1-16「余韻くらい残して!?」
『最強の膝……発動!』
アイリの目がカッと開かれた。
同時に、俺の身体がふわっと浮いて――
「ちょ、俺からいくんかい!」
『処刑用BGM再生します。あーああー』
「またお前が歌うんかい! てか、今そういうのいいから!」
俺は膝を突き出した格好のまま、オムスビの眉間目掛けて飛んでいく。
高い。こわい。
あ、オムスビとまた目があった。
オムスビと俺との間にこれまでの思い出が混ざるようにしてフラッシュバックしていく。
いや、お前との思い出とかないはずなんだが?
ん? ちょっとまって。
これ俺も死ぬやつでは?
次の瞬間、鈍い音がした――
『クリティカル。メガ・オウ・ムスビは倒れた』
まるでスローモーションのようにゆっくりと、オムスビが畳を返す様に倒れていく。
そして、俺は、落ちていく。
あ、そういう事――
『安心してください。即死確率は23%です。無傷の確率は0.5%です』
「安心じゃねえぇぇ!? もっと安全を意識して――」
最後まで言葉にならずに、目の前に地面が迫る。
父さん、母さん、先立つ不孝をお許しください。
あ、アイリ構築したの父さんだったな。
よし、父さんをどうにかして道ずれにしてやる。
絶対にだ!!
そんな事を思っても、もはやどうしようもない。
このまま俺は――
「マミヤ!」
「マミヤ様!」
微かに聞き覚えのある声が響く――
次の瞬間、俺は暖かくて柔らかい何かに包まれて――
「膝――マミヤさん!」
「マミヤ様!?」
四人の顔がうっすらと俺の視界に浮かぶ。
けれど、俺の意識はそこでぷっつりと途絶えた。
*
『世界変数95 ――安定。
世界脅威度3――激減。
歴史修正年表――正常』
何処からか、無機質な声が聞こえてくる。
ああ、よく覚えている。
これは――
『イーダ=マーオ――生存。
シャーユ=ノデッセン――生存。
キサラ=クアタブ――生存。
リューン=M=リュドラ――生存。
シミュレーション結果――成功』
アイリの声だ。
何言ってるかは相変わらずわからない。
それよりもここは――
『おはようございます。アイリです』
「それはわかる」
真っ白な空間。
まるで、転生する前に主人公がよく連れていかれる場所みたいなあの感じ。
『おめでとうございます。異世界「ジャーイム」のシミュレーションを無事達成しました』
「えっ?」
ジャーイムって何?
いや、それはいい。
おそらく、あの世界が「ジャーイム」なんだろう。
ネーミングセンスはおかしいが。
というか、達成?
クリアしたって事?
「ちょっとまって、アイリ。まだシャーユとイーダの好感度って最大になってないと思うんだけど?」
『結論からいいます。この後、シャーユとイーダ間の好感度は時間を置かず最大を突破することが予測されました。そのため、帰還条件を満たしたと判断し、帰還シーケンスを発動させています』
「いや、余韻くらい残して!?」
『早く帰りたい、のでは?』
「い、いや、確かにそうだけど……」
ちょっとだけ、あいつらに情が湧いてた、なんて恥ずかしくて言えない。
あの後の事もちょっと気にもなるし。
『安心してください。この後、マミヤは伝説となり、シャーユたちはマミヤの言葉を胸に、立派な大人となります。これにより、世界滅亡が回避されました』
「伝説!? 滅亡!? というか、なんか言葉残したっけ?!」
『まもなく、現実世界へと到着します。また、別のシミュレーションを楽しみにしてくださいね』
「いや、もういいから!」
そして俺の意識は再び途切れた――
*
――背中が、やけに柔らかい。
その違和感で目を覚ました。
まず視界に飛び込んできたのは、知ってる天井。
まばゆい蛍光灯。
肺の奥まで淀んだ暖かい空気が流れ込むが、頭はまだ寝ぼけたままだ。
「……ん?」
そのまま、体を起こす。
「帰ってきた……のか?」
『おはようございます。本日は一月六日です』
無機質なアイリの声がサイドテーブルの上に置いておいた腕時計型端末から響く。
「え……一月六日!?」
明日から学校なんだが?
『マミヤは、私の生成したシミュレーションで六日ほど冬休みを消費しました』
「うおおおおお! 俺の冬休みを返せえぇぇ!」
俺は勢いよく端末を掴む。
『不可能です。時間は不可逆です』
「そうじゃねええええ!」
俺の叫びが家中に響き渡った──
第一章『転移型異世界生成編」──完──




