第03話 芽吹いた命は……
長い時間を旅する彼らに、幸せなことばかりが続くわけではない。
それは、彼らが身をもって実感したことだ。
ルーメンとエレンブルが旅を続ける中で、彼らの力が世界に影響を与え続けている。
2人が共に力を合わせることで、植物や精霊、動物たちが次々と生まれ、新たな命を宿す。
彼らはその過程を見守り、世界がどのように変化していくのかを興味深く観察し続けた。
命はエレンブルとルーメンとは異なる時間を生き、儚くも力強く彼らの時間を生きる。
そこには、わずかばかりの寂しさと、悲しさが募る。
けれど、彼らの穏やかで幸せな長い旅の時間は、終わりを迎える。
彼らの力が生み出した生命たちの間で、土地や資源を巡って争いが起き始めたのだ。
草木は焼き払われ、大地は力をなくしたかのように生命を宿さない。
エレンブルはその光景を見て悲しそうに呟く。
「ルーメン、我らの力が生み出した生命たちが争って居る。これは我らの存在が引き起こしたことなのか?」
ルーメンもまた、その光景に胸が痛み、目から生暖かいものが溢れた。
「そうかもしれない……僕たちの行動は間違ってたのかな。なぜ世界は広いのに、争うんだ」
遠くから聞こえるのは悲鳴と命を争う声、物と物がぶつかり合い、地面は赤く染まる。
争いから目を背けたくて旅を続けても、広がるのは似たような光景ばかり。
争いに嫌気がさした2人は、ある日、とある大陸に辿り着いた。
その大陸では人々が平和に暮らしている村があり、自然に囲まれている。
村の人々は精霊たちの存在を尊重し、精霊も人族も互いに助け合っている。
この時間がいつまで続くのかは、2人には分からない。
それでも、今まで目を背けたいと思っていた光景と、耳を塞ぎたくなる音はこの大陸からは聞こえてこない。
今聞こえるのは自然の厳しさと、生命たちが繰り返す命の循環。
「彼らの時間とは違うけど、少しだけこの地に留まろうか……」
儚げにルーメンが言うと、エレンブルは静かに頷いた。
そして、2人は姿を隠したまま、暫くそこで過ごすことにした。
人が水を使う時は精霊が力を貸し、代わりに人が精霊に甘いものを提供する。
精霊が困っていれば、人は身を挺してでも魔物を追い払う。
精霊の命が尽きれば人は泣き、人の命が尽きれば精霊は寄り添って悲しみを分かち合う。
穏やかで何気ない光景は、ルーメンとエレンブルには心地よかった。
しかし、この大陸の遥か東の方で、再び争いの音が聞こえ始めた。