやだから資料で見たんだって。あいかわらずぼんやりしているというか、抜けているというか。カミュのほうはこれでも真面目な顔をしている。

「どこで手に入れた?」

「さあ、それは父方の祖父の遺品ですからよく知りません」少し眉をひそめた。「その杖が、何か?」

 静かに首を振って沈黙を返し、何者なんだ、と呟く。

「お前のじいさんはどんな奴だった?まさか、あのお方なのか?」

「ただの人間の魔術師でしたが……あの方ってどの方ですか?」

 沈黙が流れた。

「ちょっとカミュさん、ちゃんと説明してよ。話が通じてないよ!それにユングはきっと何も知らないよ!」

 張り詰めていた中年の顔がずるーんと脱力した。そうみたいだなー、と苦笑する。

「じゃ最後に一つ質問だ。お前の使える魔法は、三日前会場で披露したやつだけか?」

 はい、とユングがうなずいた。開けていた窓から吹き込んだ風がカーテンを舞いあがらせて、イルマの角度からカミュの表情はうかがいしれない。

「本当か?本当はもう一つ、使えるんじゃないのか……たとえば具現を」

「え、できませんけど」不気味そうに顔をしかめる。「貴方はさっきから何を言ってるんですか?」

 ははは、と乾いた笑い声が聞こえた。風が止む。

「いや、すまん!どうも上層部の早とちりだったみたいだ」屈託のない笑顔は三年前の記憶と同じだ。「じゃあやっと本題だ。お前は魔族まじりで間違いないんだな?」

「はい。クォーターです。なんか、登録されるんでしたっけ?」

 そゆことー、とかふざけて言いながらカミュが杖を返す。ユングは別に登録されてもいいらしい。普通嫌がりそうなものだがそこも魔族とヒトの差なのだろうか。

「頼むから不審なファイル開いてウイルス感染からの個人情報流出とか勘弁してくださいよ」

「大丈夫、問題ない!そもそもうちの管理用コンピューターはネットに接続していないんでね」

「普通そうですよ、そんな間抜けなミスしないでください」

 時事ネタで笑いあう敵同士に苦笑しつつも、イルマはこう言った。

「ところで、青福食べてもいい?」

 青福というのはコルヌタの西部で有名なお土産というか、あちらの方ではどこでも売ってるお菓子の一つで、枝豆をつぶして作った甘い緑の餡でなめらかな餅を包んだものである。おいしい。

 カミュはめでたく助手に就任したユングとあれやこれやと依頼についての話をしているがまったく興味はない。なんかそっちでやっといて。

「なあ、なあイルちゃん。この仕事、受けるか?」

「んむ?」声を掛けられてうるさそうにカミュの手元の資料に目をやる。「えーと……暗殺じゃん。受けないよ」

 そこには大量殺人犯やテロリスト、ブラックリストと俗に言う人たちが顔写真付きで載っていた。端の方に彼女の師の写真がまた違う名前で載っている……大きく赤で×をつけてあるが。

「いや、一応治安を守るための賞金首だし生け取りが基本なんだが……駄目か?」

「でもこの前もそういうの大臣さんが持ってきてたよ、政治家の名前いっぱい並んでるやつ。なんか、ししょーは受けたって言ってたけど」

「ははは。そっちは正真正銘の暗殺依頼だな……じゃあいいよ、こういうのは持ってこないようにする。じゃあ、これは?」

 ユングに聞いたら「決闘したらお金がもらえるんですよね?」と人間界では浮世離れした答えが返ってきて本当に困ったのだそうだ。

 実際、魔界というか魔族は力がすべてなのでその辺の人を適当に選んで決闘してもらえば野次馬や相手からファイトマネーが手に入る。魔界を旅する冒険者が魔物を倒すと金貨やアイテムを拾うのはそういうことだったのである。

 うっかり相手が死んでもそれは仕方ない、ということになっている。

「盗賊退治?うん、内容はいいと思うよ。でもさあ、礼金が」確かに安いな。カミュが眉を寄せた。

「この人たち相場わかってるの?しかも盗賊が身につけてたものは全部村の自治体に持って来いって……ここって観光地だよね?盗賊が取ったものって他の所の人のものもあるんじゃないかな。ちゃんと持ち主とか遺族とかに届くの?」

「どうだか。……ちょっと地方になると公務員でもれっきとした国家資格だと認識してないからこんな金額で魔導師を雇いたがるもんだな。お前の師匠ならどうしてた?」

「宝の隠し場所はわかりませんでした!って言って全部持ち逃げだね」

「は、ははは。そいつぁ……犯罪だなオイ」

 二人がバカなことを言っている間もユングは真面目な顔で「しごととくらし」という子供向けの経済教本をじっくり読んでいた。熟読と言ってもいい。

 魔族としてはまだまだ子供の年齢なので魔界ではそういう風に扱われていた。別に何とも思わない。

「洞窟の探検って言うのもあるね。珍しいや」

「それは最近近くで魔物が多く見られるからどこかにつながってるんじゃないかって話だな。ちゃんと帰って来られる実力の持ち主がいいが、洞窟が崩れても困るからちょっとややこしいとか言ってたぞ」

「……ゾンビさん三人いたらすぐ終わるかな。それ受けるよ。他に、洞窟近くの依頼は?最近収入がほぼゼロだから稼いどかないと」

 にぱあ、とカミュが笑う。待ってましたと言わんばかりだ。近いのはなー。がさごそと書類を引っ張り出す。そんなにあるのか。

 十個もあった。この地域に何が起こっているというのだろう。多すぎる。

「私名義で三つ、あとユングの名義で三つ……六つ受けられるね。あと必要人数も二人まで受けられるし」

 雇ってよかった、助手。今になってそんなことを思った。

「うん?ああ、そうか。それならこんなのがあるぜ、いわゆる。なんて言ったかな異常に巨大化した魔物を討伐しに行く」

「いわゆる三倍体だね?」

「そう。チーム戦で、今は丙種の魔導師が三人決まっている。乙種か甲種が二人ほしいところだ」

 じゃあそれもー。ほしい服があるのだー。物欲には限りがないようだ。物欲ついでに携帯電話など買ってもいいかもしれない。

 確か師は「そんなもんいらん帰れさもなくばこの杖で物理的に変身させるぞ」とか言ってセールスマンを追い返していたがあって困ることはないだろう。

 何があってもいいように、ある程度の魔力は残せ。武器でも体術でも使って不要な魔力は使うな。彼に教わった教訓の一つだ。

 カミュが帰った後、冷蔵庫を見たら食材がもうなかったので買いに行くことにした。今日から住込みのユングも連れて近所のスーパーに出かける。近所とはいえ歩いて行くのは甚だ面倒である。

「うわあ、すごいバイクですね。乗るんですか?」

「免許持ってないし免許取れる年齢じゃないからそれは乗れないよ。ししょーの何の役にも立たない遺品36号。でもお手入れはちゃんとしてるから動くのは動く」

 今度免許を取ろうとユングは思った。よくよく考えたら人間としてはそういう年齢なのだ。つんつんとマフラーを触ってみる。おお、重厚重厚。

「自転車だよ、二台あるし」

 ファンタジーさん、死なないで。

 きこきこと自転車をこいでスーパーへやってきた。

 お安いブロック肉と卵をかごに入れる。牛乳も欲しいかな。食パンも補充した。ヨーグルト。チーズ。乳製品が多い。いい魚があったら夕飯にしようかとも思ったが、そっちは特にいいものはなかった。

「ねー、ユングってなんか好きな物ある?」

「日光ですかね」

 好き嫌いのない助手だった。これは助かる。

 イルマは今でこそこうだが、昔は好き嫌いが多くて師を困らせたものだ。しかしこれも師の料理の腕の上達とともに減った。とりあえず食べられないってことはないのだ。

 それ以上に師を辟易させたのは確か髪の毛問題である。師の髪は病気と薬の副作用とで増減があった。酷い時はばさばさと束で抜けていた。それもなぜか後頭部から。だから彼は髪を伸ばして薄いのを隠していた。そして事あるごとにイルマにハゲだのロン毛だの言われていた。今にして思うと酷い。

 で、髪の毛問題というのはもう一つあって、こっちはイルマの方の問題である。幼いころのイルマは髪が長かった。

 7歳のときには解くと足首くらいまであった。これを二つに分けて三つ編みにしてもらっていた。そうじゃないと日常生活に支障が出た。

 ちなみに、両親が蒸発するまでは母親が洗って、乾かして、櫛を入れて、三つ編みにしていた。しかしその母親は借金のため父親とともに蒸発したのである。

 この作業を師が行うはめになった。ロリコンなら羨みそうなシチュエーションだが彼にそんな趣味はなく、ちょっと切ったらどうだ、というのが日を追うごとに剃れ!いっそ坊主にしてしまえ!と酷いことになっていった。

 一応その年内に凄く短くなったが、あんなことにならなくてもあの師はある日血管が切れて同じ髪型にしたような気がする。

「今日は焼きそばにしようっと」

遺品整理って何かと怖いものがありますね。うっかり見てはいけないものをみてしまったりして。実体的な意味で。霊体とかではなくて。

もしも自分自身の遺品がいつか誰かに整理されたら……それも怖いなー。死後だから止めようもないのがもっと怖いなー。

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