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第3話 出会い(アルス視点)

僕は今、夜会の会場である王城の大広間の隅にいる。

今のところ作戦は無事遂行できている。

ん?なんの作戦かだって?


もちろん僕の目立たずやり過ごす作戦だ!


かなり早い時間にやってきて、魔法で周りからの印象を操作して騒がれることなく入って来た。

周囲にいるみんなには僕がタキシードを着た中肉中背の印象の薄い男に見えているはずだ。


一部、なぜかこっちを赤い顔で見ているやつらがいるけど、無視しよう。

と思ったけど、なんか武装してる人たちがいるな。

理由はわからないし、何かの任務中なのかもしれないけど、こんな場所でもし暴れられたりしたら危ないから無力化だけしておこう。

そして僕はのんびり端っこにいよう。

 

そう決めた僕は、魔法を維持したまま、念には念を入れてちょこちょこ移動しながら美味しい料理とジュースを頂いていた。


そうして多くの人が集まった後、ついにこの夜会の主役である第一王子様と聖女様が入場された。

あれ?おかしいな?


こういう場合、手と手をとり合い、仲睦まじく入ってくるものだと思うのだけど、1人ですたすたと入って来た第一王子の後ろを優雅に聖女様が歩いて来られた。

まだ結婚していないし演出か何かなのかな?


ぼんやりと眺めていたけど、第一王子様はその洗練された容姿で大人気のようだった。

婚約され、結婚されると言うのに、登場された際には黄色い声がたくさん飛んでいた。

隣にいた令嬢なんかはきゃーきゃー言っていた。

ちょっとはしたないのではないだろうか?


まぁ、お相手がいる令嬢ではなく、父親と思われる男性と一緒に来られていたから、特に問題はないだろうが。


そして聖女様。

衣装はとてもシンプルなもので、特段の飾りつけもされていなかった。

はっきり言って、少々意外だった。


清貧を是とする神殿の聖女様だからだろうけど、王家の方が飾り付けるのかなと思っていたから。

でも、その姿は好感が持てる。


なにせ長らく平和を享受したこの国では、豪華絢爛を見せつけるような貴族が多い。

王族はその最たるものだ。


今の国王陛下はそれを戒めるような言動をされることが多いと聞いているが、長年の慣習はなかなか消えない。

王族や貴族たちの無駄遣いが止まらない……。


「まぁ、見てください聖女様のお姿を。あれでは第一王子様が可哀そうですわ」

「レオナルド殿下が贈られた衣装やアクセサリーは全て拒否なさったそうよ」

「まぁ」

しかし、周りにいるのが貴族たちとあって、その視線は聖女様側に厳しいものだった。

僕も修行している方が好きだし、貴族の政争に関わるつもりがない大公家としても関わる必要がないことを天に感謝した。


そして歓談の時間。

周囲の者たちと挨拶を交わし、場合によっては利益となる話を探して彷徨う時間だ。

僕はここで1つだけ実行しなければならない使命がある。


みんなわかるよね?

挨拶だ。


僕は大公家のものとして、国王陛下にだけは挨拶しなければならない。

その他は問題ない。

なにせ大公家は王家に次ぐ家だ。むしろ他の家が挨拶しに来るべきだが、政争に関わらない大公家は挨拶も気にしない。


さらに王子様に挨拶する必要もない。

次期国王と言っても、現国王ではない。大公家が挨拶する必要はない。


できれば聖女さまには挨拶したいけど……まぁ、今はやめておこう。

目立たないことが最優先だ。

それもこれも全ては衣装を用意した師匠……ルドニス様のせいだし、それも僕を女の子のように育てて来た両親のせいだ。


僕の両親はとても……というかかなり変わった人たちで、見た目が女の子のように可愛らしい感じの僕に対して一切男らしくしろと言わなかった。

むしろ積極的に女の子の服を着せて楽しんでいた。


なにせ僕が魔法の力を示し、師匠に弟子入りすることになった時にも、ローブを着せて女の子のように見える僕に『可愛い!』と言い続けていた。


ちなみに僕の師匠のルドニス様は、僕の母方の叔父だ。

もともとは大公家の騎士団長である。

かつては王家からも望まれたほどの魔法騎士であり、魔導士であるが、喧騒を嫌って母を頼って大公領に居を構えた変わり者。

それ以降、大公家のものや、その騎士たちに魔法を教えてきたため、大公家の中には彼を知る者が多くいるが、皆が口をそろえて変人と呼ぶような人だ。


もちろん性根が腐っているとかそういうことではない。

気にも留めずに誰かを殺すとか、非道な実験を実行するとか、そういうことはない。

華美を嫌い、権力を嫌い、ただただ魔法の研究を続けている人だ。


人となりは優しい人。

だからこそ自分の弟子である僕の晴れ舞台にと、素晴らしい意匠を用意してくれたんだろう。

両親のせいで勘違いしたまま。

 

ちょっと恥ずかしいけど、"審美眼"を発動したのならもう少し下を見てくれたらわかったんじゃないだろうか?


「あっ……すみません」

考え事をしていると、不意に誰かとぶつかってしまった。


周囲の警戒はしていたはずだったんだけどな……。


そして漏れ出す神聖な気配……これがまさか僕の一生の不覚になるとは……。

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