表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

都市伝説好きな少女の記録

菱葩餅は都市伝説好きな少女からの御年賀ギフト

作者: 大浜 英彰

挿絵の画像を作成する際には、「AIイラストくん」と「Ainova AI」を使用させて頂きました。

 暗闇の中を、私は必死に逃げ続けていた。

「嫌、来ないで!」

 しかし返ってくるのは、上下の歯を噛み合わす音だけ。

 私は巨大な歯に追い回されていたんだ。

 それも何本か欠けた不揃いな歯にね。

「あっ!」

 やがて私は追い付かれ、全身を噛まれてしまったの。

「痛い、痛い!」

 最後の記憶は、強烈な激痛と自分の絶叫だけだったよ…


 そうして自分の悲鳴に驚く形で、私は飛び起きたんだ。

「えっ、これが初夢?新年早々、最悪…」

 愚痴りながら着替え始めた私は次の瞬間、凍り付いてしまったの。

「な、何これ…」

 何と私の素肌には無数の噛み傷があったのだから。


 新年早々に降りかかった怪事を、同級生の鳳飛鳥(おおとりあすか)さんは熱心に聞いてくれた。

挿絵(By みてみん)

「それは面白い話だね、池上さん。」

 急に押しかけた私にも丁寧に応対し、メモを取りながら熟考する鳳さん。

 これもオカルト研究家の性なんだろうな。

「池上さん、歯に関して何か変わった事はここ最近で無かった?」

挿絵(By みてみん)

「うーん、今は虫歯は無いし…あっ!」

 そういえば随分前に亡くなった親戚の遺品の総入れ歯が見つかり、金歯だけ売ってそのままにしたんだっけ。

 それを伝えたら、鳳さんは得心がいったとばかりに頷いたんだ。

「口内に嵌める入れ歯には残留思念も溜まりやすいからね。キチンと供養してあげたら大丈夫。後はこれを枕元にお供えしてね。私からの御年賀ギフトだよ。」

「えっ、菱葩餅ひしはなびらもち?これ、鳳さん家に来た御歳暮じゃ…」

 白味噌餡と牛蒡を菱形の餅と求肥で包んだ和菓子が正月の行事食だって事は知っていたけど、当時の私には級友が突然くれた理由が分からなかったんだ。


 それが理解出来たのは、就寝した後の事だったの。

 また私の夢の中に、あの不揃いな歯が現れたんだ。

「ひっ!」

 だけど、その後の展開は全く違っていたの。

 何と件の歯は、突然現れた巨大な菱葩餅ひしはなびらもちに齧り付いたんだ。

 そうして猛然と食い進めるうちに、欠損した歯がみるみる蘇っていく。

 やがて菱葩餅ひしはなびらもちを完食した頃には、件の歯は一本の欠損もない美しい姿を取り戻したんだ。


 余りにも不可解な夢のせいで、寝起きの気分はスッキリしなかった。

「変な夢…あっ!」

 そんな私を覚醒させたのは、枕元の変化だった。

 皿に盛った菱葩餅ひしはなびらもちが綺麗に消えていたんだ。


 狐に摘まれた気分の私とは対照的に、鳳さんは満足そうだった。

「やはりね、池上さん。何せ菱葩餅ひしはなびらもちは歯固めの儀式に使われてたから。歯の怪異には効果覿面だよ。」

 あれ以来、私は歯の悪夢を見る事はなくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
歯に襲われるというのはかなり怖い夢ですね。 しかし、さすがの鳳飛鳥ちゃんでした。 菱葩餅、検索すると非常に上品な見た目で美味しそうでした。
ポリデント!?Σ(º ロ º๑)
最初に見た感想が「よ、読めねぇ……………」だったワタシはすぐさまググったお陰で『歯固めの儀式』まで確認してしまい……………。 しまったなあ……………、と。 何と言うか、漫才を見る前にネタ帳を読んだ気分…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ