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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
少女よ、生き抜け。
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朝顔ビルヂング

日常パートはもう少し続く、のかも?わりと息が長いようです。一話一話も長いみたいです。がんばって縮めてます。回想シーンっていいですよね。そうは思いません?

ところで題名ですが、朝顔屋敷っていう怪談がありまして。その話が何となく好きなのでこうなりました。話の上での関与はございません。

 現在、人々の足は牛馬から電車、自動車、新幹線などになっている。リニアモーターカーは開発中。道はアスファルトで舗装されマンホールが点在する。

 山一つ越えたところにある隣村だって実際には山は越えない。トンネルが通っているからだ。海の旅も海底トンネルや飛行機で、帆船などは観光用にわずか残っているのみだ。

 魔法使いも電車に乗る。それこそ魔法だから空を飛んだり走るのを速くしたりできるのだが、空を飛ぶのに使う魔力が馬鹿にならない。

 走るのを速くするのは自分にそういう魔法を付与するので走った道のダメージが計り知れない。靴底だってすり減る。諸費用と、実際の交通規制に従うことを考えると電車に乗った方が早い。

 転移の魔法もある。行きたい場所へ一瞬で移動する便利な魔法だ。しかし、この魔法はそもそも目的地に魔法陣を描いておく必要がある。

 まずあり得ないが、どこにでも描けたとして、一度行ったことのある場所にしか行けないのだ。しかも失敗すれば土の中に埋まったり骨だけが目的地に飛んだり恐ろしいことになる。

 この魔法も他の魔法と同様、日々努力と研鑽が重ねられているがいまだに実用化のできそうな代物にはなっていなかった。

 空飛ぶ車と同様、数十年後の話になるだろう。


「死んでよ、ししょー」

「ことわる」

 えーケチーと少女が横たわる男に甘えている。どこもかしこもただ白い、明るい部屋だ。けれど西に開いた小窓の光が壁や床を赤く染めている。

 他に、男の寝台の周囲に透明色の管が伸びて、枕もとに緑や青の波線がのたうつ手のひらくらいの大きさの黒い画面があるから決して殺風景ではない。

 そうだ、ここは病院だ。

「私、ちゃんと魔導師になったよ?約束と違うよー」

 ぽかぽかと男の腹を叩くふりをする少女は、昔のイルマだ。当然そこに寝ているのは……ゆっくりと今のイルマは視線を移動させた。ファンタジーさんの心音、今は聞こえない。

「駄目だろう、それだけでは」師が少し顔をしかめた。ちょいちょい、と骨ばった指で弟子を呼び寄せる。「ちょっとここまで来い、大声では言えない用件だ……」

 その手の甲に、手首に、肘の裏に色とりどりの管が突き刺さっている。それぞれ肌に刺さっている部分は血の滲んだガーゼが当てられている。割れた爪が夕日に反射してきらきらと輝いた。

「ししょー、爪」

 ああ、これな……と指先を隠すように軽くこぶしを握り、薬がきつくてもろくなってしまうようだといったようなことを明後日に目を向けて言った。身を起こすこともままならない身での、精一杯の強がり。

 見ていられなくて現在のイルマは目をそらした。記憶によればこのあと彼女は師の顔の近くまで近寄って軽く頬ずりしたはずだ。

「えへへー、じょりじょり」

 それは記憶そのままで、近い、とじょりじょりが軽く少女を押しのけた。寝返りを打って体をそちらに向けて、聞いたぞ、と言った。何を……と少女の視線がそれていく。

「公務員の職、蹴ったそうだな。……何を考えている?」

「だ、だってぇ……」

 だってもロッテもないとイルマを睨む。

「愚か者が。そんなことでお前はここからどうやって、……ッ」

 びくんと痙攣するように背を丸め白いパジャマの胸元を強く押さえる。奥歯を噛みしめるぎりぎりという音がここまで聞こえてくる。ししょー、ししょーと必死で肩のあたりをさすった。

 本当は死んでほしくなどない。なかった。それなのに。

「……お前はどうやって生きていくつもりだ?ビルの名義も俺だ。今はまだ住めているが、俺が死ねば明日にでも、すぐに追い出されるぞ。職なし家なし保護者なし、どうするつもりだ」

 少しの間ためらって、それでも澄んだ瞳を見つめて過去のイルマはその言葉を口にした。

「事務所を継ぐんだ」みるみるその両目に透明な滴がたまっていく。「いなくなるししょーの代わりに、あのビルの中でカウンターに座って、お客さんを待つんだ……だって、だって私は」

 ししょーの弟子だもん、と涙が流れ出した。止めようとぎゅっと目をつぶる。その上半身に、ずん、と温かい重みが加わった。力の入らない手が静かに肩を抱く。

 目を開けても温かい闇だが、あちこちの機械が警告音を発している。身を起こした師の胸に抱かれているのだ。記憶ではそうなっているが、今の彼女はそれを師の背後から見ていた。

(そっか、あの管が取れてたんだ。それでブザーが鳴ったんだ)

 背そのものも、ずいぶん小さくなったものだ。

「わかった、俺がすべて何とかしてやる……だから、泣くな」

「……夢、かあ」

 目が覚めたらいつものベッドの上にいた。瞼に涙は乗っていない。ただの追憶でしかなかったからだろう。今日はユングの合格発表。彼が来たら早くネットにつなげなくては。

――おっと、その前に朝ご飯だ!

 夢の続きは知っている。

 まずほとんどパニックの医師、看護師がいっぱい来て大変なことになり、この次の日に上層部に顔のきく不条理と顔を突き合わされたのだ。彼の何が怖いって、直死魔法の性質そのものだ。

 その場で適当に考えた呪文を唱えるだけで相手が死ぬ。

 つまり話をしていて次に発する言葉が呪文に該当することがあるのだ。いつぞやの戦時にはその呪文を唱える暇もなく実存の魔導師に半殺しの目に遭わされたもよう。

 ならば大したことはない、と考えていた時代がイルマにもあった。

――真実はあの魔法を防ぐには不可避の速攻しかないというだけのことだ。

「……人間デスノートだよね」

 フライパンを火にかけパンをトースターに突っ込む。二つ穴があるあのトースターだ。もう長いこと片方しか使っていない。タイマーは三分、きつね色に仕上がる。その間にフライパンへ油を引いて、温まったところで卵を落とす。

 塩コショウを少々、白身が固まったところで火を止める。余熱で半熟になるのだ。ちょうどパンが飛び出してきたので皿を出して、スライスチーズを載せる。

 てっぺんに半熟卵を載せればみんなの朝食クロックマダムの完成だ。ああなんてお手軽おいしい料理。考えた人は勲章ものだ。

 テレビをつけたら狙ったニュース番組がちょうど出てきた。今日の降水確率は30パーセント。経験則と師の言葉より、30の時は降らない。

 窓を開けるとなかなかの青空。もうすぐ梅雨だから、このいいお天気も今日でしばしのお別れかもしれない。

 その窓から見下ろせるビルの二階のバルコニーにはプラスチックのプランターがあり、緑のカーテン用に毎年植える朝顔がめこめこと芽を出している。

 最初に買ったのは天国のような青とかなんかそういう名前の品種と白と赤系だったような気がするが、その年できた種を取っておいて来年植える、たまに近所の人と種を交換してみる、を繰り返しているから紫とか変な模様のあるやつとかいろいろおもしろいことになっていた。いつかきっと新種が生える。

 四階の窓の上からネットを吊るしているから、今年もしっかり節電の手助けになってくれるはずだ。

 そういえばししょーも朝顔が好きだったっけ、と思う。毎日朝と晩に水をやっていて、イルマが夏の昼間に水をやろうとしたら止められた。茹で上がったらどうする、と。朝顔の番人みたいだった。

 朝食を食べ終えたので、ジョウロに水を入れて愚痴を垂れながら撒く。

「ししょーがいなくても毎年咲くんだねーお前たちはー。私ァ枯れそうだよ。女として枯れそうだよ。お、水さえもらえりゃ誰でもいいってかー?実は肥料もちゃんとやってるんだよー。どうだ、驚いたかー」

「驚きましたよ。」

 イルマは光の速さで振り向いた。事務所の中からユングがバルコニーを伺っていたのだ。事務所は確かさっきジョウロに水を入れる時ついでに開けてきた。

「……どこから見てた?」

「女として枯れそうだよ、から見てました。そもそもイルマさんって育ってすらないと思うんですけど」

 それもそうだ。ふうん、と水やりを終了して事務所内へ戻る。ちょっと考えた。

「14歳って、ロリコンから見るとババアらしいよ」

「僕、熟女好きなんで十分ロリだと思います。大丈夫ですよ、僕の祖父と比べれば全然まともですから」

 ユングの祖父、何者。問いかけはできなかった。悶々と、納得のいかないあれやそれやこれが頭の中を回る。ぼーん。響くのは頭痛。


「なんか今、弟子が困ってる気配がした……」

「ええ、困ってますね。どうします?」

 今回の亡者は毒の木の苗床になっていた。どうもしない、放置する、と答えて木が生えてるのにあえて寝返りを打つ。ばきぼきと音がした。

「死ぬほど困っているわけでもなかろう」

「死ぬほど困ってたら何かするみたいな言い方ですね」

 担当の鬼は一定時間ごとに亡者の頭部に金棒を振り下ろしていた。その都度亡者の頭が飛び散るが、何せ地獄なものですぐに元に戻る。

 会話に支障はきたさなかった。亡者も精神的ダメージを受けている様子はない。ケロリとしている。

「当然だろう。すでに地獄に落ちた身、この上天国からあいつに減刑要求されたらいろいろとたまらん」

「ああ、そっちでしたか」

 鬼は久しぶりに亡者と目を合わせた。地獄に来るような亡者には珍しい、不幸な過去も後悔も何も見えないいやに澄み切った瞳だ。果てしなく、透明で。

 過去に関しては幸も不幸も関係なく消し飛ばされているからわかるとして、後悔はどこへ行ってしまったのだろう。合わせた目をそらした。

「死霊術系統で、死者を仮人体で呼び出して使役する術がありますね」

 言ったあとでどうせ使えるだろうけどと思ったら使えると答えてきた。胃が痛い。予想が当たってこんなにもイライラするとは思わなかった。

「実はあの術は、自分自身を地獄から呼び出すことが可能なんですよ。もちろん、すぐに回収されるしやれば刑が重くなりますけどね……それを知っていて、というわけではないんですね」

「知るわけがあるか。仮説はあるが、生きている間にはどうあがいても実験できないだろう……待て」亡者は何かに気がついたようにそこで息をのんだ。「回収って、普通逃亡から回収までどのくらいかかる?」

「平均で20秒ですね。変なこと考えないで下さいよ」

 考えそうにもないけど。

「それは短いな……20秒ではせいぜい兵士3000人くらいしかあの世に連れて行けない」

「たったの20秒で大殺戮なうえに我々の仕事を増やさないでください!」

「全盛期のコンディションならゼロがあと三つ四つついてくるがどうする?」

「今のは晩年の話だったんですか!?」

 つい叫ぶ鬼だった。

やっと評価ポイントがつきました。誰か知らないけど2ポイントつけてくれた人ありがとう。低めなのはあれかな、一つの話が長くて読みづらいのかな。私もその自覚はあるんだよな。これからものんびり更新していく所存であります。ぜいたくを言うなら感想などくれるとちょっと嬉しいです。

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