1-15「いじめ、だめ、ゼッタイ」
『鑑定結果表示。メガ・オウ・ムスビ。0歳、中流ダンジョン過程で生まれる。モットーは即断即決即集合。好きなもの、ハムスビ、木の枝、雑草。普段はボスめいた行動を取るが、その内面は乙女で日記をつけている。その日記の内容は──』
俺と対峙していたオムスビが、急にみじろぎを始める。
まるでアイリが見えているかのように、そこに向かって、頭を下げたり、手を合わせたりして、どうにも様子がおかしい。
『……クリティカル判定のため、その要望は却下されました』
それ、オムスビなんか頼んでたの!?
よく見たら、なんかすごい焦ってる顔してる気がしてきた。
日記の内容とか暴露されたら誰だっていやだよね、俺だっていやだ。
日記付けた事ないけど。
『〇月▽日、あの子が僕の前を通り過ぎた』
あっ。
これ聞いちゃいけない奴だ。
身悶えするハムスビを前に、アイリは淡々と鑑定結果という名の日記の内容を読み上げていく。
うわぁ……
『あの子は、青い色の花を摘んで、とても綺麗だった。僕は、その花になりたいと思った』
アイリの無機質な声が、静まり返ったダンジョンに響き渡る。
オムスビは、ビル二階建てほどの巨体を縮こまらせ、その場に体育座りのような姿勢で座り込んでしまった。
「……アイリ。もういい。もうやめてやれ。これ以上は、俺の胃がもたない」
何だろう、このいたたまれない空気。
凶悪なボスモンスターと対峙しているはずなのに、クラスの大人しい男子のポエム帳を校内放送で流しているような、最低最悪の罪悪感が俺を襲う。
『鑑定結果の続きです。〇月×日、今日は雨が降った。雨に濡れる僕は、まるで悲しみに暮れる戦士のようだ。でも、あの子が僕を見たら、きっと傘を差し出してくれるだろう。僕は、雨も悪くないと思った』
というか、生まれたばっかなのに何で男子中学生みたいなポエム書いてんの?
いや、そりゃ同情はするけどさあ……
もっとこう、あるだろ?
ボスとしての矜持とか、弱点とか。
傘じゃなくてさぁ……
『鑑定終了。メガ・オウ・ムスビは精神に多大なるダメージを受けた』
うん、わかる。
見れば、紫色の瞳からポロポロと、バレーボールくらいある巨大な涙を流して空を見上げている。
『精神ダメージにより、デバフが発動。全ステータスが80%低下しました。マミヤ、いまです』
いまです、じゃねえよ!?
この可哀そうな男子中学生に追い打ちをしろと!?
アイリは無言でサムズアップ。
「マミヤー!!」
と、そこへ後ろから四人の声が近づいてきた。
「ボクたちだけ逃げるわけにはいかないって、戻ってきちゃった!」
一番最初に俺の前にやってきて、屈託のない笑みを浮かべたのはシャーユだった。
その彼女の腕の中で、キサラも微笑む。
続いて、リューン、イーダも到着し、俺と一列に並んで、途方に暮れるオムスビと対峙した。
うーん、タイミングが良いのはいいんだけどさ……
「えっと……これ、何があったんです?」
俺の左隣に並んだキサラが、オムスビの異常に気付いたようで、困惑顔で俺を見た。
「えっと……プライバシーの侵害を、少々?」
「?」
意味が分からないようで、キサラは可愛く首を傾げた。
「随分弱っているようです……流石は膝……」
「膝って言うな」
イーダが、インテリキャラっぽく冷静に状況を見ている。
リューンとシャーユも油断なく剣を構えていた。
「膝がくれたチャンス、無駄にはしません。シャーユ!」
「なんか死んだような言い方やめてもらえる?」
……ん?
呼び捨てですよ、この少年。
シャーユはイーダの声に頷くと、弾丸のように飛び出して、オムスビの足を切りつけた。
その痛みで我に返ったオムスビだったが、今度は痛みに泣き出してしまった。
シャーユ目掛けて巨大な腕が振るわれるが、、一旦距離を取って回避する。
回り込んでいたリューンが、後ろから切りつけると、オムスビは両手を振り回して駄々っ子のように暴れ始めた。
「落ち着いて……めちゃくちゃなようで、隙が必ずあるはず……」
イーダが冷静にその様子を観察している。
彼の指示で隙を見つけては一撃離脱を繰り返すシャーユとリューン。
え、こいつ誰?
ってくらい成長してるんだけど、どういうことなの?
それでも、どんどん追い詰められていくオムスビを見ていると、段々哀れな気分になってきた。
日記を暴露された上、集団に物理的に殴られていく。
これは、いじめでは?
いじめ、だめ、ゼッタイ。
「ウォォォォォォン」
ついに大泣きを始めたオムスビはその場に塞ぎこんでしまった。
「これは……防御態勢に入ったようです」
イーダはその様子を見て、シャーユとリューンを一旦呼び戻す。
違うからね?
あれ、もうどうしようもなくて亀の子みたいに塞ぎこんでるだけだからね?
『物理的ダメージより、精神的ダメージの方が大きいです』
「いや、お前のせいだろ!?」
『いいえ、私はマミヤの行動を実行したにすぎません。責任はマミヤにあります』
「えっ」
アイリの言葉に、オムスビが俺を見る。
目が合った。
――オムスビと俺はしばらく見つめあうと、その瞳に恐怖の色が浮かんだ。ような気がした。
あっ!? それ以上はいけません!
オムスビは完全に怯え切って、慌てたように立ち上がると、半歩後ずさった――
『メガ・オウ・ムスビは逃げ出した。しかしまわりこまれてしまった』




