浮気されても
一人寂しい夜は、嫌と言うほど充分過ごしてきたのに。
半年ぶりに会えたのに、部屋の外で話しているのは誰なの?
距離は近いけれど、心の距離は遠くに感じる。
久しぶりのデートと聞いて、私ははりきってプランを立てた。
朝にあの場所で待ち合わせして、遊園地に行くのもいい。
でも、せっかくの休みなんだから、のんびり過ごすのも悪くない。
そういえば、あそこに大きなショッピングモールができたんだ。
映画館もあるし、そこに行きたいな。
年上の彼は、半年前とは変わっていた。
笑みだけは変わらず優しくて、でも、どこか冷たく感じた。
話しかけても、相槌ばかりで。
手を握りたいのに、「恥ずかしい」と言って、繋いでくれないところとか。
心がここにないような、そんな素振りを見せるんだ。
一緒にご飯を食べていても、携帯ばかり弄る。
やめてほしいのに、それを言えない私。
彼の何かを拒否したら、私のすべてを拒否されるんじゃないか。
そう思えてならないから。
いつもは一緒に入っていたお風呂も、一人で入りたいと言われた。
そうか、きっと恥ずかしいんだね。
さりげなく私を避けてるなんて、気のせい、気のせい。
……気のせい、だと信じたい。
今、目の前にある秘密の詰まった携帯電話を開けば、全てが終わるのかな。
手を出そうものなら、その先が容易に想像できてしまうから、怖いよ。
私たちに、未来はないってことを。
電話の着信履歴に、知らない女の子の名前があって。
彼女宛のメールには、私の知らないハートの絵文字が使われていて。
最近言ってくれなかった、最も欲しい言葉が、そこには書かれていて。
そうだね、私が黙っていれば、何もかもなかったことになる。
彼が浮気をしているなんてことも、なかったことになる。
……ううん、違うよ。
事実は、絶対に消えないんだ。
彼が、さりげなく、私を避けていること。
彼が、あの娘に心奪われていること。
もはや、彼の中では、私が浮気相手で、あの娘が本命なのかもしれないこと。
黙っていられない女で、ごめんね。
都合のよくない女で、ごめんね。
それでも、私は本気で彼を愛していた、いや、今だって好きだと思えるのに。
一言ごめんって言ってくれれば、あの娘と別れてくれれば、許したかもしれないのに。
彼は、私にバイバイと手を振った。
泣かない、絶対に泣くもんか。
彼のために泣くことなんて、何もない。
――でも、私、ダメみたい。
あんな最低な彼が、好きだから。
悲しいと思っちゃうから、涙も出るんだ。
止めてほしいのに、誰も止めてくれない。
そうして、私の遠距離恋愛は終わった。
目に見えていた結末を辿ったけれど、これでよかったんじゃないかなって、今なら思える。
次はうんと、いい男を見つけるんだから。
絶対に浮気をしない、いい男を。