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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
魔神様の謹製スフレチーズケーキ
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魔神召喚の際はご注意を

 とうとう謎が解ける!かも?

「も、もうわかったのか!?っていうか何でわかるんだ!?何で知ってるんだ!?何で今まで言わなかった!?」

 ふふーん。答えは曖昧に暈したままぽちっとテレビの電源を切る。断じて、剛志の顔がキモイからではない。

 そのまま席を立ち、傘立てに無造作に突っ込まれた杖を引き抜く。丸い大きな宝玉が四つの爪で固定された、細めの杖。それを、こーんと床に突き立てる。唇が震え、彼女には珍しく詠唱が始まる。

「真犯人さん出ておいでー、出ないと目玉をくりぬいてー、眼窩に球根植えちゃうぞー」

 背筋が寒くなるような呪文が始まった。光る魔法陣が描き出されるが、反応は今のところない。もしかして、犯人を喚び出す召喚魔法なのだろうか?便利だろうけどミステリーが死ぬな。

「真犯人さん出ておいでー、出ないとこっそり待ち伏せてー、靴にフッ化水素酸を仕掛けるぞー」

「先生、さすがにその呪文はやばそうです。実際にありそうな手口なんで」

「そうだねー、じゃあ血肉をシチューにしてー、ホームパーティーで出しちゃうぞー?」

 どうやらこの世界の呪文は、声さえ出ていれば何を言ってもいいタイプか、もしくは掛け声くらいの意味合いであるようだ。

「もう狙ってますよねえ?一応R15までで18に入ってないんで自粛していただけます?」

「ユング……メメタア!」

「あんっ、先生もっと殴って!」

「じゃあやめるね」

 そうこうしていたら魔法陣の中心で、何か……闇としか形容のできない何かが爆発した。

 思わず顔をかばう。どうしたの?と言いたげにきょとんとしている魔導師二人。きっとこいつらの神経は丸太より太い。

 どんなまずいものを喚び出したのだろう、と思っていたら陣の中心に跪いた愛らしい赤毛の少女が現れた。すこーんと肩が抜ける勢いで落ちる。

 大山鳴動して鼠一匹。もしかして今の闇はイルマが引き起こしていたんじゃないかとさえ思う。

「あれ、コールさん今日は分身なんだ?」

「ええ」声でどうやら赤毛の少女は赤毛の美少年だったらしいことが分かった。「本体は現在立て込んでおりますゆえ、このような姿でまみえる非礼をお許しください」

 訳、魔神の本体は腹痛で寝込んでおります。

 剛志は論外としてイルマはおろかユングも知らない実情を軽く臭わせながら、コールの分身はさらに低く頭を下げた。分身とはいえ彼もれっきとした魔神コール、ユングからほんの少し、そう鼻腔を撫でてゆくくらいの殺気が漂う。

 この時のイルマの心情、ライオンを放し飼いにしている家に連れ込まれた一般人といえばわかってくれるだろうか。

「いや、いいからいいから。顔をあげて。……で、そこのスツールにでも座って。話があるから」

「優しいですね、イルマは。おそらく貴方は、私とかかわりのございましたどの召喚術師より慈悲深いことでしょう」

 コールの分身がスツールにちょこんと座ったところで、ユングが据わった目をして立ち上がった。嫌な予感しかしない。どうしたの、トイレ?と心にもないことを聞く。

「――先生、ちょっと全人類滅ぼしてきます」

「やめてよ!?地味に私も含まれてるからやめてよ!」

 急いで立ち上がり、袖を引いて引き留めるがそもそもタッパが違いすぎる。留めることなどできもせず、ずりずりと引きずられるような格好になってしまった。

 うう、フローリングがちょっとねちょってする。雑巾がけしなきゃ。

 事務所は入り口で靴を脱いで上がる方式なので、脂が残っているときがある。そうならないためにスリッパがあるのだが、不精なもので時々どこかに置き忘れてしまうのだ。結果としてフローリングねちょねちょ問題が浮上する。

 汗をかくうえ冷たいフローリングが嬉しい夏なんか特に。いっそ絨毯でも敷こうかと思うのだが、絨毯と畳はスリッパで上がってはならないのだ。何の解決にもならない。

「大丈夫ですよ、先生や魔界で魔族とともに生活している人類は家畜として残します。でもね、魔神様をこき使うような冒涜的でおぞましい、吐き気を催すような醜悪なものどもはいりません」

「人間がぼろくそになってるところとか!地味に私もひどい扱いになってるところとか!その辺はもうこの際ツッコまない!ツッコまないから勘弁してよ!仕事がなくなっちゃうよ!それに人類をちょっとだけ残して滅ぼすってことはだよ!?昨日会ったブラムさん含む吸血鬼の皆さんに喧嘩の大特売を実施するんだよ!?」

 吸血鬼の一番の武器は対人戦闘の経験値と、他の追随を許さない身体能力である。ゲリラもできる。イルマを自分より強いと公言するユングが勝てる相手ではない。しかし、ユングには現実が見えていないようだ。

「大丈夫ですよ、僕は先生のためだけの名誉終身餌係です。永遠にあなただけに、あなたの望む美食を提供し続けます」

「その大丈夫ですよが一番怖い!すとーっぷ!じゃすたもーめん!温厚なユングよ帰ってこい!」

 見かねた剛志が「もうその辺にしろよ」と声をかけると、空色の瞳が眼鏡越しに無機質に彼を映した。

「まずは一匹」

「あ、そいつは殺っても大丈夫ですよ」

「何でだよー!?何で口調が移ってるんだよー!?何で助けようとしてくれないんだよー!?」

 コールは「はわわ」と慌てながらも少々楽しそうである。

「助けろよー!っていうか据わった目で杖振りかざして追っかけてくるなー!助けてー!」

 この先ずっと剛志は、メイスを手に地獄の果てまで追ってくる異様な目をした少年の悪夢を人生の端々で見ることとなるだろう。もし、生き残れたらの話だが。

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