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バリバリ童貞です~警視庁公安部秘事課事件簿~  作者: 阿弥陀乃トンマージ
第1章

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第3話

「はあ~」

 秘事課のオフィスの片隅で、春彦はため息をつく。

「群山君、おはよう」

「あ、おはようございます」

 春彦は声をかけてきた黒都に挨拶する。

「うん、こちらを紹介するよ」

 黒都の側に、黄色髪を三つ編みのおさげにして眼鏡をかけた大人しそうな女子が立っている。背丈は低い方だ。女子がおずおずと口を開く。

「お、おはようございます……」

「おはようございます……」

「私は秘事課の黄袋桜(きぶくろさくら)と申します。よろしくお願いいたします」

 桜と名乗った女子が恭しく礼をする。

「あ、新しく入った群山春彦です。こちらこそよろしくお願いいたします」

 春彦も丁寧に礼を返す。

「さて、顔合わせも済んだところで……今日は桜と出かけてもらおうかな」

「あ、そうですか……」

 春彦は御茶ノ水の方に視線を向ける。

「なんじゃ、わらわはもうお払い箱か?」

 御茶ノ水が唇をプイっと尖らせる。

「え、えっと……」

 春彦が黒都に視線を戻す。黒都が笑みを浮かべながら告げる。

「御茶ノ水の好きにすれば良い」

「それならわらわも帯同するぞ」

「ああ、構わないさ」

 黒都が頷く。

「黒都さん……」

「桜、今日のリーダーは君だ。君の好きなタイミングで出発すれば良い」

「は、はい……それでは、早速出発したいのですが……」

「やる気十分だね。群山君も準備してくれ」

「あ、はい……」

「御茶ノ水も」

「わらわはいつでも出られる……」

 御茶ノ水が席から立ち上がる。春彦が考えを巡らす。

 (パトロールにでも行くのかな……どこだろう……黄袋さん、三つ編みおさげだし、文学少女っぽいな、神保町にでも行くのかな、書店巡りか、それは楽しそうだな……)

 春彦が笑みを浮かべる。

「あの~群山さん?」

「ああ、すみません、準備出来ました」

「そうですか、それでは出発しましょう……新宿歌舞伎町に」

「はい……ええっ!?」

 予想外の行く先に春彦は驚く。

「……着きましたね」

 『新宿歌舞伎町』と書かれたアーチ型の看板を見上げながら桜が呟く。

「まあ、パトロールにふさわしい場所ではあるが……」

「? どうかしましたか? 群山さん?」

 桜が小首を傾げる。

「い、いえ、なんでも……」

「相変わらず昼間からやかましい街だな……」

「……なんでそなたも来ておるんじゃ?」

 御茶ノ水が涼子に冷ややかな視線を向ける。

「べ、別に良いだろうが」

「黒都に許可を取ったか?」

「いちいち許可なんていらねえよ、アタシはこいつに借りを返さないといけねえからな!」

 涼子が春彦に向けてビシっと指を差す。

「はあ……」

「ははっ、ため息をつかれておるぞ」

「なんだよ、そのため息は!」

(真っ昼間から新宿歌舞伎町で、十代にしか見えない女子3人――その内一人は実年齢不明の不思議な力を持った人、もう一人は伝説の魔法戦士だけど――を三十路のおっさんが連れて歩いていたら、またもや職質の嵐なんだろうな……公安って言ってもなかなか信じてもらえないし……)

「……大丈夫ですか、群山さん?」

「え、ええ、大丈夫です!」

「……本当ですか? 無理をしないでくださいね」

「ほ、本当に大丈夫です」

「体調が悪かったらすぐに言ってくださいね」

「は、はい……」

「ふふっ……」

 桜は微笑む。春彦も笑顔になる。

(や、優しいな、黄袋さん……)

「それでは参りましょう……」

 桜が先頭を切って歩く。

「ちょっと……」

(うわ、いきなり声をかけられた……ん?)

 春彦が視線を向けると、ガラの悪そうな男性五人組だった。その内の一人が春彦を指差す。

「おい、眼鏡、てめえ、ガンつけただろう?」

「はい? い、いいえ……」

「しらばっくれんな」

「い、いえ、本当に見ていないですよ」

「ガタガタうるせんだよ!」

「えっ!?」

「喧嘩売ってんのか!? ああん!?」

「ええっ!?」

「おらっ!」

 男が急に殴りかかってくる。

(ええっ!? いきなり殴りかかってきた!? 歌舞伎町とはいえ、治安終わっているだろう!?)

「……!」

「あっ……!?」

 男の拳を桜が片手で受け止める。

「……てめえ、覚悟あんだろうな……?」

「くっ……」

「き、黄袋さん……?」

「今日はてめえら社会のゴミどもを一掃しに来たんだよ……」

 桜が眼鏡を外し、おさげ髪を解き、ロングヘアをなびかせる。

「ぐっ……」

「おらあっ!」

「がはっ!?」

 桜が男を殴り飛ばす。男が吹っ飛ぶ。桜が声を上げる。

「覚悟のあるやつからかかってこいや!」

「き、黄袋さん!? ど、どうしたんですか!?」

 春彦が困惑する。御茶ノ水が口を開く。

「思ったよりも早かったのう……」

「ど、どういうことですか、赤丸さん!?」

「看板を見てみな」

 御茶ノ水の代わりに涼子が反応し、看板を指し示す。

「看板? ……ああっ!? 『新宿神終町』!? そ、それってまさか、人気ゲーム、『虎の如く』の……」

「そのまさかだよ」

「ゲームの世界が現実に干渉することはままあるものじゃ……」

 涼子と御茶ノ水が揃って頷く。

「そ、そんな……」

「おらおらあっ!」

「ぎはっ!?」

「ぐはっ!?」

 桜が二人の男をあっという間に倒す。残りの二人が戸惑う。

「あ、あの女、まさか!?」

「ああ、間違いねえ、『池袋の虎』だ!」

「二つ名がついている!?」

 桜の異名に春彦は驚く。

「おらおらあっ!!」

「げはっ!?」

「ごはっ!?」

 桜は残りの二人もほとんど一瞬で倒し、笑みを浮かべる。

「へっ、雑魚が……どんどん行くぜぇ!」

 桜が駆け出す。

「あっ……」

「ボサっとするでない、群山!」

「追いかけるぞ!」

「は、はい……!」

 御茶ノ水と涼子も駆け出す。春彦は慌てて追いかける。

「おらあっ!!」

「ぶはっ!」

「うおらあっ!」

「ぼはっ!」

 春彦たちは桜を先頭に群がるチンピラやヤンキーの集団を退けていき、広場まで到達した。

「……ん?」

「池袋の猫が暴れているみてえだな……」

「野良猫が……」

「駆除してやらねえとな……」

「大人しくなったら、たっぷり可愛がってやるぜ……」

「へへっ……」

 正面、さらに東西南北から五人の屈強な男が現れる。赤髪の男と、青髪の男、金髪の男、緑髪の男、ピンク髪の男だ。

「こ、これまでのやつらとは雰囲気が違う……ボス級のキャラか?」

 春彦が小声で呟く。

「四天王の登場だ! これであいつらも終わりだぜ!」

「い、いや、五人いるけど!?」

 春彦が周囲の声にツッコミを入れる。

「! おい、そこの眼鏡……」

「! は、はいっ!?」

「人の気にしていることを大声で言うのはどうかと思うぜ?」

「ア、アウトローにたしなめられた!?」

「……まずはてめえから……がふっ!?」

 青髪の男を桜が一撃で倒す。桜は両手をパンパンと払う。

「これでちょうど四天王だな……」

「て、てめえ!」

「やっちまえ!」

「四人同時は厳しいな……姐さんたち、お願い出来るかい!?」

 桜が御茶ノ水たちに声をかける。

「誰が姐さんじゃ……まあ良いじゃろう」

「アタシの方が桜さんより年下なんだけどな……暴れてやるぜ! 『キュールチェンジ』!」

「え、え……?」

 四天王との戦いが幕を開ける。金髪の男が御茶ノ水に襲いかかる。金髪の男は脚を振り上げる。

「俺の痺れるような脚技を食らいな……!」

「それはお断りじゃ……」

 御茶ノ水が手で印を結ぶ。金髪の男がピタッと止まる。

「ああん!? う、動かねえ……な、なにしやがった!?」

「なに、ただの術じゃ……」

「じゅ、術!? なにをわけのわからねえことを……!」

「分からんで結構……!」

「ぎふっ!?」

 御茶ノ水の平手打ちを食らい、金髪の男は吹っ飛ぶ。

「へへっ……」

 緑髪の男がナイフを取り出す。涼子が顔をしかめる。

「! 男が女相手に刃物かよ……」

「へへっ、そのヒラヒラしたおべべを切り裂いてやるぜ!」

 緑髪の男が涼子に切りかかる。

「うぜえんだよ!」

「ぐふっ!?」

 涼子が拳を繰り出すと、ナイフが折れ、そのままの勢いで緑髪の男の顔面をクリーンヒットした。緑髪の男は吹っ飛ぶ。

「魔力を拳に込めといた……それくらいの刃物なら問題はねえ……」

 涼子があらためて拳を握り直す。

「ははっ! どうした、どうした!?」

 赤髪の男の猛攻に桜が防戦一方の戦いを余儀なくされる。桜は舌打ちをしながら呟く。

「ちっ、なかなかやるじゃねえか……」

「あたぼうよ! 俺が実質、この四天王のリーダーだからな!」

「確かに……それも納得の強さだ……だが!」

「ああん!?」

 一瞬の隙を突いて、桜が赤髪の男の懐に潜り込む。桜がニヤッと笑う。

「守りが若干おろそかだな……」

「し、しまっ……」

「うおりゃあ!!」

「げふっ!?」

 桜の強烈なアッパーカットを食らい、赤髪の男は吹っ飛ぶ。

「さて……残りはてめえだ!」

 桜がピンク髪の男に殴りかかる。

「ぐうっ!?」

「そりゃあ!」

「うぐっ!?」

「どりゃあ!」

「げえっ!?」

 桜が綺麗なワンツーパンチと華麗なキックをお見舞いする。だが、ピンク髪の男は持ちこたえている。桜が眉をひそめる。

「なんだと……? 今の一連の攻撃を食らっても平気なのか?」

「タ、タフさなら誰にも負けねえ!」

「ちっ……」

「隙有り!」

「むうっ!?」

 ピンク髪の男の反撃を食らい、桜が膝をつく。春彦が声を上げる。

「あ、危ない!」

「危ないじゃない! そなたの受け持ちであろう!」

「なにやってんだよ!」

 御茶ノ水と涼子が春彦を責める。

「い、いや、だって、喧嘩とかしたことないですから、すっかり足がすくんでしまって……」

 春彦が正直に応える。

「なんとかせい! わらわたちは力を使い過ぎた! すぐには動けん!」

「ええ……な、なんとかなれえっ!」

「ごふっ!?」

 春彦がその辺の電柱を引き抜いてピンク髪の男を殴りつける。ピンク髪の男は吹っ飛ぶ。街の雰囲気が変わる。桜が眼鏡をかけて春彦に向かって笑顔で呟く。

「……これにて本日の浄化作戦は完了です」

「な、なんとかなった……」

 力の抜けた春彦はその場にへたり込むのだった。

お読み頂いてありがとうございます。

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