オークションの闇
オゥルソさんに連れられて大きなテントに行くと、受付の人が「オゥルソのアニキ!」と大きな声でオゥルソさんの事を呼んで挨拶をして、奥にも「オゥルソのアニキが来られました!」と声をあげた。すると、すぐに一人の人がテントの中から駆けよってきた。
「オゥルソのアニキ!久しぶりでぇ!!元気そうでぇ!!!」
「ああ、お前もな。元気そうだな、スベン」
「ええ、おかげ様で。王都は相変わらず賑やかでぇ。でぇ、こちらは?」
「俺の恩人のスペンサー伯爵家の方だ」
「うへえ!伯爵家の!!こりゃ失礼致しました。流石、アニキ。伯爵家の方とお知り合いとは!貴族のお嬢様をお連れだから昼に来たんですねぇ!」
「スベン、もし王都で会った時は失礼の無いようにな」
「そりゃ、勿論。アニキの恩人の方ならば!」
お、私の事を貴族と紹介するのね?とオゥルソさんを見ると、オゥルソさんは頷いた。
「スベンは国中を周っているからな。顔が広い。まあ、貴族との付き合いは男爵、子爵家が多いだろうがな。フレイ、いや、フレイヤ令嬢、スベンと付き合って損はないはずだ」
成程。私は頷くと、今日も今日とて気軽な服装だったが、綺麗に足を引いて貴族令嬢の礼をした。
「スペンサー伯爵家第一子。只今、当主代理として王都に滞在しております、フレイヤ・スペンサーと申します。このような恰好で申し訳ありません。オゥルソさんには大変お世話になっております。テントさん、こちらこそ宜しくお願い致します」
「へへへ、流石アニキ!伯爵家代理の方とお知り合いなんて!こんな丁寧な礼を受けるなんて嬉しいですねえ。私はこのテントの主、スベン・テントと申します。へへへ。テントって名前は、このテントから取った通り名なんですがね。どうぞスベンとお呼び下さい」
「分かったわ、スベンさん」
「貴族の方のお忍びの恰好ってやつですね!よくお似合いでぇ!いや、あの、これは褒め言葉でしてぇ!」
「スベン、フレイヤ令嬢はお前が付き合ってる、男爵家とは違うぞ。伯爵家の方だ。礼儀をしっかりな」
「へえ!アニキ!」
私を抱っこしようとしたり、すぐにお菓子を与えようとするオゥルソさんがスベンさんに注意をしている。
「ふふ、オゥルソさんがそれを言うんですか?オゥルソさんは今迄どおり、フレイって呼んでいいですよ?」
思わず、オゥルソさんを軽く睨むと、オゥルソさんは顎をポリポリかいて「それは助かる、ちょっと寂しいと思ってたんだ」と、似合わないウィンクを私にした。
「流石、アニキ。伯爵令嬢からそう言われるなんてぇ。ええっと、スペンサー伯爵家ってぇっと…。ははあ。ああ!成程、深紅の薔薇と有名な。成程、確かに。綺麗な薔薇色の御髪でぇ」
「深紅の薔薇は亡くなった母の呼び名です。残念ながら私ではありません。でも、私のこの髪も母譲りなので、大好きな髪色です」
「ああ、そうなのでぇ?いや、お嬢様も綺麗な花のようでぇ…まあ薔薇ってぇいうよりはこう、凛とした品のある小さな花のようですが。まあ、何というかこう、薔薇よりは可愛い感じっちゃぁそうでぇ…いや、あの、コレは失礼を」
「フレイは凄く可愛いと思うぞ」
厳ついおじさん二人がうんうんと頷きながら花を想像して私を褒めてくれるから、思わず笑ってしまった。
「ふは!ありがとう!二人に可愛いって言われて凄く光栄だわ!」
私が笑って二人に優雅に礼をすると、スベンさんは目を丸くして固まった。
「こりゃ…。本当に花が咲いてぇ。ああ、アマリリス。いや、スペンサー伯爵代理様、大変失礼致しました」
オゥルソさんは、うんうんと頷いてから、「まあ、花の事はいい。お前の所の商品、珍しい物を仕入れているだろう?フレイに色々見せて貰いたいんだ。あとな、それとは別に聞きたい事もあってな」と話を続けた。オゥルソさんがそう言うと、スベンさんは「ああ」と言って頷き、すぐにテントの横の小屋を指さした。
「祭りの間、借りてる小屋です。こっちの方が、今は人がいませんので。立ち話しもなんです。粗末な小屋で申し分けねえですが、どうぞ、こちらへ」
そう言われ私達は小屋に入り、ギシギシいう階段を上り狭いながらも清潔な部屋に通された。少し揺れる椅子に座ると、綺麗な色のお茶が出てきた。
「宜しければどうぞ」
「ありがとう」
飲んでみると凄く甘く、でもスパイシーな不思議な飲み物だったけれどとても美味しかった。
「スペンサー伯爵令嬢様は何をお探しでぇ?」
私がお茶を飲むと、ほっとした顔をしたスベンさんがすぐに訊ねた。
「そうですね、領地の家族と執事にお土産を買いたいのですが。ただ、高い物ではなく、実用的な物か、珍しい物、可愛い物がいいですね」
「成程、スペンサー伯爵領とは反対側の方の領地の特産品が。距離があってぇ、王都にも中々出回らない。ただ、平民が冬の間に作る手すさびの遊び品ですのでぇ。貴族様のお土産には派手ではないですが。木材加工の美しい物でしてぇ」
「いいですね。ではそれを見せて貰っても?」
「はい。色や宝石が付けば貴族様も喜ばれるんでしょうがねぇ。素晴らしい技術だと私は思うんですが」
そう言って見せて貰った細工箱や櫛、ベン入れは素朴ながら綺麗な細工な品だった。
私はすぐに気に入った物を買う事にした。
「良い買い物が出来ました」
「こちらこそ、有難うございました」
スベンさんが私に礼をするとオゥルソさんがスベンさんに話しかけた。
「あとな、聞きたいんだが、魔獣や動物をオークションで出しているテント、今年も来ているんだろう?あそこの事をちょっと聞こうと思ってな。ここ、二、三年、あっちのテントに顔を出して無くてな。オークションをフレイに見せてやろうと思ったんだが」
「アニキ…。アニキが知ってるブラックのテントはもうありやせんよ」
「なに?」
「アニキがよく知ってるのは五年位前まででぇ?五年、四年くらい前ですかねぇ、先代が急死しましてぇね。息子に代替わりしてからは、もう駄目でぇ。先代はまあ、危なそうな物を扱ってはいましたが、違法はしてねぇでぇ、ギリギリの所で、客もそれを楽しんでいやした。だが、今のブラックのテントはキナ臭いどころじゃありませんでぇ」
「そうなのか?」
「ええ。最近は特に。アイツのテントには寄り付かねえほうがいい、客層も悪くなってぇ、こう、真っ当なお嬢様を連れて行くのはお勧めしやせん」
「そうか。聞いて良かった。が、そこまで分かってるって事は、もう終わりだな」
「ええ。俺も、アニキに今日の夜でもそのことを話しに行こうと思っていやした。何か騒動が起こりそうな勘が働きましてぇ。俺の所もあっちには寄り付かねえように注意してますよ」
「そうか…。魔獣のオークション、それは今もやってるんだろう?」
「アニキ、まさにその魔獣のオークションが酷い有様なんですよ。コイツを見て下さい」
そう言うと、ちらりと私を見て、「俺の所の下働きが、ブラックのテントの裏で拾ったものなんですがね」と言って、テーブルの上にコトっと置いたのは、真っ黒なひび割れた卵だった。




