1-10「〇リコンではありませんので」
少女の事件のおかげで、依頼遂行どころではなくなってしまった俺たちは、門番の詰め所で、医者の到着を待っていた。
そして、俺はと言うと確信をもってこの少女を鑑定してみたのだが――
『鑑定結果出力。キサラ=クアタブ、十三歳。好感度不明。中流階級の家庭育ち、この街にある学校の学生で、喫茶店のバイトなどでお小遣いを稼ぐ美少女です。趣味:野草採取。お小遣いで紙を買い、それで野草図鑑を作っている優秀な少女です」
シャーユじゃないんかい!
くっそ! 絶対本人だと思ったのに! 美少女だし!
いや、美少女とかはどうでもいい。
それよりも今は、目の前で殺気の籠った目で俺を見ているこの女性を何とかしてほしい。
ここへ来てからずっと俺をまばたきもせず、完全に瞳孔が開いた目でずっと見ている。
こわい。
鑑定で現実逃避しようと思ったけど、俺がキサラに目線を送っただけで殺気の圧が高まる。
しかも、そのリューンからは、
少女趣味少女趣味少女趣味少女趣味……
何だか呪詛みたいなのが聞こえてくる。
こわい。
君そんなキャラだっけ……
イーダを連れて来た時はこんな反応じゃなかったのに――
というか俺は〇リコンではありませんので……
「キサラ!?」
そこへ、勢いよく扉が開かれ、一人の、これまた美少女が飛び込んできた。
黒髪黒目の、ショートカットにキサラと似たような服。学校の制服だろうか?
驚く俺たちを尻目に、少女はキサラの元へと駆け寄ると、眠っている少女の顔を心配そうにのぞき込む。
安らかな寝顔に、ほっと息をつくと、少女は振り返って頭を下げた。
「事の顛末は、門番さんから聞きました。ありがとうございます!」
少女は頭を上げると、俺の方へ歩み寄ってそのまま手を取り、再び頭を下げた。
「貴重なポーションを使っていただいたそうで……」
あっ、やめてください、リューンが爆発してしまいます。
背中への圧がいつ爆発してもおかしくないほどに強まっていた。
「あ、いや、ポーション使ったのはそこの少年で――」
「それも聞いています!でも、最初に動いてくれたのはあなただと聞いていますので、まずはあなたにお礼を!」
頭を上げた少女は俺を見つめて笑った。
すぐに手を離し、今度はイーダ少年の元へと駆け寄り、同じように手を取って謝辞を述べる。
少年は、顔を真っ赤にして謙遜していた。
少女はその手を離して、今度はリューンの元へ行き同じように頭を下げる。
それだけで、リューンの圧がなくなった気がする。
グッジョブ、少女。
『キサラとシャーユの好感度が最大になりました』
「誰への!?」
いや、まて、今、シャーユって言ったな?
じゃあ、このショートカットの子がシャーユ?
あー、なるほど、俺の判断は間違ってなかった。
キサラはシャーユじゃなかったけど、シャーユだった。
うん、何言ってんだ? 俺。
てことは、この黒髪少女とイーダ少年をくっつければいいのかな?
出会いの第一印象はいい。
なんせ、貴重なポーションを使ったのはイーダだ。
そう考えると、ポーションが割れたのは僥倖だったかもしれない。
そうなると、二人の好感度の対象はイーダで間違いない。
出だし好調ってところだな。
よくやった、アイリ。
いや、アイリを褒めたりはしない。
今回は怪我の功名ってだけだからな。
『はい。対象はマミヤです』
「やめろぉぉっ!!」
まてまてまて、これじゃあ俺、イーダとシャーユの最大の障害になりかねんのじゃないか!?
褒めなくてよかったとか、そういうレベルの問題じゃねえ。
というか好感度判定ガバガバすぎるだろ!
しかもポーション使うのに失敗してんだぞ、俺。
普通ポーション使ってくれたイーダへの好感度が最大になっていい所だろ。
そうすると、俺は即帰宅。イーダも幸せ、シャーユも幸せ。
円満解決大団円!
『その理論には穴があります。仮にシャーユからイーダへの好感度が最大になっても、イーダは依然としてリューンへの好感度が最大になっているため、三角関係に陥り、世界は滅びます。』
「いや、だから心の声っ! って、三角関係で世界は滅ばないだろ!」
『はい……現状ではイーダのシャーユに対する好感度が規定値に達していないため、帰還する事は出来ません』
「わかった! もういい、わかった」
ツッコミ疲れて、俺はため息をついて椅子に座りなおして、ふと周りの視線に気が付く。
周りから見たらずっと独り言を言ってる少年にしか見えないんだろうが、ここにいる誰もが俺を暖かく見守っている。
好感度ってすごい。
いや、そうじゃない。
「三角関係、ってなんですか?」
訂正。一人だけ暖かくない奴がいた。
いつの間にか背後にいたリューンが、抑揚のない声で囁く。
こわすぎて振り向けないよ!
「さ、えっと、ほら、見て、リューン」
体が機械にでもなったかのように動きもぎこちなく、俺はイーダを指さして囁き返す。
「少年は、あの二人が、気になっていると、思うんですよ」
「そうでしょうか」
なんで敬語なの?
「間違いありません。イーダとあの少女二人が三角関係で、世界は滅亡する」
「そうでしょうか。今入ってきた方は、ちらちらとマミヤの方を見ていますよね?」
リューンが俺の肩にそっと手を置いた。
すごく冷たく感じる。女の子の手って冷たいよね、うん。
「気のせいでしょう。もしかしたら、俺じゃなくてリューンさんを憧れの女性冒険者として見ているのかもしれませんね」
だからなんで俺まで敬語だよ!?
ああっ!
お願いですから耳元で呪詛を唱えるのはやめてください!
クスクス……
リューンとそんなやり取りをしていたら、急に誰かの笑う声が耳に飛び込んできた。
はっとしてみると、既にベッドから身を起こしている少女の姿があった。
「おはようございます」
少女は、はっきりと、そしてめちゃくちゃ可愛い声でそう言った。




