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1-3「帰れないんだが?」

『リューンの好感度が最大になりました』


 俺にしか見えない女神が、いつも通り淡々と、感情の欠片もなく言い放った。


 ――終わった?


 一瞬、本気でそう思った。


 頭の中で、


「帰還」「現実」「冬休み」


 そんな単語が脳内で一斉に点灯する。

 そして何より、「アイリの初期化」――


 たった三日だ。


 村の近くで出会って、

 なぜか最初から妙に気に入られて、

 成り行きで居候させてもらうことになって。


 ただ居候するのも悪いから、

 彼女の母親の家事を手伝って、

 依頼に出かける彼女を見送り、

 夕方には「おかえり」と声をかける。


 ……それだけだったはず。


 それだけで好感度が最大になるって、正直どうなんだろう。


「……ちょろくない?」


 いや、ちょろいを通り越してないか。

 リューン大丈夫か?

 変な男に騙されそうなくらいちょろいんだが?


 あ、いや違った。

 昨日、一度だけリューンの依頼に同行した。


 日に日に高まる彼女の好感度と、それと共に近くなる距離に、少しだけドギマギ――いや、少しだけ怖くなったころ、彼女が提案してきたのだ。


「ねえ、マミヤ。一緒にこの依頼、やってみない?」


 そう言って彼女が差し出したのは、よくわからない謎の文字。読めない。


『内容はハムスビの退治です』


 またハムスビかよ。ってか、こんなとこでもよくわからない文字生成すんのやめろ。

 けど、リューンがあまりに熱量高くお願いしてくるものだから、つい頷いてしまい、気づけば彼女と森の中にいた。


 彼女は、身を潜めるようにして指をさすと、ハムスビがいる。

 一匹ではなく、五匹ほど。


 彼女が言うには、一匹ずつおびき出して始末するという。

 先日の戦いっぷりを見ると、確かに一匹に苦戦していたから、五匹同時は無理なのだろう。


 だが――


『イベント発生です。

 【リューンを救え】

 おびき出しに失敗したリューンを救ってください』


「は?」


 アイリのその言葉と同時に、慎重に事を勧めようとするリューンが、木の根に足を引っかけて盛大に転んでしまっていた。


「いたた……あ、やばっ!」


 お約束にもほどがある。

 その音に気付いたハムスビたちが一斉にリューン目掛けて走り始めていた。


『さぁ、ゆくのです、マミヤ。リューンの仇を取るのです』


「まだ死んでねえから! くそ!」


 俺も駆け出して、リューンの周りを取り囲み始めたハムスビたちと彼女との間へと割って入った。


『戦闘開始です。ハムスビたちがあらわれた』


 淡々と告げるアイリに少しだけイラッとしながらも、ハムスビたちと対峙する。


「あ……ありがとう、マミヤ」


 後ろから声がかかり、体制を立て直したリューン。

 彼女は、俺と対峙しなかったハムスビと一対一の戦闘に入った。


「え、俺だけ四匹?」


『仕様です……ハムスビAは逃げ出した。しかしまわりこまれてしまった』


「え、ちょ?」


『クリティカル、ハムスビAはマミヤの最強の膝にぶつかり死亡する』


 は?

 最強の膝ってなんだ?


 そんな疑問を持ちながらも、身体を勝手に動かされてハムスビAが俺の膝にぶち当たり、果てる。


「最強の膝ってなんだよ!」


『初回特典です。逃げようとする敵を即死させるスキルです』


「ああ、最初のあれね……って、使いづらい!」


 最強なのにそれはおかしくない?

 そんな事を考えていると、ハムスビを倒したリューンが合流した。

 不利を悟ったハムスビたちは逃げようとする。


 だが、俺の最強の膝からは逃げられない。


『クリティカル、ハムスビB、ハムスビCは死亡。勝利です』


 気持ちいいー!

 ってなるわけないだろ!

 何この膝、いい加減にしろ!


 ――ともあれ、依頼は無事、成功に終わった。

 

 その帰り道、彼女はずっと嬉しそうに膝の話をしていた。

 多分これが、好感度マックスの原因だ、間違いない。


 何で膝だよ!


 まあ、いい。いいんだ。

 何にせよ――


「帰れる、ってことだよな」


 声が少しだけ弾む。

 よかった。

 本当に、よかった。


 彼女の好感度最大なのは素直に嬉しいし、

 この三日間が案外悪くなかったことも事実だ。


 だから、ちょっとだけ、名残惜しい気もする。


 けど、俺はアイリを初期化するために帰らなければならない。

 ずっとすまし顔のアイリ。

 ふっ、今に見てろよ?


「よし、帰ろう」


 そう言った瞬間だった。


『不可能です』


「……え?」


 今、なんて?


『リューンは、帰還条件の対象NPCではありません』


「……えっ?」


 思考が止まる。


『はい』


 脳内で、さっきまで並んでいた考えが、音を立てて崩れ落ちていく。


「……なんで言わなかったの?」


 我ながら信じられないくらい低い声がでていた。


『聞かれませんでした』


「えっ」


『仕様です』


 一切の迷いもなく、断言。


 理解が追いつかない。

 いや、追いつかないとかいうレベルじゃない。


「いやさ、案内役だよね?

 こういうの、先に言うべきじゃないの?」


『聞かれなかったため、

 私の内部判断軸は、「余計な情報を出すべきではない」に切り替わりました』


「それ、余計じゃなくて一番大事な情報だから! 案内役でしょ!? 女神でしょ!?」


『女神ではありません、AIです』


「ああ!?」


 めちゃくちゃ腹が立って、殴りたい、と思ったがこいつを殴ったところで何も解決しないどころか、状況が悪化するような気がする。

 一回落ち着こう、こういう時は冷静に……

 俺は一度深呼吸をした。


「で……じゃあ、どうすればいいのさ?」


 そこまで言った、その時だった。


 ――バン!


 勢いよく扉が開く。


「ただいまー! マミヤいるー?」


 元気な声が、空気を一気に塗り替える。


 リューンが帰ってきた。


「アイリ? も、いる?」


 そう言って、

 俺とアイリがいるはずの空間を見比べながら、当然のように俺の隣に腰を下ろす。


 ……近い。


 少しだけ距離を取る。

 すると、同じ距離だけ、詰めてくる。


 なにこれ、こわい。


「おかえり、リューン。何かあった?」


 なるべく冷静を装いながら、

 彼女に向き直り、ついでにまた距離を取る。


「うん! 今度ね、隣街まで護衛に行くことになったの!」


 嬉しそうに、身を乗り出す。


「ここらはハムスビ以上の敵もいないし、

 駆け出しだけど丁度いいからって、

 行商のおばさん夫婦が指名してくれたんだ!」


 距離、さらに近く、無防備。鎧の隙間から見えそう――


『本シミュレーションには性的表現および過度な身体描写は実装されていません』


「……へ、へぇ……すごいね?」


「でね、マミヤも一緒に隣街に行かない?」


「いや、俺は――」


『補足。帰還条件の対象は、隣街に住む、とある少年です』


「一緒にいこうかな」


 考える前に、口が動いていた。


「ほんと!? やった!」


 飛び上がるように喜ぶリューン。

 そのまま護衛の準備をすると言って、慌ただしく家を出て行った。


 ……嵐が去った後。


「あのさ」


『はい』


「これ、多分、イベントだよね?」


『はい。好感度によるイベントです』


「いらないよ!?」


『マミヤのリューンへの対応、心拍数、視線を分析し――』


「分析しなくていい!!」


『ご安心ください。性的な展開にはなりません』


「そういう話じゃなくて……」


 俺が膝で倒せるハムスビと同レベルの冒険者が、

 護衛って本当に大丈夫なのか。


 それに――

 このAI、また変なイベント仕込もうとしてないか?


 半眼でアイリを睨む。


『仕様です』


 一切、悪びれる様子もなく、 そいつは淡々と言い切った。


 ――翌朝。


 俺とリューンは、

 行商の中年夫婦を伴って村を出発した。


 ため息ばかりつく俺を、リューンがちらっと覗き込む。


「なんか元気ないね。大丈夫?」


「……たぶん」


 近いし、全然大丈夫じゃない。


 帰るために、少年の好感度を上げる。

 そのために、次の街へ行く。

 なぜか好感度最大の冒険者が同行する。

 ついでに行商夫婦も。


「俺、なんでこんなことしてるんだっけ……」


 そんなことを呟きながら、

 俺はリューンと並んで、次の街へ向かって歩き出した。

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