1-11「無理ゲーじゃない?」
ああ……この声、あの声優さんみたいな、素晴らしく可愛くて、耳に残る、天使のような、あの、えっと、語彙が死ぬ声。
よし、キサラ。
お兄さんと二人で芸能界の頂を目指そう。
まずはレッスンだ!
「マミヤ?」
はっ。
俺は……何を……
リューンのドスの効いた声で我に返る。
あ、いや、ドスなんて聞いてないですよ、もちろんリューンさんも素敵な声です。
「あの……」
わぁ、キサラさんの素敵な声……
「マミヤ」
「はい、いいえ。君を本当に救ったのはそこのイーダくんです」
「よろしい」
このリューンとのやり取りに、ベッドの上の少女は、またくすくすと笑っていた。
いや、ちょっとまって。
この子、別に重要人物でもなんでもないはずなのに、なんでこんな主役級みたいな声してんの?
今、重要なのはシャーユとイーダであって、この子はほぼ関係ない。
いや、シャーユとどうも親密な関係の様だから関係なくはないけど、でも、事実上俺の帰還には関係ないのに、ほぼ主役みたいな声してんだけど。
いや、待て。まだ慌てるような時間じゃない。
主人公級の声なんて、豪華声優陣が集まれば、ほぼ全員が主役級の声みたいなもんだ。
だから、慌てなくても大丈夫だ。
「どうかなさいましたか?」
……これ、主役を食いかねん声だぞ……しかも美少女ときてる。
ブロンドの長髪に柔和な笑顔、十三歳にしたって可愛すぎて、正統派美少女を地で行っている。
いや、まて、落ち着くんだ。
今はそんな場合ではない。
折角イーダとシャーユが出会ったんだ、俺はこの二人を全力でプロデュースして、互いの好感度を最大まであげなければいけないのだ。
キサラをプロデュースしている場合ではない。
「あの……キサラと言います。このたびは、本当にありがとうございました」
「あっ……シャーユです。ありがとうございました!」
キサラがベッドから降りて。優雅に礼をする。
その横で、シャーユが同じく、元気に頭をさげる。
「あ、いえいえ。実際にポーションを使ったのはそちらのイーダくんですので、お礼ならそちらへ……」
キサラの所作が綺麗過ぎて気圧される。
貴族ではないはずだが?
『キサラは中流階級家庭の貴族です』
お嬢様野草取り行っちゃだめでしょうが!
何だこの設定……
護衛もなしに外に出ちゃうの?
お嬢様設定ガバガバじゃない!?
そして、そのお嬢様は、シャーユを伴ってイーダの方へと歩いていく。
「イーダ様も、貴重なポーションをいただいて、ありがとうございました」
「ありがとうございました!」
二人の礼に、少年も少し顔を赤らめながらも驚き戸惑って、リューンと目の前の二人を見比べるように挙動不審になっている。
うん、感触は悪くないが、キサラに引っ張られないように、彼にはまっすぐシャーユだけを見ていてほしい。
今はリューンをちらちらと見ているが。
……あれ、じゃあシャーユもそうなの?
『はい、シャーユも中流階級家庭の貴族です』
いや、そもそも中流階級家庭の貴族って何?
凄く聞きなれない。
いや、とりあえずそれはいい。
そうなると、イーダもそうなの?
『イーダ少年は、中流家庭の庶民です』
階級って言葉がないだけで庶民になるんかい!
あれ?
じゃあ、庶民と貴族を結ぶってかなり難しいのでは?
「なあ、アイリ」
『はい、一般的にはほぼ不可能です』
「勝手に心の中読まないでね」
『ですが、進行上難しくはありません』
「進行とかいうな!」
ここへきて、難題が出てきてしまった。
まさかの身分差である。
キサラとシャーユのお嬢様二人はリューンにもお礼を言う。
「あれ……もしかして、シャーユ様って……」
そこで、リューンがハッとしてシャーユの顔をまじまじとみた。
それ不敬にならない?大丈夫?
「もしかして、鬼斬のシャーユ様、ですか?」
「あっ……えへへ、そう呼ばれるのは、凄くくすぐったいんですけど……」
鬼斬のシャーユ?
なんか腹が減りそうな名前だが、何それ? 焼く奴?
そう呼ばれたシャーユは顔を赤くして頬を掻く。
「何それ?」
「シャーユ様の異名だよ。十四歳にして、剣の達人と呼ばれ、とある事件で魔物たちをバッタバッタと切り倒したっていう」
魔物?
ハムスビのことかな?
「ファンなんです!」
リューンが目をキラキラとさせ始めた。
「えっと、あの時は、他の冒険者さん達もいましたし、私だけの戦果では……」
すっかり照れてしまって、シャーユは下を向いてしまっていた。
その後も、リューンはあれこれと質問をし、シャーユは照れながらも真面目に答えている。
キサラはそれを柔らかい笑みを浮かべて見守っていた。
うん、まずい。
駆け出し冒険者で庶民のイーダくんと、貴族でネームド冒険者のシャーユさんでは、どうみてもつり合いがとれない。
何これ、難易度跳ね上がってるんですけど?
俺帰れるんだろうか?
『進行上難しくありません』
だから進行ってなんだよ!
「あの、それで……きちんとした形でお礼をしたいのですが……」
リューンとシャーユの話が一段落したところで、キサラが俺たちに提案してきた。横ではシャーユもしきりに頷いている。
ここで俺は、さっきのリューンとシャーユの話の中に、
キサラも冒険者登録をしてあって、野草採取の際は二人で行くという話があった事を思い出す。
シャーユはキサラの護衛をやっているという話だった。
あ、これか。と、腑に落ちた。
「あの、お礼はいらないので……もしよかったら俺たちと一緒にパーティを組んでもらえませんか?」
俺の一言に、シャーユたちは目を丸くし、そしてどこからブチっという紐が切れるような音が聞こえた――




