旅立ち
「連君!ねえ~起きて~!…とりゃー!」
ドンっ!
「ゴファッ!」
俺は腹に重いものを突然乗せられて強制的に眠りから覚醒させられた。
「な、何!?どうした!?」
「あ!やっと起きた~!連君おはよ~」
と、ウィーリが俺に馬乗りになって満面の笑みで朝の挨拶をしてきた。
なんだただのダイナミックお早うございますか…
「ゔー…ウィーリどけてくれ…」
と言ってとりあえずウィーリを俺の腹から立たせた。
起き上がりテントの外へ出て、
「どうしたんだよウィーリ、俺初めてウィーリに起こされたんだけど。」
と言うとウィーリは頬をプクーっと膨らませて、
「もーっ!今日から一人で旅するんだよ!?朝早くから行かないと日のある内にアクアガーリーに着けないよ!
夜は暗くてモンスターがたくさん徘徊するから早く行動するのが基本中の基本だよ!?」
と、少し怒られてしまった。
確かに朝早くから行動するって数多のファンタジー小説でも書いてたしな。
「いっけねー安全地帯にいるとこういう危機感とかって鈍っちまうな。スマんな、以後気をつけるよ。」
頭を撫でつつ俺は謝った。ウィーリはすぐにニコニコ顔になって、
「分かれば良いんだよ~。」
とクネクネしながら言った。
「それはそうとさ。」
「うん?」
「俺、武器も食料もこっちの世界の服もお金もなーんにも持ってないんだよね。」
と言うと、
「あ!」
と、あからさまに忘れてたという反応をしてくれた。
可愛いなあ。
「だ、大丈夫!今から渡そうと思ってたんだよねー!せっかちさんだなー!」
と目を泳がせながら言い訳をすると、
「じゃ、はい!これ!」
と、どこにでもありそうな茶色のウエストポーチのようなものを俺に渡した。
「これは?」
と聞くと、
「めあじっくぽおちだよー!」
と何となくネイティブな発音で答えてくれた。天使か。あ、神様だったな。
「その中にはねー!モンスター剥ぎ取り指南書と植物図鑑、ロングソードとこの世界の一般的な服と革鎧が1着ずつ、お金は1万アット、それに10日分のこの世界での一般的な携帯食料と水が入ってるよ!
ポーチは連君とその仲間にしか使えないようにしてるから、防犯対策もバッチリ♪使いたいものを頭の中に思い浮かべながらポーチに手を入れると、そのポーチに入っているものならなんでも取り出せるよ!
死んでいるならポーチに入れられるからモンスターとか素材とかも入れられるし、ポーチ内は時間が流れていないから食べ物も腐らないよ!
あと入れたいものがそのポーチより大きくても、念じれば入るから安心して!それと、この世界の言語を習得させるのを忘れてたから今教えるね!少し頭痛がするけど我慢してね!」
とポーチの中身と説明をし終えると、昨日俺にチートをくれた時のようにしてこの世界の言語を習得させてくれた。
そして頭の中で、
・『ジスペイル共通語』及び『魔族語』を習得しました。
と、ウィーリの声が響いた後、ほんの少し頭痛がした。
「これで読み書きや会話が出来るようになるよー!おめでとー!」
と、ウィーリは満面の笑みを浮かべた。
俺がテントに戻り服を着替え革鎧を来てウィーリの元へ行くと、少し残念そうな顔をして、
「それじゃ…少しの間お別れだね…前の世界で出来なかったこと、いっぱいしてね…あ、街に入る時は基本通行料を払うだけで入れるから…
城下町とか領主の館近くは例外で透しの水晶といって犯罪履歴を調べられたりするからね…ちなみに大体都市には私を祀る孤児院兼教会があるから…その…できる限りお布施をしてあげて…?皆いい人達だから…それとね…?あの…その…」
と段々声量が小さくなっていった。
別れが悲しいのか、目に涙を溜めたウィーリを見た俺はしゃがんで彼女の両肩に手を置き、
「ウィーリ、これが永遠の別れじゃないんだろ?なら、また会えるじゃんか。ほら、俺が呼べばすぐ来てくれるんだろ?
ウィーリ、笑った方が可愛いぞ。だから泣くな。」
とウィーリをあやした。ウィーリは涙を拭い、
「分かった…」
と言って俺の目を見つめた。俺は、
「ウィーリ、今まで俺に付き合ってくれて本当にありがとう。言葉だけで、何もあげる事が出来ないのが残念だけど…」
と言うとウィーリは一歩前に近づいてきて、
「それじゃ連君、今までのお礼として私にキスして…くれない?あ、大人の方じゃないのだよ…」
そう言うと、目を閉じた。
そこまでされると鈍感系主人公では無い俺は流石に理解した。深呼吸を1回し呼吸を落ち着かせ、ウィーリの両肩を引き寄せ、
ウィーリとキスをした。
「ん…」
と容姿に似合わぬ艶めかしい声を出したところで唇を話した。
「私の初めてのキス…あげちゃった…」
と、顔を真っ赤にしながら言った。俺もウィーリから目を逸らして、
「お、俺も初めてだったよ…」
と返したらウィーリは下を向いてモジモジしながら
「そうだったんだ…ねえ、なんか…行ってきますのちゅー…みたいだね…」
と、とんでもない事を言ったので俺はきょどって、
「ま、まあ!…それっぽい気がし、しなくもない…な!」
と、口ごもりながら言った。するとウィーリはまた俺の方を見つめ、満面の笑みで、
「いってらっしゃい、あなた♪」
と言った。自然と口角が上がる。俺は立ち上がってアクアガーリーとやらの方角に体を向け、少しだけ首をウィーリの方に向けて、
「行ってくる。」
そう言って歩き出した。
お巡りさんこっちです。