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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
持たざることはすなわち罪
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おしごとください

 新章突入!みたいな

 三日後、口座の入金を確認した日の夜、イルマは家計簿をつけながらちょっと苦い顔をした。タダ同然のユングの給料はともかく、三人分の食費は意外に効く。

 梅雨だから太陽光発電システムもまだ本調子じゃない。電気代をざっと計算して、マイナスはたったの120カウロだが、赤字は赤字。迷惑料の存在を思い出したがそう大きな黒字にはなるまい。

「賞金首狩るか……?コンビニ強盗くらいなら何とかなるかなあ……」

 くしゃくしゃと髪をかき分ける。賞金首とは指名手配犯に賞金がついたもので、大量殺人犯から強盗、はては窃盗まで取り揃えている。

 ちなみに、たまに指名すらされておらず、防犯カメラの映像から探さなければならないような人にも『山田』『太郎』『ジョン』『スミス』など適当な名前を付けられて無理矢理指名手配犯のくくりにされていることもある。

 都合のいい時だけはお役所も赤いテープを貼らないもので、名前が違いましたけど、とか言っても、メンゴメンゴ、で済まされてしまう。

「でも芋づる式に後ろの大物出てくるのやだよー、うわああん」

 真顔の少女の口から哀れっぽい泣き声がするのに風呂上がりの剛志は変な顔をして通り過ぎて行った。彼が終い湯である。

 蠅が通るのと同じだから気にしない。いや、蠅は家の中だとユングにおいしく食べられてしまうからそっちの方が気にとめている。覚悟していれば舌がひゅるると伸びるのもそんなに怖くない。

 だからイルマが考えているのは賞金首のリスクの方だ。それも師が身をもって教えてくれた。

 いつだったか、師が賞金首に手を出したのだ。あの時手を出したのはコンビニ強盗の三下である。あの後、両太ももをししょーに蜂の巣にされた麻薬密売組織を筆頭に暴力団まで引き出物になった。何であんなにいっぱい。いっそ異常だった。

 ゴキブリってあんな感じだ。家計は潤ったが師は数回病により死にかけている。おっ、今もしかしてすべての問題を解決する糸口が見えた?

「でもあの頃のししょーはまだ今の私より強いもんなー、無理だー」

 ただ手数が多いのでは不足だ。魔導師に限った話ではなく、人間にはその時々の「調子」とでも言うようなものがある。

 使い古しの表現だが、強さには幅があるのだ。つまり絶不調のスーパーヒーローを絶好調のサラリーマンが倒せてしまう理屈である。

 強さの幅、弱い時はそれでもいい。まず街中にいるときに襲われたりはしないし、そもそも難しい依頼などが来ないからだ。ヤクザのお兄さんだってカタギの人にそこまで興味があるわけじゃないから相当運が悪いということがなければ平気。

 魔界に近いから町の外は多少危ないが、治安はいい方である。歩いていて路地裏に連れ込まれることはまずない。

 しかし、ある一定以上に強くなると今度は幅が命取りになる。ピンでもキリでも変わらない実力が必要だ。どこぞの大量殺人魔導師みたくとはいかずとも、よくわからない恨みなんかを買っていることが多いのだ。羨望や嫉妬が憎しみに変わる時だってある。

 このくらいになってくると歩いていて路地裏に連れ込まれたりはままあることになる。それは魔導師の仕事じゃないよと言いたくもなるが資本主義は財力と権力と暴力と生命力と魔力の見分けがついてないから仕方ない。

 幅を上へ上へと伸ばしながら、下を切り捨てて行かなくてはならない。むしろ上に伸ばすより下をなくす方が大切であったりもする。大きな落差は隙以外の何者でもないからだ。

 そしてイルマはこの幅が存外に大きい。

 莫大な魔力はそれ本来の性質に合ってないから操り切れていない。だから封珠の杖でもって無理矢理デチューンしている。

 殺し合いの場においてわが身を顧みる情動が他人と比べて小さい。思い切りがいいと言えば聞こえはいいが、それは危機感がないということでもある。だから格下相手に片腕を持っていかれたこともある。

 花粉症。そこまで重くないが鼻水が出るから春は嫌いである。秋も花粉が飛んでいるらしいので、心配。懐に余裕ができたらすぐにでも耳鼻科に行った方がよさそうだ。

 そして性別。端的に言えば生理。生理痛にしても出血にしてもやっぱり重いほうではないと思うのだが、腹痛はパフォーマンスを下げる。月に一回も来てくれる誠実さが憎い。

 さらに助手が魔族脳。だからこそ寝首をかかれる心配はない。ただ、殺れる、と思われたら速攻で来そうだ。絶不調時でもユングごときに後れを取ることはないのはないのだが、ユングの場合魔物の血を使って底上げをしてくるわけで。

 そうなると何が起きるかわかったもんじゃないわけで……。

「どうしたらいいのししょー」

 追憶に逃げた。

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