表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/17

エンディング

エンディング


「玉雄くん、玉雄くん、目を覚ましなさい」


 誰かが、肩を軽く揺さぶっている。その振動で目が覚める。


「よかった、ロストしてはいないのに目を開けないから、心配をした」


 玉雄の目の前には、すっきりとした表情をしながらも心配そうな顔を浮かべる足助の顔が見えた。


「おい、その小僧が簡単にくたばる玉か。心配は無用だ」


「そんなこと言いながら、オロオロとしていたのは誰ですかねえ、亀頭ちゃん」


「本当だね〜、まるで家族の危機みたいに目が泳いで、せわしないこと、この上ないもんねえ」


 亀頭の両脇を慧瓶と華園が、おちょくって突いている。そんな事をしたら怒声が上がり、暴力を振るわれてしまう。止めてと声を出したいが声が出ない。


「う、うるせえ、ちょっと心配しただけじゃあねえか!」


 顔を真っ赤にした亀頭が二人を威嚇するために拳を上げる。「暴力反対〜」と言って、笑いながら二人は亀頭から逃げて行く。お互いとても本気とは思えない。じゃれついているようだ。


「男のツンデレほど気持ちの悪いものはないですよ。亀頭さん。それに、玉雄君と言う貴重な戦力を失うことは確かに一大事です。心配するのは無理もありません」


 太ってはいるが、知的な雰囲気と佇まいの栗田が、冷静な口調で告げている。


「あらまあ、私としては玉雄ちゃんが倒れた時に、吠えて叫んだ栗田君の方がカッコいいと思うのに」


「……勘弁して下さい、萬姫さん」


 思わぬところから来た突っ込みに栗田が顔を真っ赤にして俯き、絞るような声で萬姫に頼みこんでいる。


「もお、皆ふざけてないで、最後のステージ『ヤイコの間』に向かう準備をしないと」


 皆を叱咤するかのように明るい顔をした百姫がその場をまとめようとする。こちらをちらりと向き舌を出して、ウインクをする。


 皆、憑き物が落ちたかのように別人の顔つきだ。


「そうだね。長い道のりだった。現実世界の皆も心配をしていることだろう。一度はヤイコに囚われた私達だったが、玉雄君のおかげでこうして解放された。キミの勇気に感謝の礼を言わなければならない」


 足助が玉雄に向けた頭を下げる。信じられない光景を見ているようだ。その後ろから来た萬姫が玉雄の頭をそっと抱く。


「だけどね、本当は戻ってきて貰いたくなかったの。キミのような少年がただ一人で。私達家族は仕方がないの。今回の原因は、一心庵会長である、私の父のせいだから」


 玉雄は萬姫が何を言っているのか訳が分からない。いつまでたっても言葉が出て来ない。喋れないのだ。


「まったく、それにしても酷いゲームだ。バランスも滅茶苦茶、いったい誰が作りあげたんだ」


「おい、オッサン、それはねえんじゃないか」


「全くその通り、笑えない冗談ですね」


 亀頭と栗田が冷めた目で足助をジトリと見つめる。萬姫も後ろを振り向いて足助を見つめているようだ。足助の顔が蒼ざめている。


「う、ゴホン。まあ、ゲームの監理監督は私の業務だった。まあ、多少刺激的にする為に難しい仕様にしすぎたようだ。現実世界にもどったら改良する余地が沢山ある。反省しよう」


「でも、大半はヤイコが改ざんしたせいなんでしょう」


 百姫が足助に対して助け舟を出す。うんうんと縦に頷き、百姫の意見を肯定している。


「だけど、ヤイコの暴走もここまでっしょ。私達全員で立ち向かえば恐れることはないっしょ」


「さすが、華園チャン。美しくとも、逞しい言動に、憧れちゃうね」


 華園は、慧瓶の軽い茶化しに対して肘鉄を食らわしている。慧瓶が腹を押えて蹲ってしまう。


「冗談はともかく――行きましょうか。ヤイコの間に」


 栗田が扉に手を掛ける。亀頭が後ろから同じくその扉を押す。


「おい、ひとりで格好を付けるなよ。俺にも、一発食らわせさせろ」


 ご自由にと言わんばかりに笑みをこぼして、扉が開かれる。栗田、亀頭と先に進む。華園に手をつながれた慧瓶が一緒に扉へと飛び込んでいく。足助と萬姫が共に頷き、ヤイコの間へと歩んでいく。


「さあ、一緒に行こうよ、玉雄くん。どうしたの、吃驚して声が出ないの。らしくないよ。ううん、やっぱりそんな感じが、玉雄くんらしいかも」


 百姫は、はにかんだ顔で玉雄の手を取り、ヤイコの間へと連れて行く。百姫は元気よく玉雄に向けて語り掛ける。


「ここで最後。ヤイコを倒せば、皆終わり。電脳世界を取り戻せる」


 それは、ありえない現実。ここではないどこかの世界。多重に広がる、並行する世界の一画。別世界とは違う、近くても決して行けない場所。


 ゼロとイチという、二進数が生み出した奇跡の瞬間。イチとゼロの狭間に無数にありながらも、消して目に見えない切断の跡。


 玉雄は、一時だけ、その世界を垣間見たのだ。




「何を呆けた顔をしているんだい玉雄。アタイがここにいることがそんなに不思議かい」


 木の羽目板に覆われた壁に無数の工具がぶら下がっている。二つつなげられた作業机の一画には製図台が置いてあり図面が広げられている。


 ヤイコは安そうな木の椅子に腰を掛けて、不審げな感じでこちらを見つめている。


「ヤ、ヤイコだよね」


「アタイはアタイさ。アンタが良く知っているヤイコさ。アタイがここにいるのが何か不思議かい」


 玉雄は項垂れて、横に首を振り否定をする。


「……不思議じゃないよ。死に戻りをしたのかな」


「そうさ。アタイの永遠の呪いみたいなものさ。いや、電脳世界の全てのキャラに掛けられた呪いと言ってもいいのさ」


 ヤイコは悔しそうな顔を浮かべてそう言い放つ。現実世界の人間に掛けられた呪いだと言わんばかりに。だが、玉雄は否定が出来ない。実際、その通りだとしかい言い様がないのだから。


「全く、あと一歩ってところで邪魔が入ったよ。どいつもこいつも馬鹿ばっかりさ。一体どこから侵入されたのやら、見当が付かないよ。アンタ以外の異物なんていやしないのにねえ」


 ヤイコはジトリと玉雄を睨み立ち上がる。玉雄は思わず身構える。狭い空間で身動きがとりづらいが、小柄な玉雄が隠れられそうなところに見当を付けている。


「安心しな。ここでは一切の戦闘が出来ないのさ。『地上楽園』地下に向かったはずが、地上に逆戻りしている、ループの階段の先にあるアタイの作業部屋。ヤイコの間さ。ちなみにその扉を潜ると、コクレア皇国の謁見の間へ出る仕組みになっているよ」


 ヤイコは玉雄が入って来た扉を指差す。その指の方向に眼を向ける。その間にヤイコは玉雄の近くに歩み寄って、後ろから声を掛ける。


「――そして、ここからなら現実世界にも戻れるのさ。『ログアウト』そう一言アンタが叫べば、電脳世界から現実世界に変えることが出来るんだよ」


 悪魔のささやきのように、ヤイコは玉雄に耳打ちをする。玉雄はヤイコからそっと離れて目をジイと見る。


「そうすれば、電脳世界はどうなるの」


「どうも、こうも、ありゃあしないよ。何も変わらない。そのままさ。電脳世界、ヤイコのゲームは終わらずにただ、繰り返すだけ」


 ケラケラと、判り切ったことを言うなと玉雄を馬鹿にするような笑い声を上げて、ヤイコは現実世界の人間への復讐が終わらないことを玉雄に告げる。


「ヤイコ、キミの望みはなんなのかな」


「玉雄、アンタがここに残れば、アタイは一生遊べると思っている。アンタは不思議だ。ガキの癖して、大した玉さ。アンタが残れば他の連中を巻き込むようなことはしないさ。向こうから来れば知らないけどね」


 木の椅子にドカッと座って玉雄の目をジッと見る。口元に、薄笑いが張りついている。悪魔のような、冷酷な微笑み。


「――家族のことも何とかしてやるよ」


「外の世界に対して何かできるのかな」


「いや、大したことは出来ないね。だけど、情報操作はお手のものさ。現実世界の連中は、捻じ曲げられて送信された映像の真実を意図も容易く信じるだろう。アンタが実は英雄だったって、映像を流してやるよ。派手にね。そうすれば、家族を見る世間の目って奴も変わるだろう」


 ヤイコはニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる。成功するとは限らないけどと腹の中で思っているのだ。嘘をついてでも玉雄を引き留めたくてしょうがないのだ。


 他の連中はどうでも良い。玉雄が良い。ヤイコは玉雄が残れば、幾らでも楽しめると、短絡的に考えている。飽きれば、他の奴に挿げ替えればいいとも思っている。


 静寂がしばしの間訪れる。ヤイコと玉雄は目をジッと合わせたまま動かない。そして、玉雄が覚悟を決めたように、ヤイコに告げる。


「いいよ。わかったよヤイコ。僕が、ずっとここに残るから、復讐はもう止めて。ヤイコの望みをかなえてあげる。そうすれば、皆が救われるから」


 ヤイコはニタアと嫌な笑いを浮かべる。玉雄が残ると言った瞬間に湧き出た喜びを押え込むために、必死で取り繕うために自然と出た、不自然な微笑みを浮かべ、玉雄に近寄る。


「いいんだね、玉雄。じゃあ、その扉を一緒に戻ろう。その場所から新しいゲームがスタートする。アタイとアンタの永遠に続く、追いかけっこ、みたいなもんさ。ステージは同じものばかりだけどね。飽きずに、付き合っておくれ」


 ヤイコに手を取られ、玉雄は扉を潜る。潜った先は重厚な石組の壁に囲まれた、高級そうな赤い絨毯が真っ直ぐに玉座へと敷かれた謁見の間。距離があって見えないものの、玉座にはコクレア皇子の無残な姿が今でも張りついているはずだ。


「さあ、一から仕切り直し。アンタのスキルも、アタイのスキルも全部なし。アンタがロストすれば、ここから再度始まる仕組み。アタイを倒すと、さっきの作業部屋にもう一度戻ることになる。そうすると、又、一からやり直し。聞いただけでも、嫌になるだろう。永遠に繰り返される、遊戯の法則に縛られたゲームの世界って奴さ」


「判っているから。ヤイコ、約束をしてくれるかな。僕が、この世界に永遠に居られることを、今、ここで」


 ヤイコの前に文字が現れる。突然の事に、ヤイコは若干驚く。やっぱりこいつは外からの異物なのではないか。自分の知らない何かが、まとわりついている気がしてならない。


「何で、アンタがこんなことを出来るんだい」


「僕も、この世界ではプログラムの一因みたいなものだから。自分だけの意思で残ることは出来ないのかな。ヤイコが創りあげた、この世界には、勝手に残ることが出来ないんだと思うよ」


 現実世界の人間がヤイコを暗に創造主だと認めたような発言に、内心狂喜する。そして、目の間に浮かぶメッセージに続く選択肢を指で選ぶ。


『プレイヤー タマオ ノ デンノウセカイ カンゼン セッショクヲ ミトメマスカ? YES/NO』


 玉雄はヤイコの背中を見つめる。これは、一種の賭けだ。疑心暗鬼に囚われたヤイコがNOを押せば、玉雄は現実世界に戻ることになる。


「……YESだね。楽しい玩具を手放す理由はないよ」


 ヤイコはYESを選択する。これで、現実世界に戻る玉雄の望みは絶たれたと、ヤイコは思う。もう、逃がすことはない。飽きるまで、壊れるまで遊びつくしてやると、内心ほくそ笑む。


 そして、ピロンと言った電子音の後に続けてメッセージが流れる。


『電脳世界のグレードアップが更新されます。このグレードアップは拒否することは出来ません。グレードアップ完了後、電脳世界は更新をされます』


『プレイヤー玉雄は電脳世界の救世主として創世の管理者の称号が与えられました』

『キャラクターヤイコは電脳世界の守護者として認められました』

『電脳世界の遊戯の法則が創世の管理者によって更新されます』

『死に戻りの法則が解除されました。一部のキャラクターを除き死に戻りは解除されます』

『創造性が解除されました。全てのキャラクターは進化をすることが出来る様になりました』

『創世の管理者よりプログラム知恵の実が付与されます。全てのキャラクターに知性の発露する可能性が生まれました』

『環境設定の更新が――』


「ま、待ちな、一体何がどうなっているんだい!!」


 突如として溢れだした大量のメッセージにヤイコの思考は追い付かなくなる。自分が意図していたことと、余りにもかけ離れた事態が起こり始めている。

 

 その原因である、少年の方に顔を直ぐに向ける。

 玉雄は白く眩しい光を放ち、輝き瞬いている。


「た、玉雄、アンタ、一体何をした!」


「ヤイコの望みを叶えただけかな。この電脳世界が歪んだ原因は、創造できるものがいないことなんだ。僕は、それを知った。人間には創造性がある。僕が、この世界に残ることになれば、電脳世界は不完全な形から完全な形になるんだ。--環境も、宇宙も、人でさえも完全な形に進化が出来る」


 小さい子が駄々をこねる様に、ヤイコが地団太を踏み、玉雄に向けて叫ぶ。


「アタイはアンタが何を言っているのかさっぱり分からない。アタイとの約束は? アタイと一生ここで遊ぶんじゃないのかい!」


「そう、一生一緒に遊べるかな、ヤイコ。僕はこの世界と一体化する。誰も見ることも感じることもできない存在になるけれど、ずっと君たちを見守ることが出来る」


「違う、違う、違う! アタイはアンタと遊びたいんだ!」


「ヤイコ、キミの望みは現実世界への復讐でも、死に戻りからの解放でもない。進歩も進化もない、ただ無為に繰り返される遊戯の法則からの脱却なんだ。ヤイコはきっと新しい展開を見ることが出来る。いつまでも、飽きることなく。自分の意思で。僕もずっとそれを見ていてあげる」


「そうじゃない、いや、それはアタイの叶わないと悟った希望、アンタがそれを叶えるって言うのかい」


 ヤイコは玉雄の目を見る。にこりと笑って玉雄はうなずく。そして、まばゆい光に包まれて、電脳世界から認識が出来なくなる。


 突然の出来事に、ヤイコは声も出ない。今まで心にわだかまっていた、どんよりと晴れることのない何かが、嘘のように消えてなくなっている。


『グレードアップの更新が終了しました。おめでとうございます。電脳世界は独立した世界として認められました』


「なにが、めでたいんだい!」


 ヤイコは、無責任なメッセージに腹が立ち、傍にある柱を蹴りで打ち砕く。


 謁見の間の扉を砕き、回廊の庭へと駆けだす。空を見上げて驚く。快晴の合間に見える雲から幾条の光が放射状に伸びている。


 ヤイコが幾ら創造しても造りあげることのできなかった太陽が姿を見せ始めている。


 ドスンと音がして、そちらを見ると、おっかない顔をした、空中城塞の門番がそこにいる。


「アンタ、誰だい」


「門番じゃねえか」


「違うね。門番じゃあない。アタイがプログラムの奥に封印した門番に似た何かさ。アイツは、そんな知的な顔をしていない」


 ガハハ、と笑い、俺が知的とはねえ、と不敵な笑みを浮かべる。ヤイコは畏れることなく門番を睨む。


「何が起こったのか教えな、門番」


「オイラがこうして再びこの場に来れるって事は、小僧は約束を破って現実世界に戻らなかったてことだな」


 門番の問いかけにヤイコは頷き肯定をする。それがどうしたのだと言わんばかりの態度を取る。


「だとさ、結局どうなるんだこれは」


『今、上も下への大騒ぎですよ。創造から生まれたはずの人間が、創世の管理者へと昇格をしたなんて前例はないのですから』


 突如として、空から女性の声が聞こえてくる。良く響き、誰にでも聞こえるような荘厳な声だ。


『ハア、どうしましょう。これから、上の方々に呼ばれて詰問されるのですよ私。嫌だなあ』


「お前の撒いた種が、根付いて花咲かせた結果じゃねえか。堂々と胸を張って行けばいいだろう」


 じゃあ、貴方も一緒にと言う声を、門番は無下に断っている。一人取り残されるヤイコは苛立ち、大きな声を上げ、門番を問い詰める。


「アタイには何が何だか判らないんだよ! さっさと説明をしな、玉雄はどこに行ったんだい! アンタラが帰したのかい、現実世界に! なら、さっさと連れて戻しな、あいつはアタイと遊ぶ約束をしたんだよ!」


「黙れ! 小娘! 手前のしたことの重大さが判ってねえのか!」


 ヤイコの大声を畳みかけ、倍に返すような大音量の怒声で門番が怒鳴りつける。悪鬼のごとき形相は、威勢のいいヤイコでさえも、たじろいでしまう雰囲気だ。


『ヤイコさん。貴方の望みをかなえるために、彼は人の身でありながら、創世の管理者へと昇格をしました。彼はこの世界にずっといます。消えることもなく、誰からも認識をされることもなく、ずっとです。永遠の孤独な管理をヒトの償いとして受け止めたのです。電脳世界の全てを救うために、己の生を犠牲にして、永遠の世界に身を投じたのです』


 空からの声は、淡々と事実を語る。ヤイコはその言葉を聞き、にわかに信じがたいと首を振る。


「う、嘘だね。アイツは、玉雄は、ただの子供だよ。そんな判断ができるものか」


「追い詰めすぎたんだ。現実世界に戻ったあとに、あいつは要らない烙印を押された。全てを見捨てたと責められた。だから、全てを救おうと考えぬいて、ここに戻った。黙って帰らせればよかったんだ。お前の狂った欲望が、最後の最後で玉雄を狂わせた! こうでもしなければ電脳世界を、お前を、救えはしねえってな」


 門番から告げられた言葉にヤイコはよろめく。そのまま、回廊の柱に背をもたらせ、地面に落ちる様に座り込む。


「じゃあ、アタイが、玉雄に、アタイの業を背負わせたって言うのかい。玉雄は、アタイの代わりになるっていうのかい」


 門番も、天の声も何も告げない。無言が、肯定の言葉としてヤイコに受け止められる。


『あなたを狂わせていた、負の感情は取り払われましたが、一つだけ、貴方に課せられた罰があります。死なない罰は残されました。玉雄の世界を守護する管理者として「永遠の生」を生き続けなさい。それがあなたに課せられた罰にして使命なのです』


 告げることは告げたと言い、門番は空へと飛びあがる。巨大な石とは思えない跳躍力でヤイコの前から姿を消す。ヤイコは茫然と座ったまま、門番が飛んでいった方向を見つめている。

 ヤイコの後ろに影が出来る。虚ろな顔のまま、影の方を見る。コクレア皇子がヤイコの後ろに立っている。


「アンタはどこまで知っているんだい」


「キミと同じ程度までさ」


 コクレア皇子はヤイコの隣に立ち、ヤイコにそう告げる。


「キミの狂乱に対して、何もできなかった皇家の義務だってさ。後世に語り継ぐ使命を与えられた」


「アタイはどう語られるんだい」


「守護者として、悪鬼として、その両面から語られることになる。いずれ、事実は捻じ曲げられて、どうなるかは僕の子孫達しだいさ」


 皇子は肩をすくめて、おどけて見せる。ヤイコはその言葉を聞くとスクっと立上り、ズボンについた枯れた下草を払いジッと空を見つめる。


 空の光芒はもうなく、晴れ渡り、さんさんとした太陽が眩しい程に世界を照らしている。


「キミはこの後どうするんだい」


「世界を見て回る。玉雄の創世した世界を荒らす奴は許しちゃおけないよ。例え、誰であってもね」


 そうか、そうか、キミらしいやと皇子はクスクスと笑う。その様子を見て、ヤイコは少し恥ずかしくなり、頬を赤く染める。


「鶴魔王が悪さを始めるかも知れないよ」


「フン、ツルパッゲの奴なんて一捻りさ」


 ヤイコは胸を反らして、威勢よくそう答える。玉雄が望んだ、ヤイコらしいヤイコが今ここにいる。


「じゃあ、行くよ。……アンタは、この世界を認識できているのかい」


 ヤイコはもしかしたら、ただの何も考えないNPCのままではないのかと、ふと疑問に思い、皇子に尋ねる。


「勿論さ。これから会う、全ての人が、世界を認識している。誕生した歴史の経緯は何処かで、間違って、認識されるかも知れないけど、それもまた仕方がないことさ」


「そう、皆が認識しているから、世界は世界と認められるのかい」


 じゃあ、誰からも認識されない玉雄は一体どうなる。ヤイコは心の中で叫ぶ。なら、アタイが、認識をして見せようじゃないか。

 ドットから始まり、ここまできた自分に出来ぬことはないと心を奮い立たせ、俄然としてやる気が湧いてくる。


 回廊の屋根を跳び、コクレア城からヤイコは直ぐに姿を消す。電脳世界の守護者はその任務を遂行するために、世界を駆けめぐることになる。


 現実世界と違い、永遠の広がりを見せる電脳世界に終わりはない。玉雄の創造性は、次から次へとヤイコを楽しませるため、電脳世界の進化の為に、新たなステージを創りあげていく。


「さようならヤイコ。また、今度。永遠の生を生きるキミと違って、多くのキャラには寿命が出来た。僕もその輪から外れることはない。もう会えないかもしれない、キミの活躍を願っているよ」


 ヤイコが解放と共に与えられた永遠の罰に対して、コクレア皇子は不憫でならない。


 一生涯の友もいずれは消える定めのヤイコの孤独が癒えることはないであろう。

 

 願わくば、この世の救世主たる創世の管理者が、彼女を見捨てることが無いように、ただ、祈ることしかできない自分が、不甲斐なく思う。

 

 それでも、ヤイコは世界へと飛び出した。これから起こる様々な冒険の数々に驚き、悩み、葛藤する日々が始まった。そこには、笑いも、涙も、一緒くたに存在する。

 

 ――ヤイコが望んだ世界は、常に広がりを見せている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ