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フレイヤ・スペンサーの秘密の加護〜借金返済のために王都に来たのに、探偵事務所に辿り着けません〜  作者: サトウアラレ
第一章

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王都ではスリ注意

「うわあ…。え?盗られた?」



あまりにもあっという間に盗られてしまって、私がポカンとしていると、おばさんがトンっと私の肩を押した。



「ほら、荷物。あんた、ここに置いてたら危ないよ。もうすぐしたら、馬車が通るからね。轢かれないようにしなよ」


「あ…。すみません、マダム…」



私が重たい鞄を持ち直そうとすると、鞄の上に置いていたポシェットがない。



「ポシェットは?ポシェットを見ませんでしたか?水色に白のボタンの。ここに、鞄の上に置いていたんです」



財布もポシェットの中にある。さっきまであったポシェットが消えていた。メモ帳を取り出す時に、鞄の上に置いたはずなのに綺麗に無くなっている。



「盗られたのかい?この辺りはスリが多いからね。しっかり身に着けて気をつけないとそりゃ盗られるさ」


「あきらめな」と言って、おばさんが肩をすくめて通り過ぎていった。


「は?……」



(おねえさま、これ、プレゼント!!)

(シンシアと選んだんです。お姉様)



ポシェットはマシューと、シンシアからのプレゼントだったのに。


賢いマシューがお金のやりくりをシンシアに教え、出入りの商人に品物を持って来て貰い、長く使える質の良い物を、と二人で一生懸命選んでくれたと、執事のセバスが涙ながらに教えてくれた。


「一生懸命にお二人でお金を貯められていて…。シンシアお嬢様が、お菓子やリボンを買うのを我慢され、マシュー坊ちゃまが生地などを選んでおりました。ご立派でございました…。セバスは、セバスは嬉しゅうございます!」


涙が出そうになったのに、私よりも先に、だーーーっと涙を流すセバスを見ると、私の涙は引っこんでしまった。


感動したのに、目の前で泣かれると何故涙は引っこんでしまうんだろう?


涙で溺れそうになっていたセバスに、王都に着いた途端にポシェットを盗られたなんて知られたら、烈火のごとく怒り狂うに決まっている。


「フレイヤお嬢様。フレイヤお嬢様は危機管理が薄うございます。一人で出かけられるのですから、用心に網を張って行動しなければならないのです。スペンサー家の代表として向かわれたのですぞ!マシュー坊ちゃまとシンシアお嬢様がどんな思いでプレゼントをご用意したと!!!っくう!!盗人を捕まえなくては!スペンサー家の名誉の為にも!セバスは、セバスは悔しゅうございます!!」


がみがみと叱りながら泣く姿が想像出来て、私は頭を抱えてしまった。



「やばい。これはやばい。やってしまった」



(フレイヤ。これは貴女を守ってくれる。大切にしなさい)



ネックレスはお母様からのプレゼントだった。



「お母様の物を売り払うなんてしたから罰が当たったのかな。あ!財布もポシェットの中!あ、そうだ。予備のお金をここに入れておいたはず…」


私は大きなバックに予備で入れていたお金を確認した。バックの中に五百ルーンがあり、全財産は五百ルーンのみとなってしまった。


「五百…。あとは、さっき貰ったリンゴだけ…。コレ、やばいな」


私は、大事にしていたネックレスも、弟と妹からのプレゼントのポシェットも、父様がくれた王都での滞在費のお金も一瞬で無くしてしまった。


そしてそれは家に帰るお金も無くなってしまったということだった。



「王都は治安が悪いと聞いてたけど、ここまでとは思わなかった。昼間なのにそこら中に泥棒がいるってどういう事?無法地帯?ちょっと目を離すと物が無くなるなんておかしいでしょ。小説に出て来た、修羅の国と一緒じゃない。ああ、ポシェットにネックレス、何処かに落ちていないかな」



泥棒は中身を取ってバッグを捨てると聞いた事がある。財布を諦めても、マシューとシンシアがお小遣いを溜めて買ってくれたポシェットとお母様のネックレスを取り戻したい。



「セバス、シンシア、マシュー、ごめんなさい。でも、まさか王都が無法地帯なんて。花の都とか、出会いの街とか、そんな風に聞いてたのに。まさか、スリや泥棒が昼間に平気で横行している修羅の街なんて思いもしなかった」


盗られた怒りがだんだん湧いて来て唇を尖らせてしまう。


「それにしても、手間賃って。道を聞くのに、ネックレス程の対価が必要?……そんなわけあるか!!!!せめてリンゴでしょうが!!!」



ぷりぷり怒りながら歩いていると、情けなさと悔しさが込み上げてきた。


お父様の代わりに王都に出るなんて私でも出来ると思っていた。マシューにも背は抜かれ、お父様の様に『剣の加護』もお母様の様に『計算の加護』も無く、私の加護は領地の運営に役は立たない。せめてお使いならば出来ると思っていた。


それなのに、王都の道一つ分からない。ブロンさん達と別れてすぐにお金もネックレスも盗られてしまった。


優しく送り出してくれた皆の顔が浮かぶ。


お母様の遺産が何かは分からない。だけれど、借金返済の目途が付いたら王都の流行の服やお菓子を買ってあげたいと思ってたのに。


そしてお父様には反対されるだろうが、私はこのまま王都に残ってどこかの貴族屋敷で働こうと思っていた。無理ならば平民に交じって働くのもいいと。蛙伯爵の求婚を蹴ってまともな縁談はこないだろう。それなら、王都には貴族のタウンハウスが沢山ある。そこで働かせて貰えないかと思ったのだ。


二人に貰ったプレゼントをすぐに盗られてしまうなんて。


「落ち込んでばかりいられない。まだ、やれる事はあるはず。盗った奴には倍返しで仕返しをしてやろう」


パンっと頬を叩いて立ち上がった。



「ポシェットに財布を入れていたから、帰りの馬車賃も無い。手紙をお父様に出したら終わり。宿代もない。どうする?どうする?あ。傭兵事務所!そうよ!お金も戻ってくるかも!」



私は顔を上げて、傭兵事務所はどこだ?と首を回して探すが見つからない。領地の街中であればすぐに分かるのに、王都は高い建物が多いせいで、行きたい場所が分かりにくい。


「あの、すみません。傭兵事務所ってこの辺にありますか?」



目の前の店から大きな鍋にジャガイモを沢山持って出て来た人に聞いてみると、「なんだって?」と、言われた。


「傭兵事務所です。ポシェットを盗まれてしまって。あと、ネックレスも、ネックレスは、道を聞いた手間賃と言われて取って行かれたのです。被害届を出せる所を知りませんか?」


「ああ。お嬢さんでいいんだよな?災難だったね。王都に来たばかり?王都は傭兵団じゃなくて騎士団の管轄だよ。貴族なら第二騎士団詰所。平民なら第三騎士団詰所に行くんだ。間違えて行くと遠回りになるから大変だよ」


「えっと…。では第二騎士団の詰所の場所を教えて貰っていいですか?」


「おや、お嬢さんはお貴族様かい。猶更気をつけな。こんなところを一人で歩いていると攫われちまうよ。まあ、その恰好は正解だな。とにかく大通りを歩くことだ。第二騎士団の詰所は大通り沿いを歩いてすぐ右だよ。第三は反対の左側。間違わないように気をつけて」


「御親切にどうも」


「いいって。コレやるよ。うちの店のジャガイモパン。美味かったら今度買ってくれ」


ジャガイモを持っていたおじさんは店を指さしながら私に小さなパンをくれた。


「有難うございます」


人攫いまで、王都では横行しているのか。なんと物騒な所だろうと、思ったが、それでも、優しい人もいる。悪い人ばかりではない事は分かったがもう、花の都では無い事は決定だ。マシューに出す手紙にも、王都に出てくる時は気をつける様に教えよう。


私は教えてくれたおじさんにお礼を言って、大通りを真っすぐ進み、「右。右。右」と言いながら、第二騎士団詰所へと入った。



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