1-9「勝ちました?」
『マミヤはスキル【インベントリ】を習得しました』
来た!
今度こそ勝つる!
流石にこのインベントリとかアイテムボックスなんてのはもう概念が固定していて、アイリでも変な方向で崩せまい。
直接的に戦闘には向かない、とはいえ、この万能スキルは大体どんな話でも利便性が高いし、場合によっては戦闘にも使えない事もない。多分。
いいぞ、今度こそ俺は――
「なんて喜ぶとでも思ったか? 大体お前の作ったスキルだからなんか罠があるんだろ?」
『心外です。私はあらゆる事象で最適化されたAIです。罠を作る事はありません。全ては生成の際の仕様です』
「ほーん? ならこのインベントリの仕様を教えてみろよ」
『承知しました。このスキル【インベントリ】は、対象をデータ化、圧縮し余剰メモリに記憶する事で、事実上無限の容量を実現しています。どんなものでも入ります』
お……なんだかまともだ。少々メタっぽけど、まあAIだしな。
「まあ、わかった。じゃあ、収納方法とか管理とかはどうするんだ?」
その言葉と同時に、俺の目の前にはマス目上に区切られた半透明のウィンドウが出現する。
『表示されたように、このマス目に対象を格納する事が出来ます。収納したいものがあれば、近くで対象を指定し、「しまう」などのわかりやすい宣言をしていただければ、私の方で処理します』
ますますまともじゃないか。アイリが処理するってのが引っかかるが。
「よし、わかった。じゃあ……とりあえずこの初心者セットを収納してみてくれ」
俺の言葉と共に、さっきもらった初心者セットと言われたカウンターの上のカバンが、音もなくすっと消える。同時にウィンドウには、初心者セットと思しきカバンのアイコンがマスに収められていた。
「お……おおー!」
素直に感動してしまった。アイリがこんなまともな事をするとは思えなかった事、そして何より異世界っぽい、その二つの事実に俺は思わず涙すら出そうになっていた。
文字化けしているけどそれはいい。アイコンが精巧だからちゃんと見分けがつく。多分。
「出すときはどうするんだ?」
『アイテムを指定するか、アイテム名を言ってもらえれば、出力処理をします』
「出力……いや、いい。よし、初心者セットをだしてくれ!」
すると、目の前のカウンターの上に、ぱっと初心者セットが現れる。
多少雑な出し方なのか、少し衝撃があって、微かに中のポーションがカチャリと音を立てていた。
「おお……よしよし。いいぞ、アイリ、グッドだ!」
『ありがとうございます』
「とりあえず、これ、初心者セットしまっておいて」
またも音もなく消えるそれに、俺は再び感動を覚えていた。
*
その後俺たち三人は意気揚々と宿に戻り、今後について相談する。
イーダ少年は既に目的を果たしたわけだから、パーティは解消されるだろう。
しかしそうすると、帰還条件を達成するのが少し難しくなりそうだ。
なんて思っていたのだが、イーダはこのまま三人でパーティを組み続ける事を提案してきた。
リューンを見る目が熱い。
彼女はその目に気付いていないのか、あるいはわざと気付かないふりをしているのか、それはわからなかったが、とりあえず俺を熱い目で見るのはやめてほしい。
あと、少年は膝を見るのをやめような?
明日も依頼をこなす事を約束して、その場はお開きになる。
名残惜しそうにリューンに頭を下げ、膝――ではなく俺の顔をキッと一瞥して、少年は部屋を出て行った。
『未実装です』
「わかったから」
何事もなく翌朝を迎え、リューンと共に斡旋所の前でイーダと合流し、適当な依頼を取って再び昨日のダンジョンへと向かう。
てか、ハムスビ以外と出会いたい。
それはかなわぬ願いだろうけれど。
だが、街の入り口に差し掛かった時、少しだけあわただしい様子が見て取れた。
「だれか、ポーションをもっていないか!?」
そう叫ぶ門番らしき人物の傍で、お腹を押さえて苦しそうに横たわっている少女の姿が目に入った。
少女が抑えているそこにはハムスビのものらしきツノが突き刺さっていて、そこを中心に服に血が滲んでいる。
周囲の人々は遠巻きにそれを見ているだけで、誰一人動く様子はなかった。
薬草でも摘みに行ってハムスビに絡まれたのだろうか。
かわいそうだとは思うが、俺は今、イーダとシャーユとかいう少女をどうやって出会わせるかで頭がいっぱいなのだ。
「なんてな! 持ってます!」
既にアイリの持ってくるパターンは熟知している。
多分この少女が、件のシャーユだ。
でなきゃこんな都合よくイベントが起きるわけがない。
俺は勢いよく叫んで、周囲を尻目に少女と門番に近づく。
少女の傍で座り込みその様子を見ると、苦しそうに目を閉じて唸っている。
大丈夫だ、今楽にしてやるからな?
そうして俺は隣で佇んでいるアイリを見上げる。
「アイリ、初心者セットだ!」
俺の宣言と同時に、俺とアイリの間にカバンが出現し――
カシャン
そんな音と共に地面に落ちる。
「え?」
カバンの底が、何かしらの液体の染みが広がり始めていた。
『マミヤの視線の先に、該当アイテムを出力しました』
「どういうこと!?」
『マミヤの目線の先にアイテムが出力される仕様です。割れ物等を出力する場合は、場所に注意する必要があります』
「あああああ! 今大事なとこ! 人命優先! 融通してよ!!」
俺は慌ててカバンを開くが、中ではポーションの瓶が粉々になっていて、その中身はすっかりカバンに染み込んでいた。
「くっ! ……イーダ! お客様の中にイーダさんはいらっしゃいますか!?」
「えっ、あ、えっ?」
俺の悲鳴に近い声に、イーダが困惑しながらも一歩踏み出して、群衆の中から姿を現す。
「すまんがお前のポーションを、くれ! 助けてやってくれ! 頼む!」
「う、うん、いいけど……」
少年が困惑しながらも少女にポーションをふりかけ、けがの処置をする。
すると、少女の顔は苦しみから解放され、静かに寝息を立て始めていた。
「ありがとう! イーダ!」
「いいけど……知り合いなの?」
「いや、全然知らん!」
「は?」
その言葉に少年は口をぽかんと開け、その後ろから、何故か殺気立った視線が俺を確実に捉えていた――




