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フレイヤ・スペンサーの秘密の加護〜借金返済のために王都に来たのに、探偵事務所に辿り着けません〜  作者: サトウアラレ
四章

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黒い卵の想い

「死んでるのか?」


「ひび割れて、中身もねぇです」


「死んだ卵をオークションに出しているのか?趣味が悪いとは思うが。コレは違法じゃないだろう?」


オゥルソさんは卵を見ながらスベンさんを見て卵を持ち上げた。


「オゥルソのアニキ、確かに。この卵を売るのは問題はねぇ。でも、捨てていたんですよ」と、スベンさんが話を続けた。


「そうか。そこらに捨てるのはよくはないが…」


「オゥルソのアニキ、一番問題なのは、卵の親のことでぇ。成獣の魔獣が近くにいるって証拠だそうでしてぇ」


「なに?魔物の成獣?」


「俺が拾った時、まだ、灰色がかってぇ死んで数日も経ってないって感じで。親は死んだ卵が傍にあると新しい卵産まないらしいんでぇ」


「と言う事は、ブラックがわざと死んだ卵を親から離してそこらに捨てたってことか?テントの中に成獣の魔獣が?成獣の魔獣取引は違法だぞ!?」


「さいです。なんだか嫌な雰囲気がブラックのテントの方からしやすでしょ?」


スベンさんがオゥルソさんに手を差し出した。スベンさんは卵を受け取ると、テーブルの上に優しくおいて、窓の方をチラリと見た。祭りを楽しむ子供の声が、静かになった部屋の中を通り抜けていった。


「成程な。だから、お前は今年はこんなに隅にテントを張ったのか。ブラックのテントの正反対。しかも逃げやすい場所だ」


「ええ。隅に移りたいって言っても問題ありやせんでしたよ。こういう商売していると、勘は大事でしてね。仲間が一番で。他がどうでもいいとは言いやせんがね、俺は自分のテントを守れればいいんでぇ」


「ああ、そうだな。俺も自分の店を一番に考える。他は二の次だ」


オゥルソさんがそう言うとスベンさんも頷いた。二人は考え込んで、怪しい雰囲気の方の空を見ていた。


「よし、俺の所の若いのをここに貸す。スベン、お前はいつでも逃げれる準備だけして、もし荷物を預けたい時は新月か市場に頼め」


「アニキ、いいんですかい?」


「ああ。何も起こらなけばそれはそれで、若い奴の休憩にもなる。俺も夜には見回りには来る」


「有難うございます」


私は真っ黒の卵に目を向けた。少し手を向けると、そこから魔力の残滓が見える。黒く、どろっとした、嫌な残滓。胸の奥が、キュッと締め付けられた。魔獣の卵の想いが私の中に流れこんでくる。


魔獣の卵の想い。そしてきっと魔獣の親の悲しみ。人間への怒り、憎しみ、苦しさ。生への渇望。一匹だけではない色んな魔獣の想いが卵の殻に集まって残っていた。


これは、本当に危険な卵だ。


私もオゥルソさん達が見た方向に目を向けた。窓から見た空の色は澄み渡っていたが、暗い淀んだ空気が一カ所に集まっているのが見えた。楽しい空気、甘い菓子の匂いがここまでくるのに、あの一角だけ、空気の淀みと腐敗の気配が支配して、風がそこだけ止まっているように見える。


…ブラックさんのテントにはこんな想いを残して死んだ魔獣が沢山いるのかもしれない。そして、その恨んでいる魔獣が王都にいるとなると何が起こるか分からない。


…危険だ。


この魔獣の卵は、女神様の元へ行けなかったのだろう…悲しい魔力残滓だけ残して何処に行ってしまったのだろうか。


私に出来る事なんて少ない。


だけど。それでも。


…私が考えこんでいると、オゥルソさんとスベンさんは話を続けていた。


「フレイにブラックの所で魔獣の卵を売らさなくてよかった。何か証拠があれば、ブラックのテントを追い出せるんだがな。祭りの治安が悪くなるのは避けたいところだ」


「ん?」


「証拠があれば、騎士団なり、自警団なり突き出す事が出来やすからねぇ」


「ほほう?」


「成獣の魔獣の売買取引は凄く厳しい。ブラックが正規の手続きを踏んでいるはずはない」


「ふむふむ、魔獣の正規手続き。成程、王宮事務局なら分かりますか?」


私が話しに割り込むとオゥルソさんは顎に手をやって考えた。


「俺は何処の部署が何をしてるのかなんて分からないからな。でも、おそらく、王宮事務局って偉い所だろ?そこなら何でも分かるんじゃないか?」


「ふむ、それと騎士団ですね?」


「ああ、証拠や物騒な事はそこが管轄だな」


「そして、そもそもの証拠が欲しいと」


「まあ、証拠がないとブラックも知らぬ存ぜぬだろうからなあ。ブラックのバックには貴族も絡んでいるのは間違いないだろう。だから、まあ、上位貴族の後ろ盾があれば、尚よいのだが…。あ!フレイに頼んでいるんじゃないぞ!」


「ふっ、オゥルソさん、うちの貧乏伯爵家なんて無理ですよ」


「いや、フレイの家の事をそんな風には思ってないぞ!」


「大丈夫、オゥルソさん、私に任せて下さい。良いアイデアが浮かびましたよ!まずは証拠集めですね!」


「ん?ああ、でもなあ。危険な事を調べるモノ好きは中々な。しかし時間がない、そんな暇な人間はいないだろう」


「ふむ…でも、調べて問題があれば騎士団からも褒められますし、高位貴族からは感謝されるかもですよね?王宮事務局からも覚えられる」


私は二人にニヤリと笑うと両手を組んでどこかの所長の顔を思い出しながら頷いた。


「丁度いい人がいます。今、すごく暇で、高位貴族との関わりを持ったばかりで、まだ恩を売りたい人。しかも、お金が大好きで危険な事なんてあまり考えなくて、騎士団や歓楽街とも繋がりを持ちたい人ですよ」


「何?そんな丁度いい人間がいるのか?」


「スペンサー令嬢様、そんな腹黒い人間が都合よくいるもんで?」


「ええ。ふっふっふ」


「フレイ、誰だ、そんな腹黒いのかバカなのか、よく分からん奴は」


「オゥルソさん、無理と無茶をさせるのはうちの所長です!」


「ああ、成程!そうか!しかし、あの所長はそんな風な奴なのか?」


「ええ。悪い人ではないですが、腹黒い人ですよ。多少の無茶も無理もすると思います。それに所長、今、仕事がないって、暇そうにしてましたから。ダリアさんも美女、美男コンクールを見に来るって言ってましたし。きっと、色々情報や証拠は集められるはずです」


「成程な。じゃあ、頼むか」


「ええ。報酬は私が払います。スベンさんは、知り合いの貴族の紹介をするとかなんとか、言って下さい。オゥルソさん、オゥルソさんは歓楽街の方の仕事があれば所長に頼むと。それだけで所長は今動いてくれますから」


「分かった。繋ぎがほしいんだな。フレイの知り合いなら俺も使わせて貰おう」


「いいんですかい?俺の勘ってだけですが」


「ええ。魔獣の卵をこんな風にするなんて。すぐに連絡を取りましょう」


私は急いでスベンさんのテントの下働きの人に、探偵事務所へ手紙を届けて貰い、所長を呼び寄せる事にして、お説教は嫌だけど、第二騎士団にも「ちょっと私の加護の事で嫌な感じがするので、ジェローム班長、祭りのテントまで早急に来て下さい」と手紙を書いて呼び出す事にした。


とにかく急いだ方がいい。


私はもう一度、ブラックさんのテントの方を見つめた。


嫌な予感が胸をざわめかせる。私は自分の卵を優しく撫でると、黒い卵を優しく抱えた。


冷えて割れてしまった黒い卵。私の卵のように温かくも綺麗な色も、もうしていない。黒い卵を抱え、祈りを捧げると少しだけ、本当に少しだけ、卵の色が薄くなった。私は卵の傷が癒えるようにと、オゥルソさんとスベンさんが話を終えるまで黒い卵の冥福を祈り続けた。







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