ダリアさん到着
暫くして、スベンさんのテントにやって来たのはダリアさんだった。
「フレイヤさーん。伝言ってなんですかー?所長も、もうすぐ来ますけどー、美男美女コンクールもうすぐ始まってしまいまーす」
「ダリアさん、美男美女コンクール中にすみません。私からの依頼なんです」
「美男美女コンクールは最後の握手会に行ければ良いので、大丈夫ですよー。フレイヤさんからー?お母さまの相続の件で、何かまたお困り事がー?」
「母の件ではなく。祭りの間に出ている、あちらのブラックテントの様子をダリアさんに探って欲しいんです」
「ブラック?こっちとは違う、ココから見えるあのテントのことですねー?私はあっちに入った事は無いですが、まあ、いい噂は聞かないテントですー。ちょっと、怪しい感じな物や高価な物も扱って気にはなっていますがー?フレイヤさんのお知り合いですか?」
ダリアさんは首を傾げてちょっと背伸びをすると、窓の外から見えるブラックのテントを指さした。
「いえ、知り合いではないのですがね。私が母から相続した物はダリアさんもご存じですよね?」
「卵でしたねー?フレイヤさん、可愛い卵を相続出来て羨ましいです」
オゥルソさんは「うむうむ、可愛い卵だ」とダリアさんの言葉に頷いていた。
「私の卵はオゥルソさんに売りましたよ。で、ですね、ブラックさんのテントでは色々なオークションもあるようで。そのことはご存じですか?」
「ほほー。オゥルソ様がご購入をー。それはいいですねー。こっちのテントは子供も入って子供向けのおもちゃとか、出し物もよいですよねー。でもですね、あっちは大人しか入場出来ませんから、私はこの見た目ですので、無理でしてー。入った事はありませんねー。薄着のお姉さん達が席まで案内するそうですよー。入場料も高くなったらしいですしねー」
「おお、薄着のお姉さんが…蛙の呪いがここにも…」
「蛙の呪い?あー、薄着のお姉さんの情報が欲しいのですか?探し人でもー?上裸のお兄さんもいるらしいですがー?フレイヤさんはそちらがお好みでー?私はどちらかと言いますと、異国の衣装や、警備隊の服を着ている方が好きでしてー」
「薄着に上裸…お兄さん…。げふっ。い、いえ、私はそのような好みはありません!ごほん、違法魔獣取引疑いの証拠が欲しいです。成獣の魔獣を許可無しで取引しているはずですので、調査には気を付けて欲しいですが」
「ほほー。人探しではないのですねー。了解ですがなんだか物騒な感じですねー。フレイヤさんは、大丈夫ですかー?なんだかフレイヤさんはいつも大変ですねー?証拠集めは今日一日で良いのですかー?成果は厳しいかもしれませんがー?」
「とりあえずは今日と明日と…。ダリアさん、何かこんな魔獣の卵があればまた拾って下さい。あと、法に触れそうな証拠があれば、なんでもバンバン持って来て下さい。王宮事務局と騎士団に提出します」
私は死んだ魔獣の卵を見せた。するとダリアさんは眉間に皺を寄せて、ダリアさんの小さな身体が大きく見えるくらいにぶわっと髪の毛を逆立てた。
「卵を割った…」
ちんまい、という表現が似合うような可愛らしい容姿のダリアさんが、髪の毛を逆立てて炎のように怒っていた。
私がダリアさんの様子に驚いているとオゥルソさんが小さく「ドワーフの特徴だ。精神が高ぶると髪の毛や筋肉が盛り上がるんだ。俺も数える程しか見た事ないな」と、ぼそっと教えてくれた。
私は卵を優しく抱くと、優しく優しく撫でた。確かに、よく見ると卵は外側から力が加えられたようだ。
「よしよし」
私がそう言うと、また、ハラリという感じで黒いモヤが薄くなった。
きっと、抱かれたかったんだ。
魔獣にだって、心はある。きっとこの卵もお母さん、お父さんに会いたかった。
お母様から『可哀そうなんて思っちゃダメよ。女神の元へ行きます様に。それだけでいい。優しさに付け込む、そんな悪いモノは沢山いるの』そう言われた。
だけど。
私は優しく優しく卵を抱いた。小さなダリアさんは炎のように怒り、拳を握りしめていた。
分かる。同情は良くない。悪いモノが付け込んでくる。それに私は全てを救える程強くもない。正しい事、やりたい事、そのためには力が必要だ。私にはその力は今はない。
情けないな。
私がそう思っていると「ふーーー」っとダリアさんはゆっくり息を吐き、私達の方を向き直った。その時にはダリアさんの膨れていた髪の毛は大分落ち着いていた。
「フレイヤさーん。悪い奴らの証拠を集めればいいのですねー」
「ダリアさん。お願いします」
「細かい話は、どなたとー?」
私は卵を置き、ダリアさんが頷くと、オゥルソさんがスベンさんを親指で指さした。
「こっちはスベン・テント。このテントの主だ。コイツがあっちのブラックのテントの情報は詳しい」
スベンさんとダリアさんが挨拶をお互い返すと、オゥルソさんは話を続けた。
「おい、スベン。説明を」
「へい、えっとですね…あの、テントの持ち主ですがね…」
スベンさんがダリアさんに細かい内容、テントの場所、中の作り等、分かる限りの情報をダリアさんに説明した。「ふむふむ」と言いながらも、ダリアさんは手早くメモすると、私の方を向き直って、髪を一つに手早く結んだ。
「じゃー、フレイヤさーん、行って来ますねー」
「気を付けて」
「何かあればここに連絡をくれ」
「了解でーす。じゃ!」
そういうと、ダリアさんは優しくもう一度卵を見ると、窓からふわっと飛び降りて、スタンっと綺麗に着地をすると、凄い速さでブラックさんのテントの方へと走って消えた。
「流石だな。ドワーフは強靭な肉体と聞いたが、身のこなしも軽いな」
「いやあ、筋肉質な者が多いって話ですがねえ。あのお嬢さんは見た目は小人族に近い感じでしたねえ」
オゥルソさん達がダリアさんの消えた方を眺めていると、ダリアさんの報告通り、すぐに所長がやってきた。
「ここまですまないな」
「いえいえ。で、フレイヤ、詳しく話をいいか?ああ、どうもゴールド探偵事務所のミカエル・カーディガンです」
所長にダリアさんにした説明をし、卵を見せると、所長は口元に手を置いて何か考えた後、ニヤッと笑うと、「料金は繋ぎをいただけるのならそれで結構ですよ。今回はフレイヤの社員割って事で。では、王宮事務局に話を通しておきましょう」と嬉しそうに出かけて行った。
「フレイ、お前の所の所長は、まあ、悪い奴ではないな」
「ええ、お金にはがめつそうですが、悪い人ではないです。侯爵家の方ともやり合えました」
「ああ、面白い奴だ」
説明を受けるとすぐに消えた所長の感想をオゥルソさんが言っていると、ドアがノックされ、「祭りの警備に来ていた」とすぐにジェローム様もやってきた。




