第二騎士団詰所
第二騎士団詰所は煉瓦作りの綺麗な建物だった。遠目に見た第三騎士団詰所は第二よりも少し古い建物のようだ。詰所のドアの前にはお洒落な文字で『第二騎士団詰所』と書いてある看板があり、間違えない様に何度も見直し建物に入った。
「すみません。被害届を出したいのですが、こちらで宜しいでしょうか?」
建物内も清潔で綺麗な花が受付に飾ってあった。
領の傭兵団の詰所はもっとごちゃごちゃしていて、花が飾ってあるのなんか見たことない。
着古したマシューのお古のズボンを穿いている私は浮いていたが、受付に進み帽子を脱いで片足を一歩引いて軽い礼の挨拶をすると、受付の女性は丁寧に礼を返してくれた。
「はい。こちらで受付をします。失礼ですが、家名とお名前を伺っても宜しいでしょうか。また、身分証明書があれば提出をお願い致します。…レディー」
「母、スカーレット・スペンサー前伯爵の娘であり、父、ジョージ・スペンサー伯爵代理の第一子、フレイヤ・スペンサーと申します。これは我が家のリングと、父が発行した旅券です」
バッグの底から「絶対無くすな」と念を押されたリングと首にかけていた身分証と旅券を出す。ポシェットに入れていなくて良かった。リングももう身分証と一緒に首にかけておこう。
「有難うございます。スペンサー伯爵家の方ですね。はい、確認致します。こちらの被害届用紙にサインを頂いて宜しいでしょうか?」
出された紙に、母、スカーレット・スペンサー。父、ジョージ・スペンサー伯爵代理の第一子、と記入し、自分の名前を書き身分証を出していると、女性は色々と書類を出し確認をしていた。
「はい、こちらをお返しいたします。すぐに騎士を一人呼びますので、スペンサー様はこちらの部屋でお待ち下さい」
「有難うございます」
奥の部屋に通されると、お茶と菓子が出された。
流石、王都。被害届を出しに来ただけなのに扱いがすごい。領地であれば、受付で話し終わるか、散らかった団長室で話すかのどちらかなのに。
お菓子もお茶も良い物だ。これ、食べてお金を取られたりしないよね?
ま、その時はその時考えようと、目の前の美味しそうなお菓子に手を伸ばした。
私は、下品にならないように気をつけながら、一つ手に取り、ゆっくりと口に入れると、カッと目が開いた。
「こ、これは!」
美味しい。非常に美味しい。
甘さの中に、ふんわりとした優しさがあり、しっとりとしていて、ホロっと口の中で崩れその後からナッツの香りが鼻に抜けていく。
やるな……。
「ほう。このお菓子。これはなかなかのもの。シンシアに食べさせてあげたい…。この口の中で溶けていく感じはシンシアが言っていた口の中に入れたら溶けるお菓子の事かもしれない。このお菓子の事を受付の方に聞いてみよう」
出されたお茶も香りがよく、安いお茶ではないのが分かる。
「少し渋みがあるけれど、色も香りも良い…。お客様に出すには癖がないものを出すのが正解…。ふむ。成程…」
ゆっくりと味わいながらお茶を飲んで食べていると、盗まれた悔しさが改めて沸沸と湧き上がってきた。
おのれ、盗人め。絶対見つけてやる。私の物に手を出した事を後悔させてやろう…。
ぐぬぬと、怒りが沸き上がって来た所で、冷静になるか、と顔を上げると貴婦人が赤の薔薇を受け取っている絵が目に入った。
「赤…ぐっ」
赤いスケスケパンティーと「ぐふふ」と笑うバンシー伯爵を思い出して「オエっ」とせっかくのお菓子を吐き出しそうになってしまった。
「くう。バンシー伯爵め…。何処迄も攻撃が出来るとは…」
気を取り直してお茶を飲み干すと扉がノックされた。
「は、はい!」
あわてて返事をして菓子皿をみると目の前のお菓子は綺麗に無くなってしまっていた。
食べ過ぎてしまった。
空になった皿を見ながら返事を急いでした。
「ど、どうぞ」
「失礼します。私は第二騎士団のジェロームと申します。盗難被害にあわれたと伺いましたが」
ピシっと礼をして入ってきた騎士様は、シンシアが見たら喜びそうな人だった。お姫様を守る騎士様の絵本に出てくる人がそのまま飛び出してきたようだ。濃い金髪に、深い緑色の目にお父様よりは背が低く、黒に金の刺繍が施された騎士服を乱れなく着こなしている。
立ち上がって綺麗な礼をしようとしたが、ドレスを着ていない私は広げる裾がない。
まあ、もう、男子の礼でいいか。マシューの姿を思い出しながら、姿勢を正して男子の礼をした。
「ジェローム様、フレイヤ・スペンサーと申します」
「フレイヤ?スペンサー様?」
ジェローム様は戸惑った顔を一瞬して書類を見直し、私が上げた顔を見ると、ふっと笑って、自分の口元を指さした。
「スペンサー令嬢、口元に菓子が」
「え?ああ、失礼しました。美味しくて。あの、このような恰好で申し訳ありません。領地からの一人旅でして、男性の恰好をするようにと言われていまして」
男性と言いましたが、実は弟のお古ですけど、と思いつつも、私はハンカチを取り出して口元を拭いた。
「賢明な事かと。ご家族様の心配があったのでしょう」
頷いたジェローム様にもう一度礼をして座った。
「盗難被害を窺っても宜しいですか?」
「はい。ポシェットとネックレスが盗まれました。ポシェットには、小物を色々入れていましたが、一番大切な物は財布です。中に五万ルーン入っていました」
ジェローム様は、頷きながらメモを取って行き、犯人の特徴を聞いてきた。私は覚えている限りの服装や、髪型、年齢などを答えていった。
ポシェットとネックレスを盗られた時の事を説明すると、書類に書きつけながら、綺麗な顔の眉間に皺を寄せた。
「スペンサー令嬢。今、王都では似たような事件が多く発生しております。犯人が狙うのは王都に出て来たばかりの子供、もしくは女性。そして親切に声を掛けて注意を引いて持ち物を別の人間が盗って行くのです」
「子供や女性って…。昼間の大通りでしたよ?」
「はい。残念ながら。目撃者が多くても、犯人は窃盗団の様で、一人を捕まえても盗んだ物を持っていないのですよ。逃げる間に誰か仲間に渡しているのでしょう」
「ポシェットもネックレスも戻ってこないという事でしょうか?」
「スペンサー令嬢、すぐに探しますが、ポシェットやネックレスが出てくることは難しいかと。凄く高価な物であれば、売りに出した先で足が付くこともあるのですが。一般的に上質な物、というのは盗品の判断が難しい。ポシェットに刺繍や名前等は入れていますか?特に財布に入っていた五万ルーンはすぐに抜き取られているでしょう」
私は頷いて返事をした。
「刺繍は無いですが、小さな髪留めをポシェットに着けていました。緑色の石がついている物です。戻って来るのが難しいのは分かっています。ただ、ポシェットは領地を出る前に弟と幼い妹がプレゼントとしてくれた物なのです。ネックレスは、亡くなった母からの贈り物なので、それだけでも戻ってくればと思っています。勿論、お金も戻ってくれば嬉しいのですが」
「成程。弟、妹からのプレゼントに、亡き母上様の。騎士団としても盗品の行方は追います。が、残念な事に被害者が多いのが現状なのです」
やはり、王都は無法地帯だったのか、花の都の噂は何処に行ったのだ。
「それから。連絡先の欄が空欄ですが、王都での滞在先を書いて頂きたいのですが」
「私、王都に出て来たばかりでして。我が家は王都にタウンハウスを持っていません。滞在先が決まりましたらすぐにまた来ます」
まあ、五百ルーンで泊まる場所が見つかるかは謎だが。とにかく『ゴールド探偵事務所』に行けばどうにかなるだろう。
「分かりました。王都に着いてそうそう災難でしたね」
その通りです、と思ったが軽く頷くだけにした。
書類に目を通しながら、ジェローム様は書類に何かを書き足しているとジェローム様の横に大柄な騎士様がふわっと現れた。
フレイヤの持ち物:リンゴ一個、ジャガイモパン一個、現金五百ルーン。
一ルーンは十円程。
五万ルーンは五十万円程度。内訳はフレイヤの王都滞在費+帰りの旅費+遺産があれば変更手続き費用+探偵事務所への謝礼金+その他等。
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