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1-14「ボスとかもうお腹いっぱいなんだが?」

「メガ・オウ・ムスビ……」


 え? なんだって?

 リューンのつぶやきに俺は耳を疑った。


 なんでここでメガ盛りオムスビの話をしているのか?

 今は、なんだかこのヤバげな咆哮について、引き返すか進むかを決める時であって、オムスビの話をしている場合ではない。

 それに、このままいくと鬼斬とオムスビの対決とかわけわからない事になるし。


「殺されすぎたハムスビの怨念が、時折誕生させる、災害に匹敵するモンスターです。ハムスビに対して、王のハムスビで、オウ=ムスビというのだけど……あれはさらにその進化系です。まさかこんなタイミングで出てくるとは……」


 リューンが青ざめながら解説してくれた。


 え、そんなやばいの?

 どうしてもでかいお握りくらいのイメージしかないんだけど?


「ま、まさかそんな……」


 キサラも顔を青くして、声がした方を見つめて動かない。

 シャーユとイーダも俺たちの方へすぐに戻ってきた。


「まずいですね……って、キサラ!?」


 シャーユは戻ってきて初めて、キサラの存在に気付いたようだった。

 あんなに大声でリューンと話してたのに。


「シャーユ様、今は撤退すべきかと思います」


 イーダが、少し眉をひそめる。

 ほんのわずかな間に、まるでインテリ冒険者みたいな雰囲気出してやがる。

 眼鏡かけてたら完璧だったな。

 男子三日合わざればというが、三十分くらいしか目を離してないはずなんだが。


 シャーユもキサラに言いたいことがたくさんあったようだが、今はイーダの言葉を静かに受け止めて、撤退の準備を促し始めた。


 だが――


『気づかれました』


 アイリの言葉と同時に、ダンジョンを区切っていた木々が轟音を立てて盛り上がったかと思うと、ビル二階建てくらいの巨体がその姿を現した。

 遠目にもかなりの大きさなのがわかるが、そいつは間違いなくこちらを見ていた。


「でっか……」


 俺は思わず呟いていた。

 見た目は確かにハムスビだ。

 つぶらな瞳ではなく、紫色の妖しい光を灯した瞳に、でっかくて黒光りする、しかも切れ味良さそうなツノを、ハムスビだと言い張るなら、だが。


「まずい! こっちにむかってくる! ついてきて!」


 シャーユが叫んだ。

 準備もそこそこに、シャーユはキサラを抱え上げると、俺たちに一言促して先に走り始めた。

 リューンもイーダと頷きあうと、二人の後に続いた。

 俺も慌てて二人の後を追うが――


『戦闘開始、メガ・オウ・ムスビが現れた』


「ちょ、まてぇぇっ!?」


 俺の身体は勝手に百八十度回転し、向かってくる巨体の方へ向き直る。


『マミヤ、リピートアフターミー。ここは俺に任せて先に行け』

「ここは俺に任せて――ってなんでやぁぁっ!!」


 地響きと共に、オムスビの巨体が近づいてくる。


「マミヤ!?」


 シャーユたちが振り返り、俺の姿を見止めた。


『自動行動宣言、【行動:サムズアップ】』


 アイリの声と共に、俺は右手を大きく伸ばして、親指を立てていた。


「何やらせてんだ!?」


 オムスビの足音が生み出す地響きで俺の声はかき消される。

 体は動かないので、後ろがどうなってるかわからないし、気配を感じるとかできないので、あいつらがいなくなったかどうかはわからない。


「ああ! もう! こうなったらやってやんよ!!」


 リューンに刺殺されるのも、キサラに撲殺されるのも、オムスビに踏み潰されるのも、もう大して変わらんわ!

 いざという時は、アイリが膝を発動……してくれるよな?


 ふと、目線だけをアイリに向けると、アイリは――


『?』


 無表情のまま、可愛く首を傾げた。


「おいおいおいおいおい!!」


 俺の叫びも空しく、俺の目の前には、ついにオムスビの巨体が現れ、そして、止まった――


 見上げると、紫色の瞳が俺を見降ろしていた。

 身長差があるからね! しょうがないね!

 高い所から失礼します、くらい言ってもいいんですよ!?


 俺は何故か、町内会の集まりで、地方議員さんが言っていたフレーズを思い出していた。

 これが走馬灯って奴か……?

 いや、走馬灯ならもっとこう違う場面あるだろ!?


『メガ・オウ・ムスビの行動【行動:ようすをみている】が選択されました』

「おうおうおう、余裕じゃねえか? 逃げれますか?」

『ボスからは逃げられません』

「ですよね」


 だめかー。このまま無宣言だと、行動を無駄に消費しちゃうな。それが命取りだってのはなんとなくわかる。


「あー、あのさ、アイリ? 俺をインベントリに格納してやり過ごすって可能?」

『可能です。やりますか? 後遺症については保証しません』

「なにそれこわい」


 というか生物入れることできんのかよ!?

 あ、インベントリ、そうか、インベントリだ。


「インベントリ表示! これ行動に入らないよな?」

『はい、大丈夫です。インベントリ表示の間はカウントダウンが止まります』

「親切設計」


 表示されたインベントリには、初心者セットの他に、何故か木の枝や石ころ、モンスターの死体や素材が、いつのまにか入っていた。


『こちらの方で格納処理を自動で行いました。また、整理もこちらの方で行っております。整理整頓は心のゆとりをもたらします。感謝してください』


 しまう、って言ってないのにしまわれるの怖すぎない?

 しかも生物まで収納できるんだぜ、これ……

 状況打破のためにと思ったけど、特に状況打破できるものは何もないし。

 詰んだ?


「くっそ……か、鑑定!!」


 苦し紛れだったと思う。

 とりあえず行動を消費しないと、って何もしないよりはマシだと思って、俺は「鑑定」と叫んでいた。


『マミヤの行動が選択されました。【行動:鑑定】 判定:クリティカル――』


 アイリの声に、オムスビの瞳が妖しく光った気がした――

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