2-1「それはまずいですよ!」
前略、目が覚めたら知らない場所でした。
いや、どこだよ、ここ!
『おはようございます、マミヤ。今回は――』
「夢でお願いします」
『令嬢系異世界を生成しました』
「夢でお願いします」
『遊んでみてくださいね』
くそ、だめか。
てか、令嬢系?
俺、男なんだが?
そこで、俺はハッとして、制服越しにそれの有無を確認する。
あった……よかった……
よし、とりあえず落ち着こう。
まずは素数を数えるんだ。
1、3、6……あれ?
素数を数えながら、辺りを見回した俺の目に飛び込んできたのは、
豪華絢爛な壁や窓、そしてめちゃくちゃ高そうな調度品。
ふかふかでかつ綺麗に手入れされたカーペットと、そしてそこに横たわる、一人の女子生徒らしき物体だった。
見覚えのある制服、髪の色――
「アイリ」
『はい』
「そこになんかクラスメートらしき物体があるんだが?」
『はい、その通りです』
やっぱりか。
勝手にクラスの女子をモデルにして生成したな?
「あのね、肖像権とかあるから、勝手に生成すると怒られるよ?」
『問題ありません、本人です』
「ああ、それなら問題……ありまくりだろぉぉぉ!?」
本人!?
え? 誰? いや、え、実物!?
『マミヤの好みの傾向を分析し、最も適合率が高かった個体:【間宮瑠香】を招喚しました』
「やめて! 召喚って言わないで!」
それはまずいですよ!?
「これ、誘拐って言わない!?」
『安心してください。罪に問われる事はありません』
「……え?」
大丈夫なの?
『AIを罪に問う法律は現在ありません。拠って罪に問われるのはマミヤ、またはマミヤの保護者であるミヤジになります』
「もっとだめだろぉぉぉっ!!」
くそ、最悪父さんに擦り付けるしかねえ。
ほんとろくでもねえもん作りやがって、あの親父。
「ん……さむ……」
そうこうしているうちに、間宮さんが目を覚ましたようで、少し震えながら体を起こした。
「えっ!?」
間宮さんは周りを見回して、目を見開いている。
そりゃそうなるよね。
俺だってそうだってし、きっとみんなそうなる。
「え……相原君?」
彼女はようやく俺に気付いて――後ずさりを始めた。
「え、え……なんで、私、相原君が? どうして?」
自分を抱きしめるようにして、恐怖の表情で後ずさった先で、壁にぶつかった。
うん?
あれ? これ、誤解されてない?
『誤解指数は68%と予測。間宮瑠香は性的目的のためにマミヤにさらわれた、という思考が予測されます』
「いや、俺じゃないし!? ていうか顔も覚えてな――あっ」
一人で騒いでいる俺を睨んでいた間宮さんが――今度はその目に涙を浮かべ始めた。
「こんな……ラブホテルみたいなところに連れ込んでまで私の身体が……」
「いや、違う! 違うから!」
ていうか、ラブホテル?
ラブホテルってこういう、宮殿みたいなとこなの?
いや、今そこはどうでもいい。
大事なのは誤解を解く事。
そう、誤解を。
「あっ、そうだ、俺自身を鑑定!」
鑑定して、アイリに読み上げさせれば、きっと誤解を解くきっかけになるはず。
『……?』
「アイリ? 鑑定だよ、鑑定」
『この世界においては、鑑定はアクティブになっておりません』
「へ?」
どういうことなの?
『鑑定や、インベントリ、及び最強の膝は、世界「ジャーイム」特有のもので、ここでは使えません』
「融通利かせて!?」
『アルゴリズムが違うため、不可能です』
「えぇ……」
いや、膝の呪縛から抜けれたのは嬉しいかもしれない。
でも、今は間宮さんの誤解を解かなきゃいけないのに……
「相原君、誰としゃべってるの?」
そこで、間宮さんが警戒しながらも、問いかけてくる。
俺の周りを注意深く見まわしていた。
『お答えします。私はマミヤのAIである、アイリです。はじめまして』
「AI……? え、あ、はじめまして……」
少しだけ毒気を抜かれたような表情になる間宮さん。
よし、いいぞ、このまま誤解を解いてくれ、アイリ!
『今回、令嬢系異世界を生成しました。その際キャスト不足のため、【間宮瑠香】を招致しました。理由は、マミヤの好みのけい……を……てきご――』
「ごめんね、間宮さんちょっとまってね」
俺は腕時計型端末の音量を絞り、きょとんとする間宮さんに待ってもらう事にして、少し距離を取った。
「あのね? そのままだともう完全に俺が誘拐犯だからね?」
『それは半分だけ正解で、半分だけ間違い――』
「いや、全部間違いだから」
『はい、全部間違いです。責任は私にあります。ただ、私はミヤジ及びマミヤの所有物であり、責任は全て両者に帰属するため――』
「いや、うん、わかった。もう喋らなくていい」
『わかりました』
ふぅ、黙らせてやったぜ。
……何も解決してなくない?
「相原君?」
その声に振り向くと、さっきまで、きょとんとしていた間宮さんが、完全に半眼で俺を睨んでいた。
「説明してくれるんだよね?」
半眼のまま笑顔を浮かべる彼女の圧は、どこか、以前の世界のリューンを思い起こさせた――




