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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

炎の嵐と闘技場

作者: ふりがな
掲載日:2026/05/15

大陸歴1002年 ランザーム連合王国首都モルビナ。


とある夏の夜、その場所は大勢の人々で賑わっていた。


ある者は、特設されたVIP席で、

美しい女性を両手に侍らせ、高級な酒に酔いしれる。


ある者は、商談相手との一席にこの場を選んだ。

このショーの勢いに任せて、商機を掴むために。


そして、ある者は、このショーの勝利者に、

今ある全ての金を賭けた。


その身が背負う借金を返済するために。


酒がふるまわれ、

このショーの勝者が誰かを予想し、賭けに興じる。


大いに沸いたこの場所では、

そんな光景が至る所で行われている。


ショー、それは闘技場で行われる王国最強を決める一戦だ。


現在のチャンピオンは、2年負け無しの巨漢ルウザ。

大きな両手持ちの剣を振るい、その巨躯に見合わない

華麗な身のこなしは、戦う相手すら魅了した


あまりに速く、あまりの剛撃、

その剣閃は、一瞬であらゆる敵を両断した。


今まで、かの一閃を躱せたものはいない。


この闘技場では、

魔物を相手にすることも、しばしばだ。


しかし、かの剣聖は、巨大な竜ですら屠った。

一撃で倒せない相手に、彼は16を超える剣閃を見舞った。


その凄まじい連撃は、誰もが見切れず、

心得のない者の目には、ただの一振りとしか感じられなかったという。


その剣戟を持って、無敗の王者の座を譲らない彼を、

何時しか人は、剣聖と呼ぶようになった。


今の賭け率は、チャンピオン一択である。


それでも、賭けが成立しているのは、

今回の挑戦者に賭ける者がいるからだ。


ーーーーー


闘技場の一室で、彼女は震えていた。


無論、緊張もある。

しかし、それ以上に、彼女には負けられない理由があった。


彼女の名は、マーリド 。

王国冒険者で中級とされるBランクの魔術師である。


普段、彼女は仲間と共にパーティを組んで、

王国が、危険指定したダンジョンに潜っている。


ダンジョンは危険である。


当たり前だが、

その外と中では、出会うモンスターの格が違うのだ。


冒険者の中でも、選りすぐりの精鋭が挑む場所であり、

冒険者が、もっとも稼げる場所もダンジョンである。


ダンジョンとは、この世にまだない、あるいは、かつてあった

アーティファクトを手に入れる唯一の場所であり、

人間種をこの世界で一番の勢力に押し上げた奇跡の場所なのだ。


しかし、それ故に、ダンジョンで命を落とす者は多い。


今、彼女が、この闘技場に来ているのも、仲間の死が原因だ。


彼女のパーティは、新規に見つかったダンジョンに挑み、壊滅した。


そのダンジョンは、あまりにも悪意に満ちていた。


パーティは、最初のフロアを突破し、

その後も中層まで難なく進んだ。


新たに見つかったダンジョンという事で、始めは警戒していた。


ダンジョンの危険性は、皆承知していた。


しかし、階下に下りる度に、その警戒心は緩くなっていった。

ダンジョン内を俳諧するモンスターは、彼女たちにとって、

大した敵ではなかった。


また、そこかしこに、

置かれていた宝物庫から見つかるアーティファクトは、期待外れだった。


通常、危険なダンジョンほど、貴重なアーティファクトが手に入る。

何故かは、分かっていない。

そもそも、ダンジョンそのものが、謎多き存在なのだ。


脅威度の低いダンジョンは、その分、旨味も少ないのだ。


だんだんと警戒心は低くなり、行動に荒さが目立つようになった彼ら。

しかし、ダンジョン中層で悲劇は起こった。


13層目に当たるその場所は、異様且つ、殺意に満ちた場所だった。


階層自体が、パーティに危害を加えようとしているようだった。


余りにも違うその変わり様に、油断が目立つパーティは対応できなかった。


突然現れた毒の巨人は手に持つ棍棒で、

パーティの盾役であった戦士を薙ぎ払った。


リーダーである剣士が切り込み、奇襲を何とか跳ね返した時には、

味方の回復役である神官と最初に攻撃を受けた戦士が脱落していた。


元々、5人でパーティを組んでいた彼女たちは、

この時、既に半壊の憂き目にあっていた。


まだ生きているかもしれない仲間、

しかし、リーダーは、魔術師である彼女と弓使いに

撤退を指示した。


彼は、巨人に切り込んだ際、その歪な爪が掠り、毒に侵されていた。


意識が遠のく中、

少しでも仲間が生き残れるよう、最後の瞬間まで剣を振るった。


必死に地上へと逃げ延びたマーリド たちだったが、

もはやパーティは壊滅状態。


リーダーや他の仲間の親類にこの事を伝えた後、引退することになった。


ただ、今回帰還できなかったパーティの中には、家族がいる者もいた。


今回のダンジョン遠征で、ほぼすべての資産を失ったマーリド たち。


自分の身と引き換えに、救ってくれたリーダーたちに報いるため、

マーリド は無謀ともいえる挑戦を決意する。


そう、彼女こそが、剣聖に挑戦する者であり、

賭けを成立させている理由だ。


彼女と生き残りの弓使いは、全財産をこの一戦に賭けたのだ。


亡くした仲間の家族と自らの未来のため、全てをこの一戦に捧げた。


ーーーーー


チャンピオン、ルウザと挑戦者マーリド の名が呼ばれる。


剣士 対 魔術師。

その組み合わせは、今までなかった。


そもそも、闘技場は限られた空間であり、決して広くない。


競技に使われる舞台は、端から端まで100メートルほど。


大型モンスターなどとの戦いも催される闘技場。


それでも、魔術師が剣士に対して十分な距離を取れるとは、

言えない大きさだ。


魔術の行使には、一定の魔術呪文の詠唱が必要だ。

魔術師の本領は、強力な魔術を時間を掛けて練り上げ、

必殺の一撃を相手にお見舞いすることだ。


その威力を支えるのが、魔術呪文の詠唱なのだ。


しかし、この場は闘技場である。


あくまで1体1の戦いであり、身を隠せる場所もない。


この舞台から外へ出されれば、場外となり敗北だ。


確かに魔術が完成すれば、必殺の一撃になるだろう。


しかし、詠唱時間が必要であるし、そもそも、

この闘技場のルールでは、魔術道具の使用も認められている。


それに、対戦相手の剣聖ルウザは、魔術を自身の気力で、

弾き飛ばすこともできた。


マーリド は魔術師。


得意の魔術は一つだけ。


その身には、もう一つだけ奇跡の技が宿っているが、

今は割愛する。


もう何回も、モンスターとの戦闘で使ってきたファイアーボール。


中級クラスの魔術であり、彼女の切り札。


彼女が最も使い慣れ、

最大の威力を誇る爆発し炎をまき散らす火球の呪文だ。


彼女は、所持する魔術道具にも火球呪文を込めている。


所持金は、賭け金とこの魔術道具に余すことなく使われた。


さあ、戦いの幕は開いた。



ーーーーー


対峙する剣聖ルウザと挑戦者マーリド 。


まずは様子見をするルウザに対し、先制のファイアーボールが

襲い掛かる。


幾つもの火の玉が、マーリド の周りに浮かびあがり、

ルウザに向かって迫る。


一つ一つの火の玉には、それほどの威力はないだろう。


ルウザは、落ち着いて自身に当たる分を、

気力を込めた剣で切り払った。


普通は剣で魔術を切り払うことはできないが、

剣聖とまで呼ばれるルウザは、

耐魔術用に気力を纏わせることが出来た。


「ふん、小娘。

 命が惜しいなら、降参しろ。

 魔術師などこの場に不要だ。」


ルウザは、今一つこの状況に満足できなかった。


目の前の小娘を斬ったところで、何の意味もない。

退屈なだけだ。


竜でも何でも呼んだほうが、この身の糧になる。


しかし、マーリド は何も答えない。


ならば、と剣の平を彼女に向け、

場外にでもしてやろうと一歩踏み出す。


一歩一歩、近づくルウザに、

マーリド は最初の火の玉を打ち出すだけだった。


はあっ、つまらん。


そう考え、もう決着を付けようと、

走り出す。


今だ!

マーリド は、突っ込んでくるルウザに対し、

複数の火球を浮かべた。


そのすべてが、至近距離に迫ったルウザの足元に炸裂する。


濛々と立ち昇る炎、爆裂する火球の威力は、

ルウザをして大したものだと感心させられる。

だが、足りない。


彼は、足元を狙った火球を見切り、瞬時に後ろに退いたのだ。

効かないとしても、攻撃をわざわざ受けてやる必要はない。


ふん、相打ちにでも持ち込む気だったのか?


今だ立ち昇る熱気と炎。


それを見つめるルウザの上空から大きな呪文の詠唱が響き渡る。


「ファイアーボール!!!」


気迫の籠ったその声を聞いたルウザは、

咄嗟に声のした、空へと跳躍した。


ルウザの跳躍能力は、彼の気力由来のものだ。


その瞬間、闘技場の舞台の上で大爆発が起きた。


先程とは、桁の違う爆風と火炎の嵐。


中級クラスの魔術などといったものではない。


ルウザは、この細工に気づいた。


「ち、飛行魔術か、浮遊能力持ちか!」


ルウザの目の前、少し下に対戦相手の女が浮かんでいる。


ルウザは、さすがに飛べるわけではない。


今のも、舞台を蹴って跳躍しただけだ。


このまま、落ちれば、あの火炎地獄に晒される。


竜であっても自身が乗る舞台を焼き払うことはない。


炎の息吹は、あくまで口から前方に吐き出されるだけだ。


相手の後ろに回って、首を落すだけですむ。


しかし、今、舞台は炎上中だ。


あれを避けるなら舞台を下りなければならない。


それは負けを意味する。


下らん策略だが、魔術師を少し甘く見ていたようだ。


「しかし!」


ルウザは、全ての気を放ち、マーリド へと跳躍する。


ルウザの魔術対策に使ってきたのは、生命エネルギーである

気の力だった。


これにより、あの火の玉や炎球くらいはどうということはない。


そして、今、空中で不自由な跳躍を強いられた彼は、

気のすべてを使って、その軌道をマーリド へと向けた。


マーリド は、浮遊状態で慌てている。


「終わりだ!!」


今まで対戦相手を幾度となく屠ってきた剣閃が、

マーリド に向かって振るわれる。


しかし、その刃は彼女をすり抜けた。


変わって表れたのは、強烈な炎が凝縮された眩く輝く光球だった。


空中で軌道を変えるために、気の力を使った直後だった。


自ら、現れた閃光に突っ込む羽目になったルウザ。


直後、会場にすら被害が及ぶほどの大爆発が起こった。


火炎の渦は、先程の舞台で起きた数倍の広さを焼き尽くし、


その爆風は、特等席で女性を侍らしていた王侯貴族らを、

薙ぎ払った。


閃光と爆風と豪火は、会場周辺をも巻き込んだ。


あまりに圧倒的な炎の乱舞だった。



マーリド は、舞台の中央部で衝撃に備え伏せていた。


彼女の得意技は、ファイアーボール。


詠唱を完了することで、

極限まで爆縮された炎が着弾時に解き放たれる。


普段、ダンジョンでは、火の玉くらいのものしか使わない。


そもそも、彼女のファイアーボールは、

独自に研究し突き詰めたものだった。


魔術には、上級クラスに爆裂や火炎の渦などがあるが、

彼女は、敢えてそんな魔術を覚えなかった。


趣味とかではない。


彼女は、そもそも冒険者だ。


そして、その働く先はダンジョンだった。


上級クラスの魔術は、破壊力に富むが、

詠唱時間が長く、ダンジョンのような狭い空間では、

味方を巻き込みかねない。


ファイアーボールは、中級クラスの魔術だが、

使い方によっては、戦力として十分通用する。


その火炎の爆発は、狭い空間では本来の威力を底上げされる。


今回、マーリド は最後以外、一回も魔術を使っていない。


最初から全力の一撃の為、魔術詠唱に取り組んでいた。


火の玉や火球はあらかじめ、用意した魔術道具に込めたものだ。


舞台を破壊しようとしたものは、魔術道具の火球を一斉に発動させた。


正直、彼女もかなりの火傷を負ったが、

予め、火炎耐性のある装備を着込んできていた。


治療魔法を受ければ、回復するだろう。


そして、彼女の特殊能力は、幻影だった。


空中に詠唱完了したファイアーボールを浮かべ、

彼女の姿の幻影を被せた。


音をも錯覚させるという奇跡の技である


詠唱の最後の部分を、わざわざ上空からのものと

錯覚させた。


その後、自身は、魔術道具の発動で舞台を爆破。


彼女は、舞台に居残っていた。


ーーーーー


率直に言えば、彼女はやり過ぎた。


闘技場とはいえ、破壊の限りを尽くした。


王侯貴族の身を危険に晒してしまった。


この後どうなったかは誰も知らない。

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