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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
魔神様の謹製スフレチーズケーキ
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魔術講座そのいち

 本編です。そのにはあるのかな?

 会話がひと段落したところでユングに剛志を叩き起こさせ、トリップした原因を一切説明しないで魔神に帰る方法を探してもらうことになったと告げる。だって、原因が、ねえ。

 トリップ猿人は号泣して寂しがっていた。帰れると聞いて悲しむのはおかしいような気もするが、日本とかいう魔窟と違ってコルヌタはちゃんとした法治国家だから、帰りたくないのだろう。

 無理もない。魔窟の住人に居座られる近代国家は迷惑この上ないけどな。

「帰れるんだ、俺……」

 きっとこの一言も悲しさのあまり脳の回路がこんがらがって出ているのだろう。そうに決まっている。

 コールは静かに席を立って、台所お借りします、としずしず去った。チーズケーキでも焼いてくれるのだろう。


 さて、魔神がチーズケーキ片手に戻ってくるまでの間、イルマとユングは異世界原人に実験として魔法を教えてみることにした。最初なので、肩にそっと手を置いて魔力を流し込む。最初は少しずつ、無理に流すと体を壊す。

「どう?何か流れてんのわかる?」

「ああ、肩から腕があったかくなってきた。これが魔力なのか?」

 質問には答えずに、ユングにもやるよう指示する。イルマが他人に魔力を流したり回路を開いたりするのは初めてのことではない。その経験から言って何だか変な感触なのだ。異世界人だからか、別の理由かはわからない。指示を受けたユングは逆の肩に手を置く。

 イルマはそっと目を閉じた。手のひらの感覚から魔力を読む。

 魔力というより魔力が発生させる力場の周波数を読んでいるのだが、どっちだって似たようなものだ。自分の数値も覚えていないしパッと触れただけで数値が計算できたりはしないが、イメージを大まかにつかむことはできる。

 ユングの魔力は水の精を祖母に持つ彼らしく、滞りなく流れる冷たいせせらぎのようだった。何も耽美だと評するつもりはない。ともすれば冷たく尖り、また沸騰する。とろみのない水。繊細なコントロールを得意とするが一度に放出される火力の上限もそこそこ高いタイプだ。

 持久力にかけるのが特徴だが、彼の場合達人級のレイピアがある。雇ってよかった。隣で商売敵でもされようものなら経済的に死んでいた。

 イルマの魔力はなんせ自分のことだから自分ではわからないけれど、師匠は生前に雑草のようだと評した。すぐに繁茂して地面を埋め尽くし背の低い他の草を全滅させて恐ろしいスピードで領域を侵す。むしり取ってもむしり取っても根がある限りいつまでだって戻ってくる。

 本来、草のイメージは繊細なコントロールこそ得意とすれ、持久力こそあれ、大火力の魔法には向かない。イルマは圧倒的な魔力量と威力でその辺をねじ切っているに過ぎないので本来の使い方を封珠の杖を用いて実行している。

 早い話が、魔力は自分に合った使い方をしないと大変なしっぺ返しを食らうのである。器用貧乏で済めばいいところで、不相応な火力やコントロールはかえって身を滅ぼす。時として周囲を巻き込みながら。

 巻き込むのは好きだが、巻き込まれるのは嫌だ。

(ししょーの魔力は確か、毒のイメージだったな)

 毒って何だっけ。ぐるぐる考えながらユングと二人で剛志の魔力を探す。あれ?ないな。もしかしてないんじゃないか?だってさっきからユングの魔力のイメージしか伝わってこないんだ。

「どう、どこに何が流れてる?」

「もう何か流れてる感じはない。なんか、あったかいものが腹の中に溜まってる感じだ」

 あー。感嘆とも納得ともつかぬ声がイルマの唇の上を滑って天井の隅に消えていく。希望も消えていく。ユングもういいよ、と手を離す。

「残念なお知らせでーす、剛志くん」

「え?何?」

 ちょっとにやけているのが腹立たしい。ああ魔力もったいない!

「君には魔力なんかこれっぽっちも存在しない。あのね、私たち魔法使いは自分の体の中で魔力を循環させて、増幅して撃ち出してるんだけどね。普通の人は魔力はあるけど自発的な循環がない状態だ。だから外から魔力を流し込むと、それに押されて魔力が流れる」

「お、おう……」

「でも君は流し込まれた魔力を、ただただ体内に溜めるだけで、流さなかったんだよ。わかる?言ってる意味わかる?」

 しゅーんとブルドッグが小さくなる。最初は不細工すぎて表情が読めなかったが、だんだん慣れて来た。こうしてみると表情は豊かだ。

「しかも、さっき流れてるかって聞いたけどあの時まだ私たちは魔力を流し込んでたんだよね。流し込んでもそれで循環しない、つまり君には魔力どころか、くそっ、正式名称忘れた……魔導回路とでも言おうか?魔法を使うための最低限の機能すら搭載されていない」

 ここまでおっけー?見ていたくもない顔をじっと見て八つ当たり気味に威圧する。コクコク連続で頷いている猿。

 イルマは玉座に座るように剛志が座っているのとは別のソファに腰かけた。乱暴に身体をクッションに投げかける。ユングはしばらく指示でも待つように首を傾げてこちらを見ていたが、結局イルマに倣い、隣に座った。

 指示待ち人間は駄目だ。

 書き溜めが尽きた……。

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