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フレイヤ・スペンサーの秘密の加護〜借金返済のために王都に来たのに、探偵事務所に辿り着けません〜  作者: サトウアラレ
第一章

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初めての王都

「ふわー。大きい…」


領地を出て三日目の朝、私は首をぐいーんと上に向けて王都の大門を眺めていると、ブロンさんから「ははは」と笑われた。


「お嬢、これを潜ると王都ですよ。伝説じゃあ、フロイト山からの岩を男が一人で運んで積み上げたと。ほら、門の横に大きな岩が立っているでしょう?あれがそう言われています。その男は『怪力の加護』持ちの『王国の盾』と呼ばれたスクトゥム様です」


「え?あの岩が?スクトゥム様っておとぎ話の人ではなくて?」


「ははは。まあ、伝説ですよ。門の装飾も一人の女が作り上げたらしいです。門の横の彫細工。あれです。一人で彫ったんだってことですが。女は『彫刻の加護』持ちのエフィギエス様。『オーランドの花』です。王都を作る時に必要な材料はドラゴンに運ばせたとかなんとか。創造神話に出てくる『白き門』の話。それが、この門って話だということですが。まあ、本当かどうかは、女神様のみぞ知る、ですね。それにそんな有名な『加護』はおとぎ話の中だけで」


「ブロンさん。そのような『加護』持ちが私のパーティーにいればあっという間にSランクになれますね」


「ジャニス。『蒼い輪』のパーティーの評判は良いじゃないか。スペンサーでは売れっ子だろう?」


()()()()()()()、ですよ。やっとCランクに上がったんですから」


「悪い意味で言ったんじゃないんだけどなあ」


「ええ、分かっています」


ブロンさんと冒険者のジャニスさん達が話している横で、私は再び口をあんぐりあけて門を見てしまい、周りからも笑い声が上がった。


慌てて口元を抑えるが、もう遅かった。


「お嬢、やっと着きましたね」


「ブロンさん、ジャニスさん、王都迄、有難うございました」


「さ、身分証と旅券を準備して。門番が身分証と旅券、名前、顔を確認しますからね」


ブロンさんの声に皆が返事をし、私も「はい」と言って、首から下げた身分証と旅券を見えるように引っ張り出すと、パックさんがリンゴを投げてくれた。


「フレイヤお嬢さん、長旅だったね。お疲れさん」


パックさんは荷馬車で一緒に旅をしてきた護衛の一人。私の事を年の離れた妹を思い出す、と言ってよく世話を焼いて貰った。ポンっと投げられたリンゴをキャッチしては笑われ、若干遊ばれている気もするが、王都迄の護衛の人達も皆優しい人だった。


「パックさん。有難うございます。皆様にはお世話になりました」


「いいや。何事もなくてよかったですよ、こんなに平和な旅も珍しいですが。護衛の仕事としてはブロンさんには申し訳なかったかな」


そう言って、ジャニスさんは腕を伸ばすと、胸元に着けているギルドカードを取り出していた。


「いやいや。あんた達がいるから無事だっただけかもしれない。無駄な事なんてない。平和が一番。金で買えれるなら安全、平和は安い物だよ。今後も宜しく頼むよ」


「そう言ってくれると有難い。また声を掛けて下さい」


「勿論。帰りは三週間後ベニス経由でスペンサーに戻る予定なんだ。良かったらまた護衛してほしいけどな」


「三週間後か、うん。私達も王都で依頼をこなしてスペンサーに帰れるので、丁度いい。連絡をお願いします」


二人が話しをしていると私達の順番になり、ブロンさんが門番に身分証を見せると門番が荷馬車の中を覗き込んで来た。


「各自、名前と旅券、身分証を。荷は布が主だな。ダンバードからスペンサーを通ってか」


荷馬車の主のブロンさんが「ええ。その通りで。街道の村に立ち寄ってきましたので、この日数になります。ダンバードのフリンツ商会のブロン。こっちは見習いのダイキです。これが通行許可証です」


チラリと許可証を見て、私達の方を門番さんが確認していく。


「護衛はCランクの『蒼い輪』か。全員で七人か」


「はい。自分とダイキ、護衛四人、スペンサーから女性が一人の計七人です」


「うむ。積み荷は問題ないな。皆、顔を。身分証と旅券を見えるように。名前を各自申告してくれ。うん?女性?」


冒険者のパックさん達が所属ギルドと名前と年齢を言い、門番さんは確認しながら頷いていた。門番さんの顔が私の方に移り、私は礼をしながら、旅券と身分証を見せた。


「スペンサー領から、フレイヤ・スペンサー。十八歳です」


「…うん、うん、うん?十八?フレイヤ?スペンサー?ああ、女性…成程な。通っていいぞ」


「有難うございます」


私は再び礼をして、身分証を返して貰うと王都へと入った。


大門を通り過ぎると、「くくく」と馬車の手綱を引いているブロンさんが笑った。


「まあ、普通はあの反応ですよ。貴族の御令嬢がこんな馬車でそんな恰好で王都に入るとは思わない」


「そうは言っても動きやすい男の恰好した方が良いって教えてくれたのはブロンさんでしょ。ねえ、オーガス」


私が馬車を引いている馬に話し掛けると、オーガスから「ブルン」と返事を貰った。


「くくく。そうですがね、それ、マシュー坊ちゃんの服でしょ?良く似合ってますよ。マシュー坊ちゃん、また背、伸びてましたね、伯爵に似て大男になりますよ?くくく、お嬢は、ちっとも伸びませんでしたね」


「マシューが小さいままで私が大きくなるよりも、マシューが伸びてよかったんです。シンシアはお母様に似てるのでシンシアも背が高くなるかもしれません」


「ああ、前伯爵もすらっとして背が高い方でした」


「お母様のお婆様が小柄だったらしいので私はきっとお婆様似ですね。髪の色だけはお母様ですけど」


「いや、お嬢が一番、前伯爵様にそっくりですよ。髪も綺麗な薔薇色ですしね」


「有難う、ブロンさん」


ブロンさんは寂しそうに私の真っ赤な髪を見ると頷いてくれた。


「じゃあ、お嬢、気をつけて。伯爵様にはすぐに連絡してあげて下さいよ」




馬車から降り、ブロンさん達と別れを告げ一人になると大通りの片隅で私は王都の人の多さに驚いた。



「この通りをまっすぐでいいのよね?」


私は王都の人ごみの中を縫うように歩いた。何処からか聞こえる音楽や、終わりのない人の喋り声、領地では見る事のなかった人の多さに圧倒された。


キョロキョロと辺りを見回しながらゴールド探偵事務所を探すが、あまりの人の多さに自分がどちらに進んでいるのかも分からなくなる。


どこかに目印なんかがあるといいんだけど。ないな。


地図を睨みながら、王都の大門をなぞり、中心に向かう大通りを指さす。私が持っている地図は観光向けで、大通りなどが大きく書いてあるだけだ。


早くゴールド探偵事務所に行き、お母様の遺産の確認をする。遺産が現金ならば、すぐに王宮で手続きをして相続の変更手続きをする。そうすれば、上手くいけば借金はゼロになって、その上お金が入って来るかもしれない。


「ルーンさえ手に入れば…。変態蛙の花嫁にならずにすむ…」


そう思っていると、「それはどうかな。ぐふふ、ぐっふっふ」「おーほっほっほ!!!マシューは貰ったわ!!」と、セットで笑う蛙伯爵親子の顔が浮かんでしまった。


「変態親子!絶対阻止!」


ブルっと震えて私は顔を上げた。



私は片手で帽子を押さえ、大きなバックを抱え直し、人にぶつからないように隅に隅にと歩いて行った。


暫く歩き、自分がいる通りの名前を確認しようとするが、看板等も見当たらず通り名を書いた物も見つける事が出来ない。辺りを見回しながらも、歩いているうちにどんどんと人に流されてしまい、王都の門から今どういう風に自分が歩いてしまったのか分からなくなってしまった。



「あそこに見えるのが大門?」



私がネックレスを握りしめて困っていると、ひょいっと男の人が後ろから地図を覗き込んで来た。



「坊ちゃん、迷子かい?何処に行きたいの?」


「え?あ、あの。この住所にいきたいのですが。ご存じですか?」



私は大きなカバンからメモ帳を取り出して、男の人に見せた。男の人は私の事を男の子と思っているようだ。訂正する必要もないので、そのまま道を聞いてみた。



「ああ。そこなら、この大通りをまっすぐ行って、で、緑の屋根の建物見えるだろ?あそこを左に曲がって。で、まっすぐいけばローズストリートだ。坊ちゃん、綺麗なネックレスだね。おや、背中にゴミが付いている。ちょっと後ろをむいてごらん」


「御親切にどうも」


私が後ろを向くと、「ふんふん」と言って、男の人がネックレスを外していた。


「え?あ、あの?ネックレスは外さなくていいんですけど?」


男の人は手に持ったネックレス光に透かすと「まあまあだな」と言って、ポケットに入れた。


「え?」



私が急いで男の人のポケットに手を伸ばそうとすると男の人はニヤッと笑って「タダで教えてやるわけないだろ。手間賃だよ」と言って、あっという間に人ごみに消えてしまった。



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