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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
魔神様の謹製スフレチーズケーキ
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聴かなきゃよかった真相

 本編ですね。いやもう、ファンタジーしかしておりませんね。最近の異世界トリップ系だからファンタジーでいいのかなって思わないこともないですけど、某ナルニア国物語もトリップしてるから大丈夫かな。

「で、さあ」

 狂信者は剛志が泡を噴いて倒れたところで気が済んだらしい。ユングがニコニコ笑って椅子に戻ったところでイルマは改めて質問した。

「今度はどういう趣向のお遊びなのかな?コールさん」

「ど、どういうことですか!?まさか、魔神様が暇つぶし代わりに思い付きで異世界から不細工を呼び出してこのような事態を招いたとでも言うのですか!?」

 わかってるじゃん。全部わかってるじゃん。その通りだよ。もはやツッコむ気も起きず、イルマは彼の発言を流した。

「ええ、その通りですよ。動機も、そのためにとった行動も」

 犯人はあっさり自白した。犯人はヤス。まさにその通りだ。

「だったら話が早いや。コールさん、こいつどうしたら元の世界に還せる?このゴミ、いい加減迷惑だからどうにかしたいんだ」

「現状ではこれといって有効な手段はございません」

「探して。ていうか、連れて来たんだから逆の手順で戻せるんじゃないの?」

 それがまた難しいのですよ。コールはちょっとだけ困ったように眉を寄せた。ちょっとだけ。だから説明しながら愁眉は開いていく。

「まず彼はかなり運が良いということを理解していただかねばなりません。私が向こうの世界で手を出したのは、約67万人です。輸送が問題でしてね、世界それ自体が異なる場所にあるため転移の魔法以外は期待できませんでした。ですからそのうち、実際に輸送に成功したのは12万人。生きた状態でこの世界にたどり着いたのが327人……そして」

 頬を紅潮させ、唇を三日月の形にして大きく息を吸い込み、魔神は告げる。

「――24時間が経過して生存していたのがそこにいます、相馬剛志ただ一人にございます!」

 やはり、彼は人間の命というものをほとんど紙屑のようにしか思っていない。またひとつ何かが腑に落ちた。たぶん人類という種のことに関しては、魔族に対抗して女神が低予算で作ったまがい物の進化版とでも思っているのだろう。

 しかし今の計算だと少なくとも10万人くらいサクッと死んでいる。輸送に失敗した方々のその後によっては67万人死んでいるだろう。

 異世界の人口がどのくらいあるのか知らないけれど、こちらの世界の人口は地球上で60億だったかな?そう考えると、かなりの数なのではないか?異世界の人気づかないの?

 それとも異世界では普通に毎日そのくらい消えてるの?

「うん、すごい確率だね。異能生存体か何かかな」

「いいえ、単なる確率の問題かと。それも異能と考えれば話は別ですが……殺してみますか?普通に死ぬと思いますが。ともかく、67万回以上も試せばどれかは当たります、私とてこれが初めてではございません……何度か同様の実験は行っております」

 えっへん!と小さな胸を張る。威張ることじゃないから。

「還す実験は?」

「送還するまで生き残っていた個体が居りませんでしたから。放置すると長くて一週間で死にます。といって大切に飼ってもなぜか逃げてしまい、その先で飢えたり獣に食われて勝手に死ぬのです」

 ああ、魔物の中から見つかった人の腕のようなものとかか。何かが腑に落ちる。コールは目をキラキラさせながら子供のように足をパタパタ動かした。

「悲しいですね!」

「心にもないこと言わないで。言うとしてもせめて悲しそうな顔くらいはして」

「あら、ばれましたか。今回はちょうどイルマがいたので近くに投下したら保護してくれるかなと思って。その通りだったので感謝しています」

「狙ってたんだ……やっぱり。あの腐った死体も」

「ええ。面白く見せていただきましたよ。強いけれども知略を尽くして降せぬ相手ではない、ボスモンスターというものはやはりあのくらいが相応しいですね。やはり運営に一言言ってこなくては」

 また倒せない敵が出て来たんだろうと脳内補完する。神経質そうに爪を噛む魔神。大体の無理ゲーは魔神本来の反応速度と演算能力を使えばなんとかなるだろうに、これだから廃人は。すぐ現実とゲームを一緒くたにする。

 この方々から見れば人間の言う現実など単なる環境シミュレーションゲームに過ぎないのかもしれないけれど、学者に見せればゲーム脳の判定をいただくことは間違いない。

 ここまでイルマには衝撃でも何でもない事実だったが、泡噴いて倒れたまま起きてこない当事者が聴いたら発狂ものだ。いや発狂してくれた方がいくらか楽な気もするけれど、実行するのは正しくないんだよねししょー。

 だったら実行しないよ。えらい?褒めてもいいんだよ。

「しかしあれで彼があなた方のことを信用して素直に従うようになったのは事実でしょう?怒らないでください」

「あーうん怒らないよ。過ぎた話だし追加報酬とかあったから腐れドラゴンのことは怒らないよ。でもね?迷惑だよ?こんなもん送り込まれたら迷惑だよ。こっちの都合も考えてよね」

 コールは絶対次もやらかすに違いない笑顔で、わかりましたと朗らかに返事をした。信じられないが、しかし、やらかすという一点においてのみ信用が置ける。こんな可愛らしいなりをしていても大魔神だ、わざわざ掘り下げはしない。

 しないが、こっちの都合も考えてよね、と繰り返す。

「では、送還する方法を考えておきますね。最悪全魔族に剛志の帰還を願ってもらわねばならなくなりますから、どちらにせよしばしお待ちください」

 つまり、こっちから連絡するから聞いてくるなということだった。

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