1-12「二人きりではありませんので?」
『結論からいいます。シャーユのパーティ加入は正解です』
結論からいうと、大失敗だった。
俺の目の前にはモンスターが死屍累々と積みあがっている。
鬼斬は伊達ではない。
俺の後ろでは、リューンが目を輝かせて、シャーユの活躍を見守っていた。
何が失敗かと言うと、シャーユ強すぎ。
少し難易度が高いダンジョン――先日の樹のダンジョンに似ている――にやってきて、ハムスビ以外のモンスターに感動していたら、秒で切り伏せるのやめてほしい。
でもいいんだ。
大失敗とか言ったけど、イーダがシャーユに興味を持つ切っ掛けになるはずだし。
ただ……どう考えても、シャーユがイーダに惚れる要素がない。
十四歳と十二歳という年齢差に、貴族と庶民と言う身分差。
そして、圧倒的戦力差――
どう考えてもシャーユがイーダに惚れる未来が見えない。
しかも――
『シャーユの好感度は、現在、マミヤ最大、リューン大、イーダ中、キサラ無限大、となっています』
これだよ。
何故かリューンの方が好感度高いし。
あと無限大って何?
てか、イーダへの好感度が一番低いのおかしいよね?
ポーション使ったのはイーダくんだよ?
『補足。シャーユのキサラへの好感度が無限大なのは、ほぼ姉妹のような関係であり、シャーユにとってはキサラは妹であり重度のシスコ――』
「いらない!」
またとんでもない設定出してきやがった。
でもそれなら、あのシャーユの取り乱し方や対応は納得できるが――
「ハァァッ!!」
シャーユの気迫のこもった声が遠くから聞こえてくる。
その気迫と裏腹に、自分の背丈の二倍もあろうかという熊型のモンスターを、まるで大根でも斬るように切り刻んでいく。
「あれ、この階層の中ボス的なモンスターですよ? やっぱりシャーユさんはすごい!」
昨日、パーティ結成についてあれだけ反対していたリューンが、目を輝かせてシャーユの剣筋に魅入っていた。
キサラとリューンの間で謎の空中戦があったのだが、今はいい。思い出したくない。こわい。
一方、イーダはと言えば、シャーユのあまりの強さに完全に引いていた。憧れの眼差しを通り越して、「住む世界が違うんだ」と悟ったような、死んだ魚のような目で地面に転がった狼系モンスターの耳を見つめている。
「なあ、イーダ。……ポーション、使ってよかったよな、きっと」
「……え、あ、はい。マミヤさん。でも、僕がポーションを使う必要、なかった気がします。シャーユさん、自分で治せたんじゃないかなって」
少年の自己肯定感は、もはやマイナスに突入していた。
それもそのはずだ。俺が提案した「パーティ加入」のせいで、少年は自分の無力さをこれでもかと見せつけられる公開処刑の場に立たされている。
あれ?
これよくないのでは?
同じ年代の強豪冒険者の圧倒的強さに完全にしり込みしてて、興味を持つどころではない。
「いやいやいや、イーダのおかげで、あんなすごい人とお近づきになれたんだ。それに冒険者になったなら、上を目指さないとな!」
「そうですかね……」
「そうですよ! シャーユだってきっとお前の事を気に入ってるぞ!」
なんせ好感度は中だしな!
「そうなんですか?」
お?
死んだ魚の目をしていた少年が、捌かれる前の魚の目になってきたぞ
「そうなんですよ! さあ、シャーユから学ぶことはたくさんあるぞ! いってこい」
「……はい!」
少年は、少しだけ瞳に輝きを戻して、俺に背中を押されるまま、シャーユのところへと駆け寄っていく。
まちがって、切り刻まれないようにね。
「……二人っきりですね」
そうかと思ったら、リューンが俺の背後に立っていた。
いや、目の前でシャーユが敵を切り刻んでいるし、イーダ少年が、あっ、危なく誤射されるところだったし、一応アイリもいるから二人っきりではないよね?
「シャーユ様とお近づきになってのは、まあいいでしょう」
なんかすごい圧が肩越しに飛んでくる。
「でも……キサラ様は危険です。危ないです。あのお……嬢様は、純粋無垢なふりをしていますが、とても危険な類のお……嬢様です」
時々あの女っていいそうになってない?
脳裏に昨日のリューンとキサラの空中戦がよみがえってくる。
*
「パーティ……ですか?」
キサラが首を傾げる。その横でシャーユは黙ってキサラを見つめていた。
「それではお礼にならないのでは?」
「そうですよ!」
突然リューンが口を挟んできた。
「お礼とかじゃなくて、シャーユ様はともかく、キサラ様をマミヤに近づけるのは危険、じゃなくて、キサラ様を危険に晒すのはどうかと思います」
リューンの言葉に、シャーユが深くうなずいた。
『シャーユのリューンに対する好感度が上がりました』
いや、そこはどうでもよくない!?
「私は一向にかまいませんよ?」
そういってキサラは天使の笑みを零す。
「いやいや、待ってください。流石にさっきみたいな目に合わないとは絶対に言い切れませんし――」
「そうですね。今回みたいに勝手に行かれて、怪我されると、ボクだって困るよ、サキラ」
リューンの言葉にうんうんと頷いていたシャーユもまた、キサラに向き直って考え直す様に言い始めた。
てか、シャーユってボクっ娘だったのね。
『マミヤの好みに合わせて調整されています』
いや、まって。
この場合、俺の好みじゃなくてイーダの好みに合わせるべきだよね?
『イーダ少年もボクっ娘判明で胸がキュンキュンしてます』
少年は、リューンとキサラのやり取りに困惑してるばかりで、ボクっ娘に気付いてないみたいだが?
というか心の声に反応するのはおやめください。
「私とて、いくつかの心得もありますし、シャーユも一緒なら遅れをとる事はございません」
「で、でもですね?」
キサラの方が現状一枚上手の様で、リューンは押されっぱなしである。
そこからリューンとシャーユによる必死の説得により、キサラはお留守番、シャーユだけ俺たちに同行する事に決まったのだが――
*
「二人きりですよね?」
だからその圧はなんなんだ!
「最近邪魔もの……じゃなくて昔みたいに二人っきりで過ごす事、あんまりないですから……」
ちらとみると、少しだけ物悲しそうな顔をしているリューン。
いや、そもそも昔というほど付き合い長くないし、常にアイリもいたから二人っきりで過ごしたことなど皆無なのだが?
リューンさんの中で過去改変とか起きてます?
大丈夫です?
「久しぶりの二人っきりなんですし、その……」
さっきまでの圧は、突然熱っぽい圧に変わって、リューンは俺の肩にしなだれかかってきた。
いや、ここ、ダンジョン、普通にモンスターでてくる。オーケー?
それと、普通に目の前にシャーユとイーダ、そして隣にアイリ。オーケー?
『安心してください。未実装です』
もはや安心は未実装とかそういう部分の話でないんだが?
とりあえず今はリューンを引きはがさないと――
「マミヤ様ー!」
そこへ、あの美しい声が、遠くから響いてきた――




