オゥルソさんとオークションへ
「では行って来ます」
「ああ。気をつけてな。まあ、新月のオゥルソがいるのなら、何も心配はないだろうけどな」
「フレイヤさーん。お祭り楽しんでくださいねー。広場で美男、美女コンテストがあるそうですよー。私もそこには間に合うように行きまーす!!」
所長に、祭りの日に休みが欲しい事を言うと、すんなりくれた。まあ、大きな仕事がないので、所長も仕事探しに外にでて、ダリアさんも午前中経理をして午後からは休むらしい。
「俺らの仕事は忙しい時は忙しいが暇な時は暇だからな。忙しい時は夜中も仕事だ。フレイヤもまだ王都にいるなら、その間は手伝って貰ったらありがたい。部屋は自由に使っていいからな。他の部屋も色々掃除も必要だろうが、好きにしてくれ」
「おお!所長意外と親切!」
「リンドール侯爵からな、フレイヤの事を褒めて貰ったからなあ。『彼女は私の恩人だ。くれぐれも宜しく』とわざわざ言われてな、迷惑料も特別に頂いたしな…くくく。それなのに、フレイヤがすぐ辞めたとなると俺も都合が悪いだろ?」
所長ははニヤっと悪い顔で笑って話を続けた。
「フレイヤのおかげで貴族絡みの仕事が増えそうでな。フレイヤが王都にいる間、フレイヤ、お前、結構有名人なんだな。婆さんが現役の時は貴族の夫人達と繋がりもあったようだが、どうも男の俺ではな。だが、俺がその有名人のフレイヤの世話をしてやった、と分かると、きっと、貴族の間でもこの探偵事務所と俺の評判は上がり、くくく、チャリンチャリンと金貨が音を立ててやってくるはずだ!」
「わ。下心しかなかった。滅茶苦茶、打算的だった。所長の事、少しでも親切と思った自分が悔しい」
所長はニヤリと笑って、トントンと帳簿を嬉しそうに叩いている。が、まあ、下心を説明された方が安心かもしれない。
「打算的も利己的も当たり前だろ?その上でフレイヤにも利があり、俺も利がある。そしてさらに、リンドール侯爵や、ダガン伯爵からもこの事務所も俺への覚えも目出度い。フレイヤがここにいるだけで良い事尽くしだ。しかも、新月のオゥルソとのつながりも持てそうだ。あの辺も仕事でよく行くからな。良い事だらけだ」
「パン屋さんのツケも継続でお願いしますね」
「ああ。まあ、いいぞ。じゃあ、気をつけてな。何か仕事の話があったら教えてくれ」
「そう、ほいほい仕事なんてないですよ」
そう話していると、ベルが鳴った。
「フレイ、いるか?」
ぬっと入ってきたのはオゥルソさんで、所長は瞬間にうさん臭い笑みを浮かべて挨拶をした。
「新月の盾のオゥルソさん、初めまして、ゴールド探偵事務所、所長のミカエル・カーディガンです」
「ああ。フレイが世話になっているな。新月のオゥルソだ」
「ダリアでーす」
ひょこっとダリアさんも挨拶をすると、オゥルソさんは一瞬目を丸くしたが、すぐにドワーフ族と気づいて、頷いた。
「オゥルソだ。宜しくな」
「はーい」
「オゥルソさん、今日は宜しくお願いします」
「ああ。じゃあ行くか。人ごみでは俺の事はまたオゥルおじさんと呼んでくれ。その方が都合がいい」
「はい!」
簡単に挨拶をすませると事務所を出た。大通りへ出るとすぐにもう祭りの雰囲気で空気が変わっていた。道や店の軒下に飾りが飾られ、祭りが始まる市場に近づくと香ばしい香りが漂い始めていた。
「フレイ、何か食べるか?焼き串が美味いぞ。あとは揚げ菓子とか。焼きリンゴとか…。ああ、肉を包んだパンもいいな、沢山食べろよ」
「じゅるっ。オゥルおじさん。よだれが出ます」
「フレイ、全部食べていいぞ。沢山大きくなれよ」
「大きくはもう横にしかなれません。ああ、そうだ。何処か座れる所ありますか?話があります」
「話?ちょっと待て、知り合いの店に行くか」
そう言うと、オゥルソさんは揚げ菓子とや肉を包んだパンを大量に買い、酒屋に入って行った。
「おい。ドルトン」
「オゥルソのアニキ。どうも!祭りの見回りですか?」
「いや、ちょっと二階、貸してくれるか?この子はフレイ。俺の恩人だ。大切に扱ってくれ。ロゼとも知り合いだ。でな、今からフレイと話をする」
「へい。フレイさん?どうぞ、ドルトンです。以後良しなに。どうぞ。上を好きに使って下さい。誰も上には行かせませんので。飲み物はすみません。そこから適当に持って行って下さい」
「ああ。助かる。コレはお前達で食ってくれ」
「どうも」
大量に買ったパンの殆どをドンっとカウンターに置くと、オゥルソさんは棚から二本瓶を取って階段へと向かった。
一番奥の部屋に入ると、オゥルソさんは窓を開けて、私を置くの席に座らせた。
「フレイ、話ってなんだ?ほら、これを食え。飲み物は冷えてないが果実水でいいか?」
「有難うございます。オゥルソさん。これを見て下さい」
私はそう言って卵をテーブルの上に出した。
「綺麗な色だ。…が?これは魔獣の卵か?」
「夢見狐という他国の魔獣らしいのですが、母の遺産として私が受け継ぎました。私が既に持ち主として認められています。でも、領地の借金を返したいのでこの卵をオークションに出したいのです」
「そうか…。借金の為か…。オークションに出品するには手続きがいるが…。フレイは貴族だから多分無理も通る。それにこれは他国の魔獣なんだろう?貴族の間では珍しくなくても平民には珍しいはずだ」
「あ。そもそも、魔獣ってオークションに出していいんですか?」
「ああ。出ているのを見た事はある。そうだな…。オークションは二カ所あるが…。俺の知り合いの方では魔獣は扱ってないな…。あっちはガラが悪いからな…どうするか…」
オゥルソさんは「魔獣かあ、だが、可愛い卵だなあ。フレイはいくらで売りたいんだ?」と言って、優しく卵を見つめた。
「…三万は欲しいです。この卵を相続する時にそれだけ使ったので」
「三万か。そうか。うーん。そうか。うーん。そうか」
オゥルソさんは何か凄く悩んでは同じ言葉を繰り返した。
私は前に出されたお菓子を果実水を口に入れ、もぐもぐゴクゴクしながらオゥルソさんを見ていた。
「もし…。いや、またロズに怒られるかあ。いや、でもなあ。フレイ、コレは安全な魔獣なんだろ?」
「貴族の間で人気の魔獣らしいですよ?ちょっと知り合いの口うるさい人から教えてもらったのですが、魔力も弱く、成獣になっても小型の小さな魔獣らしいです。食べ物は割となんでもいいそうで、育てやすいそうです。夢の中に入ってくることがあるそうですが、大きな害は無いようですよ。ただ…。この子は珍しい色にはなるそうですが、一般的に他国では四千位で売られているそうです。我が国でも高くても一万位じゃないかと思います」
「そうか、じゃあ、よし。俺が三万で買うのはどうだ?」
「え?いいんですか?他だともっと安く買えますよ?」
「ああ。フレイには世話になったからな。何か礼をしたいと思ってたんだ。ロズも気にしてたから、これを高値でフレイヤから買い取ったって言えば、文句もちょっと言われるだけで飼えるはずだしな…。それに俺ら平民は知り合いの貴族から魔獣を飼うしか出来ないはずだ。俺にはそんな知り合いいないしな。それに生き物の売買は危険な事もある。フレイの生き物なら俺が飼いたい」
「オゥルソさん…」
「それに…可愛い色だしな、ロズが好きな色だ」
「ああ、ロズさん、淡い色の服を着ていましたものね。この子に似ていますね。この子達は卵の色で生まれるみたいですよ。だからきっとこの子は紫かピンク、もしくは両方の色を持つ狐ですね」
「分かった。決まりだ。手続きはどうすればいい?」
「えっと、ダガン伯爵が手伝ってくれるはずです!後で手続きの用紙を渡しますね」
「よし。でも、せっかくだ。オークションにも行くか?」
そう言ってオゥルソさんはごそごそとポケットを漁ると三万をぽいっと渡してくれた。
「ちょっと待ってオゥルソさん!三万がポケットに入ってるの?」
「ああ。いざと言う時の為にな。じゃ、手続きは頼んだぞ?」
「はい!!あ。コレ、三万貰ったから、えっと貰いましたよって書くので、ちょっと待って下さい!」
私は卵をオゥルソさんに渡して、『オゥルソさんから魔獣の卵代、お金受け取りました』と書き、オゥルソさんに渡すとオークション会場に行ってみる事にした。




